第111話 公都への帰国

あちこちへの挨拶なども終え、用意の整ったという外交官と一緒にレオ、ベラ、フィロ、シュテアはコリピサ王国の王都メッロから、ルングーザ公国の公都ルンガルへと向かう。


当初の相談通りに、レオたち4人は騎乗するつもりでいたが、外交官が宰相ホレイモンの息子になり彼からの説得でレオだけ馬車に乗ることになった。公国に対しての謝意が伝わらないと泣きつかれたので仕方なく受け入れた。

レオは流石に揺れる馬車で写本の作成などはできないので、王都だけでなく途中途中の街で追加購入した薬草や薬瓶を用いて高級品の魔法回復薬の調合を繰り返して習熟度合いをさらに高める。

それだけでは暇なので、ベラたちにこっそり捕まえて来て貰った角兎に対して、中級の悪魔魔法≪病≫と上級の神霊魔法≪病治療≫を交互に発動することでの習得や習熟を行っていく。もちろん誰かに見られた時のために、ハイオークの従魔の証を一緒において置き、従魔魔法の研究と言い訳するようにしてある。


一方、やはりフィロは馬車では我慢できないというので、ベラとシュテアが付き添って街道から離れた森などに狩りや訓練に行き、戦馬バトルホースの足の速さを活かして必要なときには合流してくることを繰り返した。

外交官たち王国のメンバも、もう護衛契約は完了後の相手であるので何も言わないでいてくれた。


ベラとフィロには、砦で苦労したこともあり火魔法だけでなく水魔法も習得を進めて欲しくて、≪氷槍≫≪氷結≫のスクロールを多めに渡して習得して来て貰う。やはりスクロールによる実体験は習得に効果的なようでありその成果も現れる。

シュテアには同じく水魔法でも習得済みであった≪水生成≫の次に便利な初級≪洗浄≫と中級≪氷刃≫のスクロールを渡して習得および習熟をさせておく。



内戦で王都メッロまで軍勢として西進してきた道を、今度は好きなことをしながらのんびり東進するのである。ふと平和のありがたみを感じるメンバであった。

馬車で遅いとはいえ、軍勢の歩みよりは余程速くルングーザ公国への国境まで到達し、その後も順調に進み、何事も無く公都ルンガルに到着できた。



他国であるコリピサ王国の外交官と一緒に来ているので、まずは彼らが来賓用宿舎に到着するのを見届け、翌日午前に登城しての挨拶と確定したところでいったん王国メンバと分かれる。

レオたちは濃紺ローブを脱いで第3公女マルテッラの館に向かう。

レオが居ない間の公女の護衛は問題なかったことを聞いて安心する。やはり諸悪の根源であった第2側室や第4公女が居なく、コリピサ王国がちょっかいをかけられる状況でなく政権交代したからであろう。

「やっと帰って来たわね。色々と活躍したことは何となく聞いているわ。詳細な報告は明日に一緒に聞くから、仲間のお家に帰ってあげなさい。先触れで到着日を聞いたことを、彼らにも伝えているから」


公女の計らいに感謝して、元々はレオが借家として借りた家、そのレオたちが不在の間は先輩冒険家のエルベルト、カントリオ、メルキーノの3人が住んでいるはずの家に向かう。

「レオ、ベラ、フィロ、お帰り!」

「「お帰り!」」

「「「ただいま!」」」

「お、もう1人はどうした?」

経緯があって仲間に増えたとだけ説明してシュテアを紹介する。シュテアにも、何かとお世話になっている先輩冒険家3人であることなどを説明する。

「どうぞよろしくお願いいたします」


「このまま帰ってこないのかと心配していたんだぞ」

「そうなるとこの家は居心地が良いから、そのまま貰ってしまおうか、なんて言っていたぞ、こいつ」

「余計なこと言うなよ!」

「ははは」

新しい引っ越し先まではまだ見つかっていないが、取り急ぎ母屋はレオたちのために空いている、自分たち3人は離れにまとめて移ってある、と状況を説明される。レオたちのバトルホース4頭も馬屋に入れられる空きもあったので、今晩はそのまま泊まることにする。


皆に夕食の買い出しに行って貰っている間に、レオは公都のピエモンテ商会の店舗に足を運び、アンテオの名刺メダルを見せて魔法回復薬の納品を行い、陳列している商品を鑑定させて貰い、さらに羊皮紙も大量に購入しておく。自由な狩りにしばらく行けていないのでベラと一緒に羊皮紙を製作できていないのに、写本やスクロール製作に大量に消費するからである。そしてもう1つ、今の借家の大家のところに行き、王国で少なくてすまないと言われながら貰った膨大な貨幣の一部で買い取りを申し出る。


7人で夕食パーティーをしている際に、この家を買い取った旨をレオは発表する。万が一レオに何かあったときにベラ、フィロ、シュテアは少なくともここに帰って来て暮らしに不自由することは無いようにと思ってのことであるが、口には出していないのに皆に理解されてしまう。

「レオ様のことは私たちが守りますので!」

「俺たちも居るからな!」

湿っぽくなりかけた場を、さすがのエルベルトが空気を変えてくれて楽しい食事会に戻るのであった。

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