022:光をもたらす者たち
約300年前、
『────以上が、312年と4か月、11日と54分前に起きた出来事の、全てです』
淡々とした合成音声が倉庫の中に響く。魔導知能「カルディア・グレイス」は変わらぬ声で、
『そして再び、ライカを乗せた“プラネテス”は惑星ラクシアへと最接近し、衛星軌道上へと軌道を修正しようとしています。貴方方が所有していたマギスフィアが受信した数列も、“プラネテス”より発されたメッセージの一つです』
エクシアは手に持っていたマギスフィアをみる。その表面には、薄っすらと数列が浮き出ている。
『当機であれば、その数列を
「私は聞かせてもらおう」
「わたしも、聞きたいです」
カルディア・グレイスの言葉に、イリとヒスイはそう答えた。エクシアはマギスフィアをカルディア・グレイスへと接続すると、即座に数列が解読されていく。
それは、一定の時間が来ると自動的に送信される文章のようで、短い挨拶の言葉が書かれていた。「ハロー」と繰り返し書かれた言葉に、イリとヒスイは繰り返されていた数列がこの文章であることに気が付く。
「おっ、おぉー……また未知の形式だな……。大発見だよ、コレ」
静かに盛り上がるエクシアを他所に、イリは冷静に文字列を読み取っていた。
「信号を文章にしたり、数列を文章にしたり……魔導技師というのは大変だな」
「そうさ、それにありとあらゆる言語を数字で表せるんだよ? これが
「驚きましたね……おとぎ話のような物語です。でも、嘘を言っているようにも見えませんし……」
カルディア・グレイスは4人に再び語り掛ける。
『ライカは、今も尚この星に向かって進んでいます。……そして、これがライカが再び惑星ラクシアへと帰還できる、最後の機会となるでしょう』
「……と、いうと?」
腕を組んだままのイリは、カルディア・グレイスの言葉を促す。
『“プラネテス”に搭載された魔力量から算出して、今回の再突入に失敗し、再び衛星軌道から外れた場合。生命維持に必要な魔力が枯渇し、ライカは死亡するでしょう』
淡々とカルディア・グレイスはそう告げる。
『故に、カルディア・グレイスは貴方方、冒険者をここに招き入れることを採択しました。────貴方たち冒険者へ、依頼をするために』
その言葉を聞いて、レイジィは疑問符を浮かべながらこう尋ねた。
「えっ……でも、そのプラネテスってのは勝手に帰ってくるんじゃないの?」
『ライカの乗る“プラネテス”がラクシアへと突入するには、高度な軌道演算と修正処理が必要となります。現在、管制を行うカルディア・グレイスにはそれらをカバーするほどの演算性能はありません』
「ですが」、とカルディア・グレイスは言葉をつづける。
『破壊されつつも、その機能が休眠状態となっている、魔導知能“カルディア”の演算性能を利用することで、この問題は解決できると予測されます』
「では、やっぱり勝手に帰ってくるのでは……?」
ヒスイの言葉に、カルディア・グレイスは否定の言葉を告げる。
『この手法には、一つ致命的な問題が存在します。魔導知能“カルディア”の演算性能を利用するために“カルディア”の起動を行った場合、衛星軌道上に存在する攻撃衛星“イグニス”へ攻撃指示を下す可能性が極めて高いのです』
起動音と共に、4人の前に
『もし、攻撃指示を下した場合……現在のラクシア地表、および、衛星軌道上に侵入しようとする“プラネテス”が攻撃される恐れがあります』
立体映像に映し出された丸い物体……ラクシアを模したものと、その周囲をぐるぐると回り続ける攻撃衛星“イグニス”を示す物体。そのイグニスから針のようなものが射出され、つぎつぎにラクシアへと降り注ぐアニメーションが再生される。そして、その針の内の一つが外から飛び込んできた
『故に、カルディア・グレイスは貴方たち冒険者に、攻撃衛星“イグニス”から発射される弾道ミサイルの破壊を依頼したいのです』
その言葉に、エクシアは即座に答えを出した。
「あーん?
一呼吸置き、エクシアは堂々と言い放つ。
「────凄いじゃん本当なら。やるやる、やるともさ!」
3人はエクシアを見つめ、苦笑しながらそれぞれ口を開いた。
「
イリはカルディア・グレイスから聞かされた、過去の英雄たちの話を思い返していた。タイヴァルド・エデンズ・ハロウズ……イリと同じく、リルドラケンである彼の出身は、吹きさらしの高原地帯だったという。イリの出身であるザッカラーズもまた、同じ地域に属する里だった。遥かな時を超えて、遠い祖先の話につながっていたのだ。
「そうですね。この情報が確かなものなら、
ヒスイは静かにそう告げる。かつての英雄たちが今を造り、約束を果たそうと戦っていった……今この瞬間も、ライカという少女は遥か空の果てで、孤独と戦っている。ならば、かつての英雄たちが結んだ“約束”を果たすのが、今を生きる者たちの責務なのかもしれない。
「あ、あのぉ……これ聞かなかったことには」
及び腰なレイジィはそう呟いたが、その腕をがっちりとヒスイに捕まれた。
「できることは協力しましょう? ね、レイジィ?」
「ひゅぃぃぃ!!」
有無をも言わせぬ迫力で、ヒスイはレイジィをねじ伏せた。アルテミスではいつもの光景だ。その光景に声を上げて笑いつつも、エクシアはカルディア・グレイスへと問いかけた。
「ねぇ、手段は? さすがに、あたしらに遥か空の上を攻撃するような手段はないよ」
「世界中に分身を飛ばして、ミサイルを受け止めるような手段もない」
イリもエクシアの言葉に続く。遥か空の上を飛ぶミサイルを、どうやって撃ち落とすのか。その回答をカルディア・グレイスは示す。
『回答。────アル・メナス文明の終末期、この研究所では宇宙を探索するための魔航船が建造されていました。有人魔航船“ルミエル”は、300年前“イグニス”より放たれたミサイルと衝突し、今はその残骸が衛星軌道上に散らばるのみです』
カルディア・グレイスはかつての戦いの記録を表示しながら説明する。ルミエルのほとんどは残骸となって地上へ降り注ぎ消滅したものの、幾つかは未だ宇宙空間を漂っているらしい。
『ですが、この研究所では当時、もう一つの魔航船が建造されていたのです。当時、建設途中だった有人魔航船の二番機……』
幾つもの映像が、4人の目の前に投射されていく。そこには、一機の巨大な魔動機が映し出されていた。
『その名を────“フォルトナ”』
その映像には、巨大な流線型のフォルムをした魔動機が鎮座している。巨大な発射台のようなものに設置されたそれは、無人の格納庫で乗り手が現れるのを待っていた。
『複数人の人員輸送を前提に、自律航行可能な汎用魔航船として建造された“フォルトナ”は、今も尚、地中深くの発射台に設置されたままです。貴方方には、この“フォルトナ”に搭乗し、宇宙空間にて弾道ミサイルの迎撃、破壊を実施。“プラネテス”と共にラクシアへと帰還する……それが、“カルディア・グレイス”の提案する、ライカ救出ミッションの全容です』
映し出された映像を食い入るように眺めるエクシアは、カルディア・グレイスの言葉を聞き、感心した声を上げる。
「それも始まりの剣の名前か、凝ってんねぇ。人族初ってわけじゃないけど、この時代に天の上に行くなんて、あたしらぐらいっしょ」
その言葉に、イリは頷く。
「私が、“ソラ”に……か」
背中の翼をばさばさと動かしながら、小さくイリは呟いた。
「レイジィ、ライカさんを連れて還れば勲章ものですよ! こんな依頼、そうそうお目にかかれません」
「なんでぇ……なんでみんなこんな乗り気なんですかぁ……!」
ヒスイはレイジィの腕をつかみながら、嬉しそうにそう言う。一方のレイジィは、舞い込んだ業務外の仕事と命の危機を感じ取り、ブルーな表情だ。
「我々がさっさと飛ばないと、ライカなる少女は戻ってこれないのだろう?
「そーそー、それに面白そうじゃん! 他に理由なんてないよ! さぁ、パーティーだ!」
イリとエクシアはそう言い、二人ともこの先に待ち受ける出来事について話し込み始めていた。そんな様子をみつつ、ヒスイはレイジィに語り掛ける。
「……繋がりはありますよ。過去の人たちのおかげで、今があるのですから」
ヒスイはレイジィの顔を見て、
「それに、お出迎えぐらいは朝飯前ですしね! スカーレットにも期待してますよ。……それとも、働くのが嫌ならレイジィも300年飛びます?」
「300年……300年飛ぶのは……」
「基本寝てられるらしいぞ」
ヒスイとイリは、レイジィに詰め寄る。下手に答えたら冗談抜きで魔航船に詰め込まれ、300年宇宙旅行をさせられそうな剣幕だ。
「……300年寝たまま帰ってこれないのは、やだなぁ……」
レイジィはそう呟く。かくして「ライカ救出ミッション」の依頼をアルテミスのメンバーは正式に受諾したのだった。
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