第107話 王都北部の砦2

こっそり逃げ出そうと抜け道に向かった文官を中心とした幹部たち。

「国王!何をしているんですか!?」

「お前たちこそ何をしている!?ちゃんと敵を迎え撃たんか」

「王太子、その剣は何ですか!?」

自分たちだけが逃げ出そうとする王家と幹部たち。それぞれが我先に狭い抜け道に進もうとするので、王太子が抜いた剣で脅しをかける。

互いに神経が高ぶっていた中で、どちらの陣営からともなく物が投げられたのがエスカレートしていき、王国魔術師団の幹部であった者たちが魔法の発動を行なってしまう。そうなると歯止めが効かなくなり、狭い通路で燃え上がる炎に妻子からの悲鳴があがり剣戟の音がかき消される。


砦の外を取り囲み城門へ火魔法を放っていたレオたち新政権軍は、砦の中から煙があがるのをみる。

「おい、砦の中で何か騒動が起きているみたいだぞ」

「自ら火を放つことでこちらの隙を作るのかもしれない。油断するな!」

「火の手は東門に近いぞ。あちらにも人員をまわせ」


「おい、だんだん中の火の手が強くなっているぞ!」

「あ、城門が開くぞ!油断するな!」

「待ってくれ!助けてくれー!」

レオたちが火をかけていた城門を開けて、その向こうから火にまみれた将兵たちが転がり出てくる。何とかこちら側にやって来る者もいるが、そのまま炎の中で倒れ込む者も居る。その様子を見た将官から助命指示が出る。

「火を消せ。投降者を救うのだ!」

「このまま砦が燃えると、宝物が回収できなくなる!消火に切り替えるのだ!」

レオたち魔法使いは火魔法から水魔法に切り替えて消火にあたるが、自分たちの火魔法だけならまだしも砦の中で勝手に燃え上がった炎には手こずる。

西門と南門にしか魔法使いを配置していなかったので、東門から逃げ出して来た者たちへはなおさら対処ができていない。そのなかで、城門からは少し離れた森の岩の隙間から煙があがる。

「おい、あれは何だ?」

「怪しいな、見に行くぞ!」

先ほど増員された東門への新政権軍の一部が様子見に行くと、岩陰に抜け道の出口があったようで、火傷でボロボロになった数人のみが転がり出てくる。武器も持っていないが、念のために捕縛することになった。


近くに川などが無いため、燃え上がった砦の炎は井戸の水程度ではどうしようもなく、レオたち魔法使い達の水魔法を頼りに消火活動が行われた。騒動の合間に逃げ出す者が居ないように見張られた上で、投降して来た者たちを集めて事情聴取が始まる。レオたちは消火活動を終えると、重傷者から順次治療行為に移る。西門から駆け出した騎兵数十騎にやられた以外は新政権側で大きな被害はなく、主に火傷による重傷者は旧政権側ばかりであった。


事情聴取や新政権でも幹部による面通しにより命が助かった貴族は少ないことも確認され、王族や上級貴族たちは砦の奥で死亡したと推測される。事情を知っていそうな一部の上級貴族を連れて、王城から持ち出されたはずの王冠や宝物などを探しに砦の中に散策に入るも、それらしき物が見つからない。抜け道側で助けた者の話から、王族たちが抜け道に抜け出そうとした際に貴重品を持ち出そうとしていたようだが、抜け道のがれきの下か燃えてしまったか、と思われた。

「貨幣や王冠などの金属類は燃えカスにならない。あっても融けるだけだ。捜索を続けろ!」

森側から抜け道に入ってもがれきが道をふさいでいた。砦側から地下に進むと誰が誰であったか不明なほど焼け焦げた死体が数量も数えられない形で残されていた。ただ手前の方には金が融けたような塊が少しだけ見つかった程度で、それ以上はがれきで進むことが出来なかった。


新政権側の幹部は集まり今後の対処を議論する。

「つまり、砦の地下に多くの宝物が残っている状態ということだな。元の形か融けているかは不明だが」

「はい、おそらく融けているとは思われますが」

「勝手な盗掘を防ぐため、信頼のおける者に警備させるとともに、採掘作業を進めないと新政権の財源が……」

「王都に報告と合わせて応援要求の使者を送ります」

「投降者も王都に送らねば……」

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