第4話 角兎狩り

 翌朝早くに出発したロド、ルネ、レオの3人。アンから弁当も預かっている。

「あらレオ、ちゃんと短剣にして来たのね。良かったわ。でも、2人のその盾は何?格好悪いわね」

「そういうな、安全のためだ。それよりもお前にもこれをやる。腰に差しておけ」

「え?短剣?私は弓だけで良いわよ」

「そういうな、万一近寄られたときのためにもなるし、お前も解体を覚えないと立派な皮革職人になれないだろう?」

「うーん、仕方ないわね」


 彼らが暮らすのは入り江の港町であり、角兎が居る草原は街から歩いて3時間ほどの場所になる。

 その途中には、ロドがレオも連れて薬草採取に行ったこともある森もあり、寄り道まではしないまでも通りがかりに見かけた薬草等は採取しながら進むことにした。都度、ロドがレオに何の効果のどのような物であったかの復習をしながらの道中となり、ルネがイライラして手に持った枝であちこちを叩きながら歩くことになり、ちょうど動物除けになるのでロドが放置するからますますルネが機嫌を悪くし、それを見ているレオは縮こまってしまうのであった。

 森を抜け草原が広がっているのを見えたとき

「やっと着いたわねー」

というルネの機嫌が切り替わったことで安堵したのもつかの間、

「さぁ早速やっつけるわよー」

という掛け声で、魔獣との初の戦闘という現実に引き戻されるのであった。


「待て、焦るな。よく見て1羽だけで居るのを狙うのだぞ。いきなり複数との戦闘は危険だからな」

「分かっているわよ。行くわよー」

とそれなりに遠くに1羽で居る角兎(ホーンラビット)を目掛けてさっそく射るルネ。

「あー、外したわー」

「え、ちょっと待て」

と、ロドが言いながら小盾(スモールシールド)を左手で構えて、日頃使いこんだ短剣を構えてルネの前に出ている。レオも見様見真似をするようにロドに指示される。

 かなりな勢いで接近して来たホーンラビットはその勢いのまま額の角で突っ込んでくるのかと思いきや、サイドステップでフェイントをロドにかけてくる。しかし、勢いが無くなり遅くなったことも幸いして、ロドは昨日の冒険者ギルドの特訓を踏まえて何とか盾を兎の正面に向けることができ、初撃を盾で受けると直ぐに右手の短剣を突き出して反撃し傷をつける。

「ほらお前たちも短剣を突き出せ!」

とロドに言われてもレオは構えたままで動けず、ルネは危なっかしく突き出すも兎に当てることができないどころか、ロドに当たるのではないかとヒヤヒヤな状況であった。結局はロドの短剣による攻撃だけで兎の体力を削り切り何とかしとめることができた。


 最初だから仕方ないとロドも割り切ったようで、

「じゃあ解体をやるか」

と声をかけてくるが、ルネが

「まずはレオからね」

と押し付けてくる。それを見たロドはため息をつきながらレオとルネの2人に解体の見本を見せてくれる。まずは血抜きから、と首付近の切込みから血が出るように逆さまにするように岩に押し当てて、続いて胸部腹部を切り裂き内臓を取り出している。心臓と肝臓だけは薬剤にするために取り分けているらしい。ついでに心臓部にある魔石を取り出すと共に、額の角をえぐり取っていったん振り返ってくる。青い顔をしながら見ていたレオとルネの2人に、続きをやるかと聞いてくるが、2人とも首を振ってしまう。

「じゃあいったん休憩して次を狙うか」

と、水分の多そうな草で短剣と手についた血脂を拭っているロド。レオは緊張のせいか先ほどから気がつけば水を飲んでばかりいた。


 それからもルネの弓による攻撃で1羽だけを呼び寄せて3人がかりで攻撃するのであるが、そもそもで最初の矢が2回に1回程度しか当たらない。また、ロドの盾の前で飛び跳ねたりする兎に対して、ルネは当てることがなかなかできない。レオは昨日に基本を習ったこともあってか、恐怖が少し減った段階で綺麗に突き刺せるようになったが、刺さった短剣を戻すのに慣れないようで一度は手放してしまっていた。

 たいした練習もしていなかった短剣投擲は、ある程度近寄って来た角兎に毎回1回は試させるようにしても、当たることは無かった。

 そうして合計5羽のホーンラビットを片付けて、レオとルナに2羽ずつ血抜きと内臓取り出しをさせたところで昼休憩にする。


 汚れた手で昼食をしたくないため、草などで拭いた程度では我慢できないルネは、ロドに水を出して欲しいとお願いをする。

「仕方ないなぁ。レオも水筒を出して。その岩のくぼみの上で良いか」

と、くぼみの中で3人の水筒の口を上にしてに並べたあと

「dedicare(デディカーレ)-decem(ディチャム)、conversion(コンバールショナ)-attribute(アッテリブート)-aqua(アクア)、aqua(アクア)-generate(ジェネラテ)」

と≪水生成≫の詠唱により、水を発生させた。水筒に入りきらなかった水がくぼみに溜まる。

 水筒をどけてさっそく手を洗いながらルネは父を褒める。

「さすが父さん、便利よねぇ。魔法使いって良いわねぇ」

「俺はこれしか出来ないけどな。他にも色々と使えたら良いだろうなぁ」

 ルネに続いて2人も手を洗い、昼食にしたあと、短剣なども汚れを落としておく。

「皮から肉の剥ぎ取りはお前が練習しないとダメだろう?」

とロドに言われたルネもしぶしぶ頷いて、まず大きく骨付き肉の形で肉を取り出した後、皮に残った肉を削ぎ落とす練習を行った。ホーンラビットを綺麗にしとめられずに多くの傷になっているので、削り過ぎて穴が開くようなことがあっても気にせずに練習しているようであった。

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