第103話 王都メッロ

軍の再編を終えると、またスクゥーレの宣言で王都に進軍を開始する。いよいよ現国王が居る王都である。

テルセーナの街でも志願兵などが増えて3万人以上となった軍勢であり、ほとんどが徒歩なため非常にゆっくりとした移動になる。


レオたち4人は本陣近くで護衛として騎乗して移動しているが、徒歩に合わせてなので同じくゆっくりであり、正直フィロが暇を持て余している。流石に周りに聞こえない程度の声で暇を訴えるので、魔法の練習でもすれば?と軽くレオが言ったのに対して、シュテアが本気にして、自身の回復魔法の練習にフィロを誘う。シュテアは何とか初級≪治癒≫が出来るようになった程度であり、他人の怪我の治癒で相手の魔力と波長を合わせて動かすところの習熟が足りていないのである。

フィロに小さな傷をつけてそれをシュテアがすぐに直す練習である。同じ相手ばかりでやると魔力波長も同じなので、ベラやレオと順にかえていき、傷もだんだん大きくして中級≪回復≫にまで進んだ後は、流石にこれ以上は周りの目もあるし、と終了させる。

それ以上については、体の中での魔力循環や空の魔石への魔力注入など、他人から見ても目立たない訓練で時間を過ごさせる。



そうこうしていると、王都メッロの手前まで軍勢もたどり着きある程度の距離を取った上で設営に入る。

しかし、都の様子が何かおかしい。覇気が無いというか軍勢を迎え撃つ気配が感じられない上に城門も開いている。

「すぐに斥候を出すのだ!」

何かあったときのために複数、3人を騎馬で城門前まで送り込むが、矢を射かけられたりすることなく、逆に衛兵らしき者たちが門から出てきて迎えられる。

「ようこそお越しくださいました」

「どういうことですか?」

「王家や貴族などは逃亡してしまいました。今の王都は支配者が居ない状態です。一部ではならず者が幅をきかせて無法地帯になっているところもあります。我々衛兵も大通りなどの治安を守ることで精一杯でして」

「すぐに上の者に報告してきます!」

3騎のうち1騎のみが陣営に戻り今の内容を報告する。


「罠ではないのか?」

「そうは言っても、このまま王都に入らないわけにもいかないだろう。先発隊を出そう」

「雑兵を送り込めば良いだろう?」

流石に志願兵だけで進ませるわけにはいかないので、武官と文官の若手数名ずつが数百人の下級兵や志願兵を率いて城門から中に入る。その様子を見た、手柄を取り損ねていた軍属の貴族が我先に王都に乗り込もうとするのをスクゥーレが制止する。

「我々は王都に向けて攻め登って来たが、王都を略奪するためではない!これから我々が支える王都民に乱暴をする者は首をはねる!!」

と、テスケーノの街のときと同様に住民への横暴に対する厳罰化を宣言したため不要な騒動は発生していないが、クーデター軍の中でも一部に不満な顔の者たちがチラホラ見かけるようになる。


スクゥーレ達テソットの街からの幹部たちはそのような反応は覚悟しており、彼らに王都内で暴走させないように、先の数百名以外では自分たち1,000人ほどの将兵だけで王都の中心部を目指す。城門から王都に入っても攻撃を受けることが無いだけでなく、住民たちからの歓声に迎えられる。

「スクゥーレ様!お待ちしておりました!」

「民草のための新しい王政をお願いします!」

スクゥーレは周りの制止も振り払い、馬車から身を乗り出して顔を見せ

「これからのコリピサ王国もよろしく頼むぞ!」

と声をかけて行くので、ますます歓声が大きくなる。


王城に隣接する貴族街にまで進むと住民の歓声も無くなるが、そこでも反撃を受けることなく静まり返ったエリアを進み、威厳のある城門に到達する。

王城内にはさすがに何かある可能性もあるため、スクゥーレ達は入口にとどまり数百人に王城内を探索させるが、城内にとどまっていたのは行き場のない身分の低い侍従・侍女たちだけとのことであった。

スクゥーレがレオたち護衛も伴って謁見室など中心部に向かうのに合わせて、待機していた他の人員にも城内の再捜索を並行させる。特に宝物庫や後宮などへの探索には信用できる幹部たちに引率させる。


反抗勢力に遭遇することなく謁見の間に到着したスクゥーレ達がそのまま待っていると、続々と報告が上がってくる。

「宝物庫は扉も開いていて、中身が空で誰も居ませんでした!」

「官僚たちの執務室にも幹部は居ませんでした。残っていた者に確認すると、機密文書などは幹部が持ち出そうとしていたのですが、さらに慌ててそのまま放置していったようです」

「後宮にも高い身分の者は残っていませんでした。王族などは身近な貴金属や服など取り急ぎの一部だけ持ち出して行ったそうです」

「大変です!どこにも王冠が残されていません!戴冠式に使用する儀式用王冠や錫杖等もです!」

「!!!……」

「気落ちする暇はありませんぞ!まずは王都内のならず者たちを一掃し、前国王たちを追いかけなくては。どこに逃げたのかの情報収集を」

「いや、まずは形だけでも戴冠式を。正当性はこちらにあると宣言しておかなくては。諸外国にもその通知を」

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