第8話 ガスパオロ

 俺の名前はガスパオロ。

 気がついたときには孤児院に居た。船乗りが港の女に産ませた子供が多いこの街では、俺もそういう両親の子供なのかもしれない。


 昔から体が丈夫で力もあったからか、8歳からの職業訓練では鍛冶職人のところに住み込みで行けることになった。誰も引き取り手が無いのに比べれば、熱い重い辛いという職場でも贅沢は言えない。親方も無口な男で、必要最低限なことしか話さないが、それなりに目をかけて育ててくれているのは分かる。

 親方の方針で、鍛冶職人は自分自身も冒険者としてその製品を使えないと、どういう物が望まれるのか利用者目線になれないということから、10歳になった俺も冒険者になることになった。親方もそうやって自分を磨いたらしいし、先輩弟子たちも冒険者と鍛冶職人の両方を鍛えている。ただ、先輩職人たちについて行くと成長が片寄るので、まったく別の仲間を見つけて冒険をするように指定される。


 普通は冒険者を始めるには装備代もかかるはずだが、親方が革鎧(レザーアーマー)、丸盾(ラウンドシールド)、片手剣(ショートソード)、短剣(ダガー)などのセットを揃えてくれた。片手剣、短剣は自分のところで鍛えているにしても、鎧や盾まで、である。ありがたい話だ。

 まずは冒険者ギルドに行き、木級冒険者として登録することから始める。続いて、片手剣と盾の使い方を訓練して貰う。本当は武技(アーツ)という、それぞれの武器に特化した技なども教われたらよかったのだが、それは時間も費用もかかるということで、まずは最低限の扱い方だけになった。お金を持っていない自分たちには、この育成制度は本当にありがたい。

 さらに近場ではどこが初心者向きかについても教えて貰えた。街から3時間ほどの草原の角兎(ホーンラビット)がおすすめらしい。E級下位であるのと、たくさんいるから冒険者同士が取り合いで揉めることもない、肉も手軽な割に美味しいので自分で食べても売っても良いとのこと。


 さっそく弁当を持って草原に行き見渡すと、確かに所々にホーンラビットも居るし、どこかでは駆け出し冒険者と思われる者たちが戦っている。そのうちに彼ら彼女らと仲間になるのかもしれないが、まずは自分の力を磨かないと仲間になって貰えないだろう。

 さて、1羽で居るのを見つけたが、攻撃はどうしたら良いのだろうか。下手に接近して不意打ちを狙っても気づかれるだろうし、弓矢や投擲の技術は学んでいなかったが、石でも投げて呼び寄せる方が自分の望む体勢で待ち構えられるから良いだろうか。まぁやってみるしかないか。


 何だったんだ、あの突進は。まさに名前の通りの角を使った攻撃というわけか。その後もなかなか素早い動きで苦労はしたが、耐久力はそれほど無かったのか、何度かショートソードで切りつけたらしとめることができた。ただ盾が無かったらかなり不安だし危なかったかもしれない。

 ギルドで教わった解体をやってみる。逆さまにして首から血抜きするのと、心臓付近の魔石と角を短剣で取り出す。内臓も取り出した後は慣れが必要らしいので、いったんそのままにする。

 次は自分から近づいて行って攻撃するのも試してみたが、近づく途中で気付かれたが、突進を受けることは無かったので、どちらが良いかは一概には言えなかった。そっと接近する技も身につける必要があるであろうし、投石など遠距離攻撃の手段も訓練する必要があるだろう。今日のところは前者を少しでも練習することにしよう。


 その後は昼食を除くと休憩しながら狩りを続け、切り良い10羽をしとめたときにはくたくたになってしまった。これ以上続けると致命的なミスをしそうだと思われたので、これで終了にすることにした。途中で見つけた小川で、武具についた血を落としつつ、兎の開いた腹の中を洗浄した。それ以上の解体は難しそうだったので、とりあえず10羽を5羽ずつに分けて括って持ち帰ることにした。

 調子に乗っていたが、帰る時間も踏まえるともう少し早く切り上げても良かったと思うぐらい、街に着くと暗くなっていた。そのまま冒険者ギルドに行き、討伐証明の角も含めて納品をした。解体するか?と聞かれるので、親分や先輩の分も含めて肉だけ貰って帰ることにした。

 肉を除いても全部あわせてだいたい銀貨2枚になった。


 貨幣の種類として、鉄貨・銅貨・銀貨・金貨・ミスリル貨があり、それぞれ100枚が上位1枚に相当する。例えば鉄貨100枚が銅貨1枚である。いずれも円形貨幣であるが、半円の半分の価値の半銀貨、半銅貨もある。一般市民の外食が数枚~10枚の銅貨、普通の職人日当が半銀貨~1銀貨である。宝石や魔石が高額のやり取りに使われることもあるが、一般市民は鉄貨・銅貨・銀貨で生活を行っている。

 ガスパオロにしてみると、1日でそれだけ稼げたので、冒険者は稼げる商売かと一瞬思ったが、命の危険もあるし自分は親方から装備一式を貰えたが、あれだけでも銀貨数十枚は最低でもしているし、そのメンテナンス費用なども踏まえると、楽な商売は無いのだなと考え直すのであった。



 冒険者ギルドの受付で帰り際に、同じ歳で仲間を探している人が居るよ、と声をかけられたので、まずは会ってみたい旨だけ答えて帰宅するのであった。


 その日は既に夕食が用意されていたので、角兎肉は翌日に持ち越しになったが、親方からは無言で頭を撫でられた。褒められているのであろう。先輩職人たちからも「ガス、よく頑張ったな。肉は明日だが楽しみだな」と肩をたたかれて、その日は興奮してなかなか寝付くことができなかった。

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