第108話 砦の後始末
レオたちは敵味方への治療行為を終えた後にようやく休息を与えられる。その後は砦の発掘作業に対する初級土魔法の≪粉砕≫に期待もされたが、これ以上レオたちだけに手柄を渡したくないという派閥に、王都へ帰るように仕組まれた。
レオたちに特段の希望は無いため、もと怪我人たちと一緒に王都に戻る。
新国王になったスクゥーレ、宰相になったホレイモンにレオは呼び出される。
「砦においても活躍してくれたようだな」
「いえ、それほどは」
「謙遜をするな。結局のところこの政権奪取は、そなた達の助力が無かったら成し遂げられなかったか、もっと国民たちを疲弊させることになったであろう」
「はぁ」
「それでな、正直なところを言う。冒険者として雇用すると最初に頼んだが、それに見合う報奨を払えないのだ。砦から貴金属を、時間をかけて回収できてもどれだけの物があったのか。もちろんこれから順次回収して国庫の足しにしていくのだが。かと言って戦後にこれ以上は民から臨時徴収もできない」
「ホレイモン、横道にそれかかっているぞ」
「申し訳ありません。そこで、レオ殿、コリピサ王国からの爵位を与えることを報奨としたいのだ」
「しかし、私はルングーザ公国で既に爵位を頂いておりますが」
「ふむ、過去に複数国から爵位を与えられている事例もある。だがもちろんルングーザ公国に打診はするので、叙爵は待って欲しい。それまでは、取り急ぎ奪爵した子爵の館を与えるので、それで我慢して待っていて欲しい」
「はは!」
レオは新政権の官僚の案内に従って、ベラ、フィロ、そしてシュテアの3人と共に、王城から子爵の館に拠点を移す。
「レオ様、こんな立派なお屋敷を?」
「すごく広いよ!」
「それが、本当に貰っても良いのか。公国や公女様のご指示を仰がないと。とりあえずは必要最低限なところだけ使って、いつでも去れるようにしようね」
「かしこまりました」
「そうなの?残念」
というやり取りをしているころ、砦では不満を漏らしている軍閥貴族が。
「くそ、今回も手柄を取りそびれた。おかげでこんな焦げ臭い砦の後始末か」
「まったくですね。ただ、ここはもっと掘れば宝物が出てくるはずなのですよね」
「そうだな、こっそり貰っておくか……お前たち、急いでどんどん掘り起こすのだ!」
「燃えて脆くなっているので、性急に掘り起こすと崩れてきて事故が起きます」
「ええーい、お前たちは指示に従えば良いのだ!」
その悪い噂もすぐに王都に届き、ホレイモンたちはため息をつきながら、別の信頼できる者を交代のため砦に送る。
前国王のことも片付き、王都のならず者たちも始末がついて落ち着きを取り戻して来た頃、貴族達へ召集の声がかかる。
「いよいよか。俺はもともとスクゥーレ新国王と同じ伯爵だからな。侯爵になるかな」
「私も子爵でしたから伯爵ですかね」
各々の期待があり集まった謁見の間において、スクゥーレの玉座の横でホレイモン宰相が最初に宣言をする。
「国民を虐げていた前国王、その取り巻き共は排除することが出来た。しかし、無謀な侵略戦争の繰り返しなどで国家の財源はひっ迫している。そこで、前政権で民を苦しめていた者たちを基本は奪爵(だっしゃく)し私財を没収する。この度の戦で功労のあった者に一部は再配布するが、同数の維持は行わない」
その宣言通り緊縮財政のため、奪爵した貴族に比べて、新たに爵位を与える叙爵、爵位を上げる陞爵(しょうしゃく)は少なかった。ただし、国家運営上必要な大臣や各地の代官などの役職はある程度の数を指名することになった。
結果として、手柄をあげられていない、特に様子見から途中参戦して来たような貴族達は名前を呼ばれることも無かった。さすがにその場では不満な表情のみに留めるが、自身の館に戻るや否や不満をあらわにし侍従や侍女たちに怒鳴り散らす。結局のところ、国民を蔑ろにする思考や行動は同じだが、前政権においても重用される能力が無く無職であったのでたまたま討伐対象に居なかっただけのような者たちが、今回も手柄をあげられず下の立場の者に当たり散らしているだけである。
主には軍閥に多いこれらの貴族たちは集まり愚痴を言い合う。
「なぜ我々が評価されないのだ」
「俺もスクゥーレと同じ伯爵だったのだぞ!」
「俺は侯爵だったぞ!」
「ふん!こうなれば!」
「そうだな」
「よし!」
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