明日の朝、電車で罪を犯すかもしれない人を救う人

 東京にある歌舞伎町の近くに、職場があった。

 最寄駅は新宿ではないが、新宿駅から1駅か2駅程度は徒歩圏内なので、新宿駅からは歩いて通った。

 駅の東口を直進して歌舞伎町一番街のアーチをくぐり、歌舞伎町を突き抜けて職場へ向かう。


 世界的に蔓延しているウイルスの影響でお店が短縮営業しているからこそ、というべきなのか、真昼間でも私に声をかけてくるお兄さんというのが一定数いる。

 数年前に比べたら、食い下がる人はほとんどいなくなって、それはありがたいことなのだが、毎度毎度結構です結構ですと言うのも疲れてきたので、歌舞伎町一番街のアーチをくぐるのをやめた。


 風俗どうっすか、と聞いてくるお兄さんはもう絶滅していて、「こんにちは」から始まって「今日どこいくの」と話しかけてくるようになった。取締りが厳しいからなのか、その対策か。

 取り締まる法律が強化されたなら、話しかけの切り口を変えただけである。

 セキュリティソフトがあってもそれを突破できてしまう人がいるように、いたちごっこはどの世界にもあるようだった。


 風俗を案内するお兄さん達は来年も再来年もこうやって街の人へ声かけをするのか、それともステップアップして、店を一つや二つ経営してるのか。そもそもこの業界のステップアップの仕組みは気になったけど、そんな雑談はしたくなかった。

 軽はずみな雑談が、気づいたらお店にぶち込まれる可能性がある。彼らはしゃべるのが、きっと上手だ。

 

 そもそも私が貧乏性なのが元凶ではあるのだが、60分遊ぶ時間に対しての金額が、1万6000円ということに理解が追いつかなかった。私はアルバイト経験が長く、自分の60分は良くて1200円くらいの労働力であると実感していた。

 ここで遊んだら、60分後には私が1日かけて得た日給が塵になる。

 1時間で1200円しか生産できない人間が、同じ1時間で1万6000円を消費できるだろうか。

 感動や無形物を買うという点では、テーマパークで遊ぶことや劇場で芝居を観るのと一緒だろうが、例えば風俗から感動をもらって「明日からまた仕事頑張ろう」と思えるのだろうか。

 私には、風俗で上手に遊ぼうという意欲も知識もなかったのだと思う。


 結局、歌舞伎町を突き抜けずに、安全な大通りを歩き、迂回をしながら職場に行くことになったわけだが、この職場にはおよそ毎日、女性が訪問する。

 女性は毎日のように面接に来るのだが、私が職につけていたレタッチャーになりたいわけではない。


 この二十歳前後の女性達こそが明日風俗嬢になるかもしれない人たちであり、商材である。

 色んな人を修正しているとは本当であり嘘でもある。

 色んな人ではあるが、私が扱っている写真は二十歳前後の女性だけである。


 動機はそれぞれだが、稼ぎたいと思った人が入店を決意し、面接を受けに来る。

 店の内勤スタッフは稼がせてあげられるように働いているだろうし、私は、この稼ぎたいと言う人の写真が沢山指名されて、この人が望んだ金額まで稼げますようにと祈りながら、可愛く仕上げている。


 金を払ってセックスまがいの遊びをすることを生理的に嫌う人は一定数いるが、電車でバレないように痴漢するのを愉しむ人間になるくらいだったら、いくら貧乏性な私でも、しっかりとお金を払って発散したいかな、と思った。


 毎日わいせつな事件が必ず発生している。必ずしも被害者が声をあげてるわけはないと思うから、報道されているよりも何十倍もの数の事件が発生してしまっていると、私は思っている。(そもそも報道すらされてない事件もある)

 今までも何度かわいせつなことをして来ていて、ついに見つかってしまったのだろうか。

 誰にも気づかれずこの危ない行為を達成できるかの、スリルが愉しいのだろうか。


 風俗があるおかげで、何%くらいの性犯罪が未然に防げているのだろうか。

 

 

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