第12話 追加の魔法習得実験

翌朝の食事の際に、ロドがアンたちにレオが魔法を習得したと大げさに言うので、父ディオ、母アン、兄クロの前で、あの少量だけの≪水生成≫をすることになった。

「なーんだ。それだけか」

とクロがつまらなそうに言うので落ち込むレオであったが、

「俺も最初はそんなものだった。これから練習すれば良いし、レオの記憶力ならば色んな魔法を覚えて行けるだろう」

とフォローしてくれる。


それからのレオの日課では短剣の投擲、素振りの練習よりも魔法発動に時間を割くようになった。

≪水生成≫については発動イメージをマスターしたので、試しに詠唱を無くしてみても、慣れなかった最初の2~3回以外はそれほど効果に違いが無いことが分かった。同じように魔術語自体の意識や魔法陣の幾何学模様についてもわざと意識しなくてもそれほど効果に違いは無かった。つまり、その魔法を習熟さえしてしまえば、発動するための工程もいちいち意識しなくて良いのであろう。消費魔力が抑えられる効果もあるというが、習熟が進むと差が無くなるという話もあるので、攻撃魔法の習得もしたいレオとしては無詠唱、魔法陣も無を基本としてみることにした。

触媒はまだ試していなく先日の魔道具屋にも販売されていたが、触媒は消耗品であることからいったん使わないで訓練を続けることにした。


その上で、せっかくなので魔導書の写本を所持している≪水球≫≪種火≫≪火球≫を試してみることにした。内容から、≪種火≫は水魔法での≪水生成≫のように火属性に魔力を変換する基礎との認識から、最初は≪種火≫にする。火なので何かあると危ないので、井戸の近くで、水を汲んだ桶も横に置いて練習をしてみる。

魔導書からは、≪水生成≫と同様に魔力を集め、火属性に変換し、火を生成するものであり、その魔術語「ignis(イグニス)-generate(ジェネラテ)」も理解している。緊張しながら、≪水生成≫のなかで水属性であったところで火属性を意識するような魔力操作を行い、

≪種火≫

と発動してみたところ、右手の指先に小さな小さな火を出すことに成功する。

勢いに任せて≪水球≫(aqua(アクア) -globus(グローブス))、≪火球≫(ignis(イグニス) -globus(グローブス))も試すが、それぞれ≪水生成≫≪種火≫と同じようなものがゆっくりと飛んでいくだけであった。詠唱をしてみても、既に無詠唱で行ったときに工程を認識できていたのか効果に違いは認識できるほどではなかった。発動の結果が期待通りでないのは、習熟が足りていないのか、魔法の発動イメージが足りていないのか。≪水球≫≪火球≫はいずれも直径20~30㎝ほどの球体が攻撃対象に短剣投擲等よりも高速で向かっていくという、魔導書に記述された魔法のイメージを繰り返し読み直してイメージを膨らませながら、練習を繰り返して習熟を深めるように努力する。



しばらくしてルネが仕事終わりの夕方に父ロドのところへ、レオの怪我の後の様子見にやってくる。

「レオは、もう大丈夫?」

「あぁ、すっかり治っているぞ。それよりも驚くことがあるぞ」

と隣家の庭に移動すると、レオが短剣訓練を終えて、続いての魔法訓練をしているところであった。

レオは右手を突き出して≪水生成≫≪水球≫≪種火≫≪火球≫と順次発動している。ルネはびっくりしてしばらく見ているだけだったが、

「何で怪我の様子見に来たのに、魔法の訓練なんてしているのよ!?いつのまに魔法使いになったのよ!?」

と集中していたレオを驚かせる。

「な、俺は≪水生成≫しかできないのに、レオは4つも魔法を習得したぞ。性能はまだまだこれからだが、きっと立派な魔法使いになるぞ」

とロドも褒める。

「家族の皆は、たいしたことないとしか言わないけど……」

とぼそぼそというレオに対して、ルネも素直に褒める。

「すごいじゃない!」

ルネに褒められたことが記憶にはないレオは驚き照れる。


「これならまたすぐに狩りに行けるね」

と喜んで帰って行ったルネ。レオが

「まだ狩りに使えるほどの性能は無いのに……」

という声は聞いて貰えずこのままではまずいと、短剣の自主訓練だけでなく冒険者ギルドで指導を仰がないと、と焦る。


翌日には、ルネから聞いたのであろうガスも顔を出しにきて、レオの魔法に驚く。ただガスはルネと違い、

「今のままだと前と同じになるだけだから、冒険者ギルドでもっと訓練をしたいんだ」

というレオの希望を冷静に聞いてくれる。

「分かった。ルネには俺から伝えておく」

と、次の休みに冒険者ギルドで訓練をすることを了承してくれた。

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