第3話 冒険者登録

 何とかルネから1日だけ準備期間を与えられたロドとレオ。ルネは皮革職人の方で、冒険者登録と最低限の弓矢の練習をしていたらしい。当然、登録したばかりでEランクとも呼ばれる初心者レベルの木級冒険者である。

 言い出したら聞かないルネに対して、何とかレオが怪我せずに済むように準備する必要がある。ロド自身は薬草採取のため1人で森にも行くので、獣への対応も含めて最低限の短剣の扱いはできる。また薬草等を納品することもあるので、冒険者登録はしているが、戦闘能力はそれほどではないためDランクとも呼ばれる鉄級でしかない。元々レオを冒険者にしたかったロドではあったが、自身の娘による強引な前倒しにはため息が出てしまう。


 まずレオを連れて冒険者ギルドに行く。冒険者ギルドは、ほぼすべての街に存在する国を越えた存在であり、誰でも登録できるが一定期間の貢献が無いと抹消される。生存確認も兼ねていて死亡者をいつまでも登録管理しないためでもある。魔物の脅威ランクE・D・C・B・A・Sに合わせて、1対1で倒せるのと同等とされる冒険者の強さもE・D・C・B・A・Sと呼ぶか、それに合わせた木・鉄・銅・銀・金・ミスリルの材質の身分証明書を渡されることから金級冒険者等と呼ばれる。

 当然登録最初であるのでレオは木製の証明書の木級冒険者である。

 ロドはレオに気付かれないようにコッソリと受付担当者に依頼をしておく。

「これぐらいの年齢の他の初心者が居たら紹介して欲しいから連絡をお願いする」


 次に向かったのは武器屋である。ロドはレオを連れて薬草採取に行くこともあり、レオには森の枝等で傷を負わない程度の厚めの衣服と背負袋や水筒等を与えているので、まずは武器ということである。両手剣、片手剣、短剣、弓、斧、槍、盾など様々な武具が陳列されているなかで、レオにそれぞれを持たせてみる。レオは大人しく、順番に持ってみるが特に筋肉を鍛えるようなことをしてこなかった10歳男子では、軽めの片手剣か短剣ぐらいしかまともに扱えなかった。

「レオ、武器はどれが良い?」

と問われ、特に思い入れは無かったが、夢で大人になった自分が持っていたのは短剣であったのと、ルネの指示でもあるので、軽めの短剣を選んでみた。

「おや、それは投擲短剣だね。通常の短剣よりも軽いだろう?」

と店主が声をかけてくる。

「うん、確かに慣れない間は、近接攻撃は怖いだろうし投擲も良いな。投げた後に手持ちが無くなるのも困るし最低2本、それにルネにも渡すか。よし、これを3本頼む。あと、あの小さな盾も2つ頼む」

とロドが購入してくれる。



 再度冒険者ギルドに戻り、ロドが受付担当者に訓練を発注する。

「俺には小盾(スモールシールド)を、この子には短剣の扱いと投擲をお願いする。この子は人付き合いが苦手で、きつい言葉は使わないでやってくれ。口数は少ないが物覚えは良いから優しく頼む」

 冒険者ギルドには魔物駆除、護衛などの戦闘を主とするもの以外に、薬草採取や配達など様々な依頼・クエストが存在し、依頼人と冒険者の仲立ちを行っている。魔物が存在するこの世界では、兵士だけでは駆除や住民保護が追い付かないため、通常の働き先がない荒くれ者や流れ者でも世に貢献できる仕組みでもある。そのため、初心者への育成や、能力を見極めての依頼の割り振りなどを行っている。その育成制度を利用するのである。


 講師役と思われる厳つい男性と優しそうな女性の2人が来る。ギルドの裏手の訓練場に行った後は、レオはロドと離れて不安そうな顔をするが

「すぐそこに居るから大丈夫だよ。君はこちらね」

と優しい声で女性職員が案内をしてくれる。まずは短剣の取り扱い、ベルトに鞘ごと挟み込んだところからの抜き取りや、使用後の手入れなどを丁寧に教えてくれる。レオはほぼ発言はしないが頷いたりしながら講師の教えてくれる手順を後追いしていく。その後に、短剣を握っての刺突や切り裂きなど素振りを教わる。

「短剣は刃渡りが短いから、切り裂きの効果は期待しない方が良いからね。人が相手なら切り裂きでの傷でひるむこともあるけれど、魔物が相手の場合は基本的には刺突、突き刺すことを考えるようにね」

 続いて短剣の投擲をするために開けた場所に移動する。この女性職員、先ほどの素振りのときもそうであったが、短剣投擲の見本の様はまるで暗殺者のように静かに素早い動作であった。初めてのレオにはなかなか狙ったところに当てるどころか、刃が刺さる向きに当てることすら難しいものであったが、レオが所有する投擲短剣では実際にどこをどのように握って投げれば良いのかを丁寧に教わったことにより、何となくは形になるところまでたどり着いた。

「ありがとうございました」

とボソボソと言いながら頭を下げた気持ちは女性職員に伝わったようでにこやかに笑って貰えて、少し温かい気持ちになったレオであった。

 ただ、その後に女性職員に連れられて行ったエリアで、ロドが男性職員に厳しく盾の扱いを教わっているのを見て、すくみ上ってしまった。


「ほら、またこっちが空いたぞ」

と、構えた盾の隙間から木剣でつつかれているロド。自分が短剣の扱いから順次教わっていた時間を踏まえると何時間もこのような訓練をしていたのであろうか。いくら娘と弟子の安全のためとはいえ、頭脳労働者が今まで扱ったことはないであろう盾の訓練を……と胸が熱くなるレオであった。

「お、そちらは終わりか。ではこちらも終わりにするか」

という男性職員に言われ

「ありがとうございました」

とフラフラになりながらお礼をいうロドであった。


「どうした?さ、帰ろうか」

と優しいロドに従い家に帰るレオは、ふと翌日のことを思い出すと身震いするのであった。

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