過去に生きた者たちの物語

010:星の子ども

 ────ゆっくりと目を開く。


 そこにはいつもと変わらない、真っ白な天井が映っている。ボクはいつものように体を起こし、着崩れた服をただす。どうして服を正さなくてはいけないのかはわからない。でも、こうしなさいと“ドクター”はいつも言う。


 ベッドから足を下ろし、ゆっくりと腕をのばす。こうすると、背筋がすこし気持ちいい。そのまま少しの間、そのポーズを保って息を吸う。うん、今日もいつも通り。


 ぺたぺたと、足音を鳴らしながらゆっくりと部屋を横切り、机の上に置かれている服を取る。ドクターが用意してくれた服。この前、“おみせ”で買ってきてくれた。ドクターのいう“おみせ”が何かは分からないけど、ボクの着るものはそこから持ってきてくれたらしい。


 服のボタンをはずし、するすると服を脱ぎ捨てる。あっと……服は畳まないといけないんだっけ? 地面に落ちた服を引き寄せて、慣れない手つきでたたむ。これ、苦手なんだよね。ドクターは凄く器用に畳むんだけど。


 新しい服に着替えて、ボタンをかけて……あとは、机の上に置いてあるブラシで髪を撫でて。こうすると、髪の毛がちょっとだけ、跳ねなくなるの。ボクの髪の毛はすこし跳ねやすいみたいで、ドクターはいつも、優しく髪の毛を撫でてくれた。


 獣耳みみと尻尾も一緒にブラシで撫でてあげる。こうしないと、知らないうちに毛がぐしゃぐしゃになっちゃうの。……毎日やるのは、ちょっと面倒くさい。もらったゴムで後ろの髪を纏める。長くなった髪を二つに分けて、右と左、1個ずつまとめる。ちょっとだけ、動きやすくなった。


 最後に、机の上の鏡をみる。ちょっと明るめの髪、ところどころ跳ねてるけど、後ろで二つに纏めてる分まだいいよね? 頭の獣耳は今日もぴょこぴょこ、楽しそうに動いてる。首につけた“これ”はちょっと息苦しいけど、がまんがまん。ちゃんと着けてないとドクターに怒られちゃう。今日の服は白いシャツに淡い色のカーディガン。スカートにはしわ一つない。穴の開いたところから尻尾をだして、リボンで結んで通し穴をきゅっと締める。うん、完璧! 全部ドクターが教えてくれた通りにやったもん。


 鏡の前でくるりと回り、鏡の中のボクを見つめて呟いた。


「……よしっ、今日も一日がんばろうね!」



 そうしてボクは立ち上がって、部屋を後にする。今日もまた、いつもの“訓練”をするために。



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