第104話 王都メッロ2

王冠や宝物等が前国王たちに持ち出されていたことに衝撃はあったが、それでもできる取り急ぎの対応について話し合う。


その結果、王都の外に残して来た軍勢のうち、主要な貴族だけを入城するために呼び寄せる。その集まった貴族達を前に、謁見の間でスクゥーレが国王に就くことを宣言して玉座に座る。本当は戴冠式をしたかったが王冠が無く恰好がつかないのと、そのことをあまり広めないためである。

そして、主要な役職だけこの場で命令し、その他については順次とスクゥーレが言い切る。現段階では、ホレイモン・ダラムを侯爵に陞爵(しょうしゃく)させた上で宰相に任ずる。その他として、財務状況を含めた現状把握のための内務大臣、諸外国へ新国王になったことの対応等のための外務大臣、王都警備のための将軍、前国王討伐のための将軍だけを、テソットの街から一緒に来た幹部に対して指名する。

勝ち馬に乗るために後から合流して来た軍属の貴族たちは自身がその将軍に選ばれなかったことで明らかに不満そうな顔をしたが、テソットの街からの貴族でも何も指名されないぐらい少ポストのみの設定であったので、落ち着いたときにこそはと我慢しているようである。


コリピサ王国の運営において実務を行っていたのは文官も武官も身分の低い者が中心であり、上層になればなるほど能力のない者が王家や有力貴族への賄賂など、悪徳商人などとの癒着などで就いていたことは周知の事実であった。そのため逃げ出した上層部の代わりとして、流石にここまで少人数のトップだけの指名では同等業務が遂行できるわけではないが、最低限の業務再開に支障はそれほど出ないようである。


王都警備将軍と前国王討伐将軍は、まず王都内のならず者たちの処分による王都の平穏化と、前国王の逃亡先の調査に注力しながら、王都前に設営した陣営で再編を行っていく。

町の一角を占拠していたならず者たちの戦闘力程度では、正規軍を中心とした冒険者や志願兵に太刀打ちできるわけがなく、王都は次第に落ち着きを取り戻していく。それと並行してスクゥーレが王都内を巡回し、新国王に就任して新政権を樹立したことを触れ回る。


数日もしないうちに様々なことの報告が上がってくる。

まず想像していたように新国家の財政状況が非常に厳しい状況であり、王城に残された兵糧も非常に少ないことが分かったため、軍の順次解散を行う。まず住民による志願兵には労いと家に帰るまでぐらいの食い扶持を与えて解散していく。続いては貴族たちが雇用して来た冒険者たちである。これ以降の雇用は不要でありそれに応じた報奨を各貴族に払わないとスクゥーレ達が宣言したことで、そこまでの報奨を各貴族が冒険者たちに支払い、冒険者たちは解散していく。残るは、貴族とその従騎士・従士、そして各街からの衛兵たちである。衛兵は志願兵と同様に元の街に戻るまでの食い扶持を与えて解散させる。貴族とその従騎士・従士はもともと領地持ちが居ないコリピサ王国においては、ほとんどが王都に拠点がありそこに戻らせる。地方の代官などで王都に拠点が無かった極少数は王城の端にある王国軍の施設に収容する。これにより、王都周辺に設置していた陣営も撤去でき国家として兵糧負担をする対象は大幅に削減することが出来た。

ちなみに、今は王家となったスクゥーレが直接雇用をしていた冒険者レオたちは継続雇用とされ護衛として王城内に居室を与えられている。


指揮権が再整理された新国王軍の中において、扱いが難航したのが魔法使い達である。

もともとコリピサ王国にも王国魔術師団があったが、上級以上の魔法使いは数が少なく、団長たち幹部は王家の腰ぎんちゃくであり使える魔法も低級のみの者も普通に居た。たまに居た上級魔法使いでも身分が高かった者はほぼ傲慢で、例えばテスケーノまで来ていた上級魔法使いは恨みを買っていたからか、混乱の中で既に死亡していた。団長を含めた幹部も逃げ、残ったのは身分が低い者だけ、上級が2人のみで後は中級以下である。これはテスケーノから合流した上級魔法使いモデスカルを含んだ数字である。

優れた魔法使いが勝敗を左右することをこの内戦で十分認識した新政権は王国魔術師団を再編したいが、流石に団長に身分が低い者をあてるには現段階では反響が大きすぎると判断する。そこでモデスカルをいったん魔術師隊長と仮置きして、宰相の直轄部隊とすることになった。王都護衛将軍や前国王討伐将軍のどちらかだけに所属させるわけにもいかないからである。

その上でレオたち4人に、モデスカル隊長の支援として王国魔術師団の拠点に残された資材、財産の確認を頼むことにした。


レオは喜んでモデスカルたちと王国魔術師団の拠点であったところに向かうのだが、内心やっぱりか、と思ってしまう。ルングーザ公国でもそうであったが、騎士団に比べて魔術師団の拠点規模が小さかったのである。その小規模拠点のなかで残っていた団員の案内で資材の確認を行う。目ぼしい物は、魔導書、触媒、魔道具であったが、触媒も中級までぐらいであり、魔道具はほぼ魔法発動体であり残りも初級魔法が刻まれた程度であった。もちろんレオは≪鑑定≫魔法も活用しているため間違いはない。

期待した魔導書も上級以下であり、それより上の王級などは宝物庫にあったのか団長たちが逃げ足すときに持ち出したのか元々なかったのか誰かがこっそり売り払ったのか、残されたメンバでは分からないという。かろうじて残されていた上級の魔導書は、6属性それぞれで≪火槍≫≪炎壁≫、≪雷撃≫≪浮遊≫、≪氷槍≫≪氷壁≫、≪岩槍≫≪石壁≫、≪大照明≫、≪大夜霧≫であり、レオにとって初めてである≪浮遊≫≪石壁≫≪大照明≫≪大夜霧≫を確認できたのは収穫であった。それぞれ、名前の通りあくまでもフワフワと浮くだけで飛び回れるものではないもの、石でできた壁を生成するもの、中級≪照明≫は家1つ分ほどであったが訓練場1つ分ほどを明るくできるもの、中級≪夜霧≫は1パーティーほどを暗い霧で隠すものであったが訓練場1つ分ほどを暗い霧で隠すものである。

それ以外の魔導書は中級以下の各魔導書も含めて特に目新しい物はなったが、それらも含めて居室に戻った際にこっそり写本を作成することは当然のように実施している。

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