第97話 シュテア
代官館の自室に戻ると、魔法の袋にしまったままであった黒ローブ2人の装備品を取り出して並べだす。
黒ローブ、銀の六芒星の模様の仮面が2人分ずつ、魔法発動体の杖、短剣も2人分。
それ以外は各々が所持していた腰袋ぐらいであったが、その中身を取り出そうとして驚く。共に中が拡張された魔法の袋であった。シュテアの方は本人に聞くと1立方メートル程度ということでレオたちのと同等品だが、教官役の方は1辺が5mの立方体ぐらいの大きさでご自慢だったらしい。
シュテアの腰袋には小銭と生活用品程度しか入っていなかったが、教官役の方は生活関連以外に目立つものとして、金貨や銀貨が多数入った貨幣の布袋、小分けにされた魔法触媒らしきもの、黒表紙の本が2冊であった。
シュテアの説明によると、教官役は近接戦闘があまり得意ではない代わりに、上級魔法使いであったとのこと。短剣は≪睡眠≫の魔剣であり、小さくでも傷をつけた相手、特に低ランクのものを≪睡眠≫魔法で眠らせることが出来るという。子供をさらうときなど騒がれずに便利と自慢していたよう。触媒は見覚えがあるものばかりで、火風水土の4属性それぞれのものとのこと。教官は魔法を使うとき詠唱を使い、たまに触媒も使っていたらしい。教官が使えた魔法は、≪火槍≫≪豪炎≫など火魔法と≪毒≫≪呪詛≫≪魅了≫など悪魔魔法が主で、風水土光闇などの他属性の魔法は詠唱や触媒を使ってようやく、だった模様。
その教官に教えられたシュテアが使える魔法は詠唱を用いた≪種火≫≪火球≫だけとのこと。人並の文字や計算などはできるが、武技は指導できる者が居なく未習得。
レオ個人としては魔法の袋や魔剣も気になるが、それ以上に気になる2冊の本について最後に聞く。
「これは?」
「はい、悪魔魔法の魔導書です。薄い方が悪魔アクティムとの初級≪契約≫中級≪召喚≫、少し厚めの方が初級≪毒≫≪睡眠≫、中級≪呪詛≫≪解呪≫、上級≪魅了≫です。私は指導されても≪契約≫も≪毒≫も習得できず、出来が悪いと言われ続けていたのです……彼も≪召喚≫はできなかったようですが」
魔導書が気になるが代官館で悪魔魔法のことをどこまで話して良いのか分からない。
教官役の物であった魔法の腰袋、短剣、魔法発動体の杖、触媒、貨幣、そして魔導書等はレオが持つことにし、もともとシュテアの物だった物は魔法の腰袋も含めて全てシュテアに渡す。
「よろしいのですか?」
「うん、それでも足らない物は今から買いに行こう」
「足らないですか?」
「これから一緒に行動する前提だとね」
まず魔道具屋に向かい、教官役の所有物であった魔法の腰袋や短剣などを鑑定して貰い、シュテアの認識が正しく、他に呪い等の面倒な物が付与されていないことを確認する。その上で、魔法発動体の指輪をシュテアのために購入する。
「え?杖がありますが……」
「そうだね、だけどこれから武器も持って欲しいから」
「???はい……」
良く分かっていないシュテアを連れまわし、彼女の体格や筋力に見合う厚めの衣服、ポーション用のポーチや革鎧(レザーアーマー)、片手剣(ショートソード)、小盾(スモールシールド)を調達する。シュテアより体格や筋力に劣るベラとフィロは短槍(ショートスピア)であるが、レオは片手剣(ショートソード)であり、能力はさておき少なくとも見た目はレオたち3人と同様で仲間らしくなった。
また登録されていなかった冒険者ギルドにも、初心者である木級冒険者として登録する。レオ、ベラ、フィロの新たな仲間であることも受付に説明しておき、ベラたちが付き合いながら短剣、片手剣と小盾の初心者講習を受けさせる。体格も筋力もあるので、最低限の使い方は直ぐに習得できたようである。
レオは薬草の調合をすると言ってその間に1人代官館に戻り、言い訳の分の調合は早々に終わらせた後、魔導書2冊の写本を作ってから読み込みを始める。
薄い方は天使グエンの≪契約≫≪召喚≫とほぼ同じであったが、もう1冊の方は初めて見る系統の魔術語が多く非常に楽しい。分かる範囲だけでも自作の辞書や字典に追記していく。
夕方になりベラたちが帰ってくる。
「シュテアってすごいのよ。初めてなのに剣も盾も上手く使えるの」
「そんなことないです。ただ体が大きいから楽なだけですよ……」
「いえ、講師の方も褒めてらっしゃいましたよ」
「そうか、それは期待できるな。では、夕食にしようか」
代官館で4人揃って食事をするが、シュテアは特異な環境に居たため奴隷が一緒に食事することがまずありえないという認識もなく、ただベラとフィロが構ってくれることに嬉し恥ずかしな状況だけが続くのであった。
シュテアはベラとフィロの部屋にベッドを追加で用意して貰い、そちらで寝るようにさせる。
レオは翌日に北の森まで新メンバを交えた訓練に行きたいことをホレイモンに相談したところ
『もしや見切りをつけられてそのまま逃げ出すのでは?いや、それならわざわざこのように断ることなく勝手に行ってしまえる力はあるのだから』「戦力の底上げ、期待している」
と許可される。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます