011:宵の明星
遥か天を衝く摩天楼。きらびやかに輝く無数の建物が、人々を睥睨していた。街を行く人々は、
魔動機は世界を変えていった。未踏の地を明らかにし、新たな理論を確立する。人族は魔導技術を進歩させ、自らの版図を広げていった。始まりの剣が生み出したという“蛮族”は、魔動機によって攻め滅ぼされ、今やその姿を見ることはほとんどなくなっていたのだ。わずかに残った蛮族たちは、人族の脅威に怯えながらへき地へと追いやられて行った。
ラクシア全土の領域全てにおいて、人族は生存権を確保した。遥か創世の時代より続く争いは終結し、かくして安寧の時代は訪れたのだ。人々は魔動機の技術をさらに発展させ、全世界を魔動機によって繋いでいった。更なる安定と、繁栄のために。より効率的で幸福な社会の実現のために。魔動機にすべてを委ね、人々は平和を謳歌したのだ。
人族は、勝利した────少なくとも、この時は“まだ”勝利していた。
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────地面を打ち上げるような激しい衝撃と、大地が引き裂ける恐ろしい音。世界を終わらせる災厄は、その日、何の前触れもなく訪れた。
すべての大陸を襲った巨大な地震は、まるで部屋の電気を消すような手軽さで、世界を繋ぐ生命線を次々に落としていった。電気、水道、ガス、通信、交通、物流、軍事、政治、経済……あらゆるものを魔動機に頼ってきたこの文明は、ただ一度の天災によって、ぐちゃぐちゃに引き裂かれた。
次に襲ってきたのは、空まで届くほどの巨大な津波。大地震が引き起こした巨大なエネルギーは、形を変えて、今度は大陸の沿岸部を襲っていった。まるで最初から何もなかったかのように、海沿いのすべての街はわずか数時間のうちに海中へと没した。
だが、世界を終わらせるほどの天災にまきこまれながら、人族の大半は生き延びた。高度に発達した魔動機と、それを駆使して作られた摩天楼は人々を天災から守り切ったのだ。……しかし、災いはそれだけに収まらなかった。
大地を覆い尽くすほどの“蛮族”たち。隆起した大地の底から、ひび割れた巨大な地割れから、陥没した大穴から。侵略者たちは現れた。
────彼らは滅んではいなかったのだ。何十、何百、何千年と長きにわたって、彼らは大地の底で、この時を待ち望んでいた。
人々は手に武器を取り、戦おうとしたが全ては遅きに失していた。生活も、選択も、生きることを全て魔動機に委託した世界。“戦う事”すら委託していた人族は、最初の大地震によって既に、戦う術を喪失していたのだ。巨大な地震は、魔動機たちを繋ぐネットワークすらも分断し、完全に破壊していた。
もはや、人族には組織的に抵抗する術は残されていなかった。
それでも、例外というものは存在する。あらゆる人々が生き方を委託する世界の中、自らの意志で力を得た者たち。人々は、そんな彼らのことをこう呼ぶのだ────“英雄”と。
そして、この物語は今より遥かなる過去。後の人々が《大破局》と呼んだ大災害の直後に起きた物語。歴史に埋もれ、人々に忘れ去られた者たちの“物語”だ。
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