没ネタ・導入部(続)

 淳は囮になった

正門から逃げるアタシたちを逃がすための囮ならば、極力相手をそこから遠ざける

そして、周囲にSSやSHOが少ない場所を選ぶことで勝機を見出す必要がある

恐らく逃げ込むとすれば、裏門から通じる―山だ

 ザッ――ザッ――

周囲に音はなく、草葉を踏み分け進む音だけが異様に耳を打つ……

奈々瀬「…………」

 淳―っ!

本当は声に出して、呼びたい……アタシが探していると、みんな心配してると言いたい…

でも相手はあのSS…下手にかち合うことになれば逃げることすら困難だろう

ただ、もしまだ淳が戦っているのなら、声が…音が聞こえてくるはずだ…

アタシは敢えて獣道を、どんな音も洩らさまいと息を潜めて通っていく…

 ザッ――ザッ――

そろそろアサちゃんが家に着く頃だろうか

もし淳がトラブルで連絡出来なかっただけなら、アサちゃんから連絡が来るかもしれない

アタシの杞憂で、淳は案外うまくやっているのかも知れない

それならいい。アタシの取り越し苦労ならそれで構わない

 ただ――無事で居て欲しい

???「――――――!」

奈々瀬「――!?」

一瞬、何か聞こえた……今のは……人の、男の声?

こんな夜中に、この山奥に何故……?

考えてはみるが、皆目見当がつきそうにない

ただ今日という日に、何かアタシの知らないものが見つかった

それだけで声のする方へ向かうには十分だった

奈々瀬(確か、こっちの方から……)

逸る気持ちを抑えつつ、声の正体を探ろうとにじり寄る……

???「……使え…………」

???「…………ありません」

 居た――!?

それも2人。そして、後ろに小さな建物まで……

こんな山奥にあんな建物があるだなんて初めて知ったが、今はそれより男の方だ

なにやら一人は怒っているようにも見えるけれど……

奈々瀬(ダメ…遠くて聞こえない、か)

 それにしても…

彼らは一体何者なのだろうか…なぜこんなところに居るのか…

危険だとは思いつつも、今は少しでも淳の情報が欲しい―

奈々瀬(関係が無ければ離れればいいだけ…よね)

音をたてないように、数歩、前に出る

???「まぁ…。今日は……」

???「はい。では……」

間が悪く丁度話は終わってしまったらしい

ならばこれ以上、得体の知れない連中の側は離れるべきだろう

そう思い踵を返そうとした時だった

 バチッ――!

奈々瀬「――つぅっ!?」

後ろから首筋に電撃が走る

と同時にアタシの意識はそこで途切れた――



奈々瀬「…………」

ここ……は……?

アタシ……何を……――!

奈々瀬「っ!?」

 ジャラッ

ウソ!?動けな!?

???「おっと…お目覚めかい?」

状況を飲み込む間もなく、声が掛けられる

???「おいおい、そう睨むなよ。もとを糺せば俺たちの話を盗み聞きしていたのはお前のほうだろう?」

薄暗く冷たい室内に響く足音…

数歩、響いたあとに見えたのはやや痩せた中年の男

口ぶりから察するに先ほど会話していた男たちのどちらか…

そして、何か不都合な会話を聞かれたと思いアタシを幽閉することにした…といったところかしら

奈々瀬「…………」

出口はおろか、ここがどこかもわからない

更に手足の自由は奪われ、目の前には知らない男……

奈々瀬(状況は最悪、ね……)

 ならば出来ることからやっていく

まずは手足の自由を手に入れなくてはならない――なら

奈々瀬「あなた達の会話を盗み聞きしようとしたことは謝ります。」

奈々瀬「ただ……」

奈々瀬「ただ出来ればこの拘束を解いて頂けるとありがたいのですが…」

 ただ…人を探していたから――

言いかけたものの、相手の素性すらわかっていない

万が一、淳と関わりがあったら? 危害が及ぶようなことになったら?

思い至り、咄嗟に嘆願に切り替える

男「悪いが、そいつは出来ねえな」

奈々瀬「逃げたり、抵抗したりするつもりはありません」

男「へぇ…そんなことが出来ると思ってるのかい?嬢ちゃん」

女の子を拘束するような相手だ、すんなりと解いてくれるとは思っていなかったが…

奈々瀬(やけに自信があるのね…これは……マズいかも…)

 よほどこの男、腕に自信があるのか

或いはよほど堅牢な場所に閉じ込められているのか…その両方か

 そもそもここは? 先ほどの小屋……にしては冷たくカビ臭い

奥に簡素な梯子が見える…ならば地下だろうか? いずれにせよ声を出したところで状況は悪化するだけ…

奈々瀬「その……お手洗いに行きたくて……」

 手段を選んでなどいられない

とにかく今は拘束を解いてもらうのが先――

男「ここですればいい」

奈々瀬「……えっ?」

男「ここでそのまますればいいさ。元々ここにはそういうものは必要ないからな」

奈々瀬「それはどういう……」

 男からの返事はない

どういうことだろうか……

薄暗く冷たい地下室のようなところに、手足を拘束する道具

まるで初めから誰かを拘束する為に作られたような部屋…

奈々瀬(でも誰を…なんのために…?)

 真っ先に思い浮かんだのは裏風俗

かつて青藍島に巣食った癌――でも今は潰れて無くなったはず

 もしその建物が先ほどの小屋なのだとしたら…?

人目を避けるように建てられた小屋はなるほど、その名残と考えれば合点がいく

ではなぜ…この男はそれを知っているのか…?何故あそこにいたのか…

奈々瀬(ヤクザ、か……これは……本当にマズいかもしれないわね)

 向こうもこちらの素性や狙いを探っているのか、何かを発する気配はない

ただ腕を組み、品定めをするように見つめるばかりだ

奈々瀬(せめて向こうの狙いがわかればいいのだけれど……)

何故ヤクザがここに居るのか…あの時あの場所で何を話していたのか…

淳……?或いは――

男「琴寄文乃」

奈々瀬「――っ!!?」

 不意に男が発した言葉…あまりに不意に、しかし的確に考えが重なり思わず動揺を露わにしてしまう

ドスッ――!

奈々瀬「ぐぅっ……っは……げほっがはっ…」

 しまった――思った時にはもう男の拳がみぞおちに入っていた

男「その顔…どうやら何か知ってるらしいなぁ?」

奈々瀬「……」

これ以上、相手に情報を与えてはいけない…

沈黙を決め込まなきゃ…

男「悪いけど、テメエのダンマリに付き合ってるヒマはねえんだよ」

そういうと男は部屋から出て行き…すぐに戻って来た

――手に注射器を持って

奈々瀬「なに…を…」

男「なあに。お前がすぐに話せば終わる話だ。何も今すぐ殺そうってワケじゃねぇ」

言うや否や、その注射器を刺し……

奈々瀬「――っ!?」

 ドクン――!

奈々瀬「――あああああああああああぁぁぁぁぁぁっっついっ!!!あついあついあついあついあついあついぃぃぃぃぃっ!!」

 燃える…視界がっ!思考がっ!世界がっ白く燃え上がるっ!!!

手嶋「さて……お前の知っている琴寄文乃について聞かせてもらおうか」

奈々瀬「あ”あ”ぁぁっ……ぅっ………くっ―」

声が……聞こえる……意識が鈍い……

琴寄……文乃?

アタシ…が、探してた……少女……

何故?……なんでアタシは琴寄文乃を探してたの…?

何を知ってるの…?

記憶に靄がかかる

言葉は意味をなくし思考が鈍るなか、男の声だけが鮮明に聞こえていた――

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書きラジ @takamineyuto

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