第106話 王都北部の砦

王都北部にある砦で怒りに任せた大声が響き渡る。

「われは国王であるぞ!いつまでこんな小さな砦で、こんな食事なのだ!リブレント王国からの返事はまだか!?」

「リブレント王の弟には、国王様の妹君が嫁がれています。きっと良いお返事が来るかと」

「そうだろう!それにしても、あの黒ローブの連中め。あいつらがハイオークを街中に放ったから住民も怒ったのに、もう手伝わないと言いやがって!おかげで住民の居る街には行けなくなったではないか」

「所詮は悪魔教団の傭兵連中。あまりあてにされなくても。国王様には我々王国の幹部がついております」

「そうであるな。それに、マストヴァの小倅め。リブレントの支援を得たらさっさと王都を追い出してやるのに」

「王冠などはすべてこちらにありますので、あいつらは単なる賊です。諸外国も正当性はこちらと認めるでしょう」



「父上!大変です。砦が取り囲まれています!」

「リブレントの援軍ではないのか?」

「いえ、あれはマストヴァなどコリピサ王国の貴族たちの家紋です……あの数には太刀打ちできないかと」

「こうなれば、抜け道からリブレントに亡命するぞ。こっそり家族だけ集めて来い!」


一方、城門付近では砦を囲んだ新政権から投降勧誘がなされている。

「我々はコリピサ国民のため立ち上がられたスクゥーレ様の使いである。国民を蔑ろにしていた前国王及びその一派は速やかに投降するように!」

「逆賊が何を言う!正当性はこちらにあることを諸外国は認めるぞ!」

「その諸外国とはいずこに?救援の姿も見えぬが?」

「下民が黙れ!黙れ!!撃て撃て」

怒りを抑えられない前政権の幹部が少ない矢や、初級程度の魔法を砦の上から撃ち込んでくるが、口上を述べていた新政権側の使者は、ベラたちの≪風盾≫だけでなくレオの≪結界≫で守られていたため被害はない。逆に、弓兵や魔法使いの位置が判明したことにより、レオたちの≪豪炎≫≪炎壁≫の攻撃対象となり、砦の城門の上で燃え上がることになった。


その勢いのまま城門も燃やしてしまえという新政権側からの応援?に従い、レオたちだけでなく王国魔術師隊の皆で≪豪炎≫≪火槍≫などの火魔法を城門に向ける。砦内には持ち逃げされた宝物があるはずなので、火魔法は砦内には撃ち込まないよう事前に指示がされているため、魔法制御に自信がない者には城壁の上は狙わせずあくまでも城門のみを対象に魔法攻撃をさせている。

この砦は、北は切り立った崖による壁面であり、東は森につながるため、新政権側も東の森には少数で、ほとんどが南門と西門に集中している。類焼が怖いため、魔法部隊も南門と西門にだけ魔法攻撃を行っている。レオたち4人が南の正門、モデスカル以下の王国魔術師隊が西門である。


旧政権でも軍閥で強気な者たちが従騎士を含めて数十騎、西門の裏で集まっている。

「このままではジリ貧であり、いつか城門も破られてしまう」

「そうだ」

「賊たちの意表をついて、こちらから城門を開けてこの数十騎で敵を蹂躙し、可能であれば囲いを破って逃げてしまおう」

「そうだな、東の森は馬で走れないし、南は敵陣の真ん中。このまま西に突っ切れば逃げ切れるかもしれないな」

「よし、やろう!」

モデスカルたちの魔法攻撃に少し隙ができた際、急に城門を開いて数十騎が飛び出してくる。新政権側は油断しきっていたこともあり、魔法使い達の前で盾を構えていた歩兵も含めて臨機応変な対応ができない。それでも盾による防御が少し効いて足止めしている間に、その騒ぎに気付いた南門側のレオたち4人が駆け付ける。


「逃がすな!」と言う声に従い、西方面への逃亡を妨害するように≪炎壁≫を作ることで旧政権の騎兵たちの逃げ場を無くした上で、南側から攻めあがる。これにより騎兵たちは東の城門内に逃げ込むか北の崖の手前までの限られた空間に逃げるしかない。しかし、城門は仲間たちが既に閉めてしまった上に、先ほどからの火が残っているので馬が怖がることになる東には進めない。仕方なく北に逃げて行き追い詰められて、残った者たちだけが降伏することになった。

途中途中に戦闘不能になったり馬が怪我をして乗り手を落馬させてしまったりという者たちも、新政権側に順次捕縛されていく。



旧政権の幹部でも文官を中心に肝が据わっていない口だけであった者のなかには、彼我の火力差におびえてしまっている者たちが居る。

「投降してしまった方が安全なのでは?」

「あの下民どもに下るのか?」

「ではどこに逃げる?」

「この砦に来たときに調査済みだ。この砦にも抜け道が作られていたから、そこに行こう」

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