005:遭遇

 引き上げた魔動機の確認が済んだあと、「アルテミス」のメンバーは搬入路の北側へと進むことになった。崩落した通路には障害物が散乱し、トラップの可能性を考慮して進むために、一歩たりとも気を抜くことができない。

 彼女たちがしばらく進んでいけば、通路の西側に扉が見えてくる。その扉の隣には銀のプレートが設置されており《研究セクター:東側出入口》と書かれていた。しかし、扉は固く閉ざされており開く気配はない。


「研究セクター……ってことは、この施設の心臓部みたいなもんか」

「でも、扉が閉まっていますね。かなり分厚い扉みたいで、開き……そうも……ないですっ」


 扉の前で立ち止まり見上げるエクシア。ヒスイは扉を開いてみようと試みるが、取っ手もない、スライド式のその扉は分厚く頑丈にできているようで、押せども引けども動くことはない。


「そう簡単に開きそうもないな、重要な個所なのだろう」

「でも……東側出入口ってことは、反対側にも出入口があるのかな?」


 レイジィはプレートを指さしてそうつぶやく。通路はまだ北へと続いているようで、まだ別の空間へと続いているようだ。


「ひとまず、このまま北側の探索を進めよう。開かずの扉の前で立ち往生しても仕方があるまい」


 ひとまず開かずの扉は無視し、彼女たちはさらに北へと通路を進んでいくのだった。再び、暗闇の通路を歩き続けると、どうやら奥へと到達したらしい。数十m先には突き当りの壁が見えていた。T字路となっているようで、西から東へと続く搬入路に接続する形で、この南北に続く通路は繋がっているようだ。だが、そのT字路の中央には、奇妙な形の魔動機が2台設置されていた。

 それは、T字路の中央に固定されているようで、動き回る気配はない。数本の鋼鉄製の支柱に支えられるようにして、細長い筒のようなものをゆっくりと左右に動かしている。まるで、通りがかるものを監視しているような動きだ。筒の頂上に設置された、魔動機の灯りが緑色に点灯しているところを見るに、いまだ稼働しているようだった。


「うわっ、あれってもしかして……噂の防衛機構っぽいですね」

「先遣隊が見たという侵入者排除用の防衛機構でしょうか? となれば、破壊するしかなさそうですね」


 彼女たちは、通路に倒れた大きな支柱の陰に隠れるようにして、その魔動機を観察する。


「まーそうだね、あれ残しとくわけにもいかないし。バラして使えそうな部品取りたいしね」

「ふむ、単独で動く尖兵か。いい具合に停止させて、可能な限り持ち帰りたいところだな」


 イリはそういい、武器を取り出しながらヒスイへと尋ねる。


「で、ヒスイの見立てで、敵の種類や型式はわかりそうか?」

「……おそらく過去の遺跡で見てきたものと同型ですね。拠点防衛に特化した、固定銃座ガンタレットでしょう。おおよそ、射程は30mと推測されます。発射機構を見るに榴弾の発射も可能かと。一か所にまとまるのは危ないかもしれません」


 ヒスイは、過去の遺跡での経験や他の冒険者からの情報より、通路に設置された魔動機の正体を分析していく。パーティー随一の賢者セージとして、ヒスイは戦闘・探索両面においてその頭脳を遺憾なく発揮する。


「銃身の長さからして、狙撃支援もできると思います。開けた場所は狙い撃ちされるかもしれません。ここからだとT字路の西側と東側通路の視界が不明瞭ですから、注意してください」

「それだけ分かれば問題ない、エクシアとヒスイが一撃入れた後、私が先行する」

「はいはーい、まぁいつも通りの作戦ね。こっからでもあたしの弾丸は届くからね」


 そういい、エクシアは細長い銃身を持つ魔導銃ジェザイルを取り出し構える。


「(ワタシ、ここから出なくてもいいのでは……?)」

「レイジィ、謝ってください」

「ひっ……思考まで読んできた、ごめんなさい……!」


 こっそりと倒れた支柱の陰に隠れようとしたレイジィをみて、ヒスイは棘のある声で釘を打つ。それを見ていたイリも、


「安心しろ、レイジィにも当然仕事をしてもらう。それに、通路の先に何がいるかもわからんだろう、ちゃんと着いて来い」

「は、はい……」

「お前が角を覗き込んだ時に、私の死体が見たいというなら別に構わないが」

「やだぁ……」


 そんな二人のやりとりをみつつ、ヒスイは笑いながら


「よろしい♪ でも、“癒す”のは貴方に任せましたよ、レイジィ」


 と、声をかけたのだった。


「じゃあ、みんな準備いい? まずは様子見つつ……伏兵注意でいこう!」


 エクシアが言葉を告げ、彼女はジェザイルを敵へと構えた。エクシアは、高い技量を持つ射手シューターであると同時に、魔動機術師マギテックであもる。二つの技量を併せ持つものは、魔導射手マギテックシューターとして「弾丸を魔力によって撃ちだす」銃を扱うことができるのだ。マギスフィアにコマンドワードを即座に入力し、手にする銃へ魔力を送り込む。


「さて、まずは一つ」


 2台設置された固定銃座ガンタレットのうち、西側の1台に照準を合わせ、エクシアは素早くトリガーを引いた。その瞬間、発砲音を響かせながら彼女の握るジェザイルの銃口から弾丸が発射される。

 飛来する弾丸は、狙い通りガンタレットの一台に命中する。しかし、その弾丸は装甲を抉りながらも、致命打とはなり得ない。攻撃に反応し、ガンタレットたちは警告音を鳴り響かせながら、即座に臨戦態勢へと移行した。


「うぅ……戦闘はじまっちゃった。帰りたいけど、仕方ないよね……」


 切って落とされた戦端に、レイジィはマイペースに立ち上がりつつ、首からかけた聖印を手にし、小さな声で囁くように祈りを捧げ始める。


《……神様、どうかワタシたちを一時の間、悪意あるものからお守りください》


 レイジィの祈りに呼応するかのように、彼女の聖印がうっすらと輝く。彼女を中心に、軌道レールのような形の、複雑な聖印が円形に地面へと刻まれる。それは、「アルテミス」のメンバー全員を円の中へと収め、彼女たちの身体を覆うよう、魔力を付与していく。


《どうかお願いします……痛いのは嫌なので。────守護の誓願フィールド・プロテクション


 レイジィの最も得意とするところ、それは神聖プリースト魔法であり、彼女は敬虔な鉄道神王ストラスフォードの信徒でもある。戦いの中で傷を癒すことが彼女の主な仕事ではあるが、それ以外にも支援系全般を担うことができるのだ。また、騎乗ライダー技能を用いて、騎獣を指揮し戦闘にも参加することのできる、後衛のエキスパートでもある。

 守護の誓願フィールド・プロテクションは祈りの対象者に対して、神の加護を与える奇跡の一つ。一時的ではあるが外傷ダメージを軽減させる効果を持っている。


「敵も気が付いたみたいですね……続いていきますよッ!」


 つづいて、物陰から飛び出したヒスイは、両手で棒杖を握りながらガンタレットへと狙いを定める。ヒスイは杖を地面へ突き立て、静かに言葉を紡ぎ始めた。


《……冷気を纏いし白き獣よ。この地、この場においてわたしに力をお貸しください》


 すると、ヒスイの隣には巨大な竜のようなものが現れる。真っ白な鱗に、口からは冷気が漏れだし、その瞳は爛爛と輝いて見えた。しかしその体は、うっすらと透けており、実体はここにはない。

 ヒスイの扱う技、それは『森羅ドルイド魔法』と呼ばれる魔術の一つだ。精霊────森や大地に宿る動物や植物の魂と交信し、その力を一時的に借り受け、事象として実体化させる。それが、『森羅魔法』と呼ばれる魔術であり、ヒスイは高位の森羅魔法の遣い手でもある。


《行きますよ、白き獣ディノス。────我が敵に、凍える吐息を!フリージングブレス


 ヒスイがそう叫ぶと、彼女の隣に侍る白き竜は口を開き、空気を凍てつかせるほどの冷気を吹きだした。その吐息は通路に設置された2台のガンタレットへと直撃し、ピシピシと音を立てながら凍えつかせていく。


「隙ができたな、伏兵は私があぶりだす。出るぞ!」


 ガンタレットが凍り付き、銃座が回転しきる前にイリは風のように走り出した。リルドラケンのその体格からは想像もできないほど、俊敏な動きで敵との距離をゼロへと詰める。イリはその勢いのまま、背中の翼をはためかせ空へと飛びあがった。空を舞う彼女は、両手に握った小さなボールのようなものをガンタレットの一つへ連続してたたきつけていく。


「小さいが、効果は十分だろう。────それだけ凍えているのだからな」


 イリの放ったボールのようなものは、ガンタレットへぶつかるとパチンと割れる。ボールの中には液体が入っていたようで、勢いよくガンタレットの装甲に降りかかった。その液体が装甲に付着した瞬間、一気に凍り付きながら、その凍結範囲を広めていく。

 彼女の投げた《水風船》と呼ばれるアイテムには、内部の液体に強力な水の魔力が込められており、ひとたび破裂すれば魔力に応じた威力を発揮する魔法の武器マジックウェポンの一つだ。ただの人間が使えばさほど威力は出ない代物だが、技量を持つ者が使えば、想像以上の破壊力を生み出すことができる。


 それと同時に、イリはすぐさまT字路の両端の道を確認する。今までは死角になっていて見ることができなかった場所だが、空を舞い、高みから見下ろせば、そこに潜んでいた脅威は一目瞭然だった。


「────東側通路に同型のガンタレットが1。それと、西側に宙を飛ぶ魔動機が2台、何かを抱えてこちらへ飛んできている!」


 イリの見た通路の先には、敵が潜んでいたのだ。それも同型のガンタレットと、新手の魔動機が2機。通路中央のガンタレットとは魔力によって繋がっているのか、戦闘が起きているこちらへと急速に近づいてきていた。

 そのイリの声を聴き、ヒスイは即座に該当する魔動機を考える。宙を舞い、何かを抱えた魔動機。それは……


「おそらくそれはグルバルバです! 投下型の炸裂弾と、修復液を搭載しています、気を付けてください!」

「ただでさえ硬い魔動機に修復機能を持った支援機か……非常に面倒だ。レイジィ!」


 イリの声に反応したレイジィは、意図を察して頷く。


「はーい。じゃあ頑張ってね、スカーレット」


 そういい、再び駒を懐から取り出し、ドンダウレススカーレットを呼び出した。スカーレットはレイジィの指示を受け、猛然とT字路へ突撃していく。未だ凍り付き、動きが緩慢なガンタレットを狙い、その長い尾を横薙ぎに振り回す。長い尾は2台のガンタレットを巻き込む形で、その強烈な殴打を叩き込んだ。鈍い音と共に、凄まじい衝撃がガンタレットたちを襲う。その威力は、銃身を覆う装甲を変形させていた。



 しかし、ミシミシと不気味な音を立てながらガンタレットの銃座は回転し、その銃口をエクシアへと向けた。即座に銃口が火を吹き、弾丸が発射される。もう一台のガンタレットも、同じようにその銃口を空中のイリへと向け、弾丸を発射していた。

 発射された弾丸は、眼にもとまらぬ速度で二人の身体に命中する。二人とも直前に回避しようと身をよじったため、致命傷とはならなかったが、熱した鉄の棒を押し当てられたような激痛が体に走る。


 そして、その隙を狙ったかのように2機のグルバルバが、イリとスカーレットのいるT字路中央へと突っ込んできた。

 グルバルバは魔動機文明時代に造られた、宙を浮かぶ魔動機だ。背中に気嚢を背負った蜘蛛のような見た目で、無数にある脚で爆弾を抱えており、敵の頭の上からそれを落す。炸裂弾以外にも、味方の魔動機を修復するための修復材などを積んでおり、支援機として運用されていたらしい。今も尚、魔動機文明時代の遺跡ではよく見かける、ポピュラーな魔動機の一つだ。

 そんなグルバルバたちは、ひときわ大きいスカーレットを目標としたようで、一気に降下して体当たりを仕掛けてくる。しかし、スカーレットは巧く尾を使い、敵の攻撃をいなしていく。


「チッ……厄介なのが来たな。攻撃を合わせるぞ、スカーレット」


 空を舞うイリは、グルバルバに襲われているスカーレットにそう叫び、一気に降下していく。そのまま身をよじりながら、自身の尾をグルバルバたちとガンタレットに向けて振り下ろす。落下の速度に身をよじったことによる回転が加わり、暴力的な一撃が魔動機たちを襲った。

 それに呼応して、地上のスカーレットもガンタレットの1台を狙い、その長い尾を叩きつける。地上と空からの連続した攻撃に、鋼鉄の軋むような音が鳴り響いた。特に二人から狙い撃ちされたガンタレットの1台は、銃身を支える支柱が吹き飛び、濛々と黒煙を上げている。


「自爆したりしないだろうな……魔動機とやりあうのはこれだから嫌だ」


「お二人とも、怪我を……今癒します!」


 やや後方からそう声をかけたのはレイジィだ。彼女は再び聖印を握り、囁くような小さな声で祈りを捧げる。


《……神様、どうか彼のものたちの傷を癒し、再び戦う力をお与えください。────癒しの祈りキュア・ウーンズ


 レイジィの祈りは届き、神の加護によってイリとエクシアの傷がふさがっていく。戦場で戦う神官プリーストたちは、信仰に依る圧倒的な回復力で味方を支える回復役ヒーラーとして、冒険になくてはならない存在だ。


「助かる、血をぬぐうのも面倒になってきたところだ」

「いてて……ようやく傷がふさがった、じゃあ反撃といこう! ヒスイに合わせていくよ」


 先ほど銃撃を受けたイリとエクシアは、レイジィの癒しの祈りキュア・ウーンズによって再び力を取り戻す。ジェザイルを構えたエクシアは、目の前のガンタレットを見据えながら、ヒスイにそう声をかけた。


「はい、では再び行きますよ! もう一度、白き獣ディノス!」


 ヒスイは再び、大地の精霊たちに声を呼びかける。彼女の周りには数体の白き獣ディノスたちの精霊体が集まり始めるが、その姿は先ほどよりも朧気で、今にも消えかかりそうだ。


「くっ、精霊たちの力が弱まってる……。もう一度……むむ、運命よ、謝ってください剣の加護、運命変転!」


 再び、ヒスイが力強い言葉で語り掛けると、彼女の周りにはしっかりとした白き獣ディノスたちの精霊体が集まり始める。その姿は、今までに見たことがないほど鮮明で、周囲の空気を凍えさせるほどの冷気を放っていた。

 人間たちの持つ、他の種族にはない“剣の加護──運命変転”。それは、窮地ピンチ好機チャンスに変える力。投げられた賽の目を覆す、人間にのみ許された強い意思の力だ。

 ヒスイの側に集まった四頭の白き獣ディノスたちは、彼女の掛け声にあわせて、凍える息吹フリージングブレスを敵へと放つ。強烈な冷気は、ガンタレットとグルバルバたちを捕らえ、その鋼鉄の身体を完全に凍り付かせた。ガンタレットの内1台は、鈍い音と共に根元から砕け、そのまま機能停止に追い込まれる。


 その攻撃に合わせて動いたのはエクシアだ、マギスフィアに再びコマンドワードを打ちこむ。装填された弾丸に魔力を送り込み、より強い破壊力を生み出す魔弾へと変えていく。彼女は慣れた手つきでグリップを握りこむと、銃身の魔力が励起し、そのまま照準を敵に合わせた。

 エクシアの狙った弾丸は、破損の激しいグルバルバの1台を狙って放たれた。その狙いは的確に、そして容赦なく、グルバルバの装甲を打ち貫いていく。みしみしと、不気味な悲鳴を上げるようにして、魔動機の装甲が吹き飛んだ。


「あーあ、落とし損ねたか。でもまぁ、あと一押しってとこかな」


 稼働停止寸前まで追い込まれた残りのガンタレットは、ゆっくりと銃座を回転させる。そして、最後の一撃と言わんばかりに、炸薬が詰まった榴弾を打ち上げた。その射線の先にいるのは、レイジィとヒスイだ。弾丸は着弾と同時に爆発を引き起こし、無数の破片を飛び散らせる。


「ッ……これは、躱せませんね」

「痛ゥ!! 破片が刺さった!」


 轟音と共にあたりに砂ぼこりが舞う。二人はその中からゆっくりと起き上がった。直撃は免れたものの、至近で爆発した榴弾の余波を受ける。破片が体に突き刺さり、生暖かい血が流れ出るのを感じる。

 そんな中、T字路の東側の通路では、最後のガンタレットが静かに狙いを定めていた。その冷たい銃身は、的の大きなスカーレットに照準を合わせる。発砲音とともに、魔力の籠った弾丸が飛び、スカーレットが避ける間もなくその巨体を貫通した。スカーレットは苦痛に咆哮をあげながら、一歩二歩と、その巨体をよろめかせる。その間にも、残ったグルバルバたちは魔動機を修復するための修復材を投下し、破損してるガンタレットの応急処置を施していく。


東側通路あっちの残り以外は良い感じ、まずは目の前から片付けよっか」

「ならば、もう一度仕掛けよう。行けるなスカーレット」


 空を舞うイリは、眼下のスカーレットへと声をかける。痛みに耐えながらも、スカーレットは尾を振り返して見せた。再びイリは空から地上めがけて降下し、尾を巧みに操りながら的確にグルバルバたちを落としていく。直撃を受け、地面へと墜ちていくグルバルバたちを待っていたのはスカーレットだ。スカーレットもまた、その長い尾を横薙ぎに振り、まるでボールを打ち返すようにグルバルバたちを吹き飛ばしていった。金属が砕ける音が響き、打ち返されたグルバルバの一機は壁にたたきつけられ、そのまま爆発を引き起こす。もう一機のグルバルバは、ガンタレットの方へと吹き飛び、巻き込みながら激しく誘爆を引き起こした。爆音と、装甲版が舞い散る中、燃え盛る炎の中には破損しながらも銃身を向けるガンタレットの姿がある。


「では、こちらも合わせていきましょうか、エクシア!」

「そうだね、ここで決めちゃおう」


 再びヒスイは棒杖を掲げ、隣に侍らせた白き獣ディノスたちを従えながら、凍える息吹フリージングブレスを放つ。真っ白な軌跡を描きながら、触れるものを凍り付かせるその息吹は、燃え盛る炎まで凍り付かせる。ガンタレットは瞬時に冷却され、軋むような音を上げながら銃座を回転させている。


「これだけ急激な温度の変化なら、随分と脆くなってそうだね」


 エクシアは数歩前に進み、ジェザイルをその場に落とす。そして、腰から二丁の魔導銃を引き抜いた。片手に収まるサイズの魔導銃デリンジャーを両方の手にそれぞれ握りながら、コマンドワードをマギスフィアに音声入力する。


『魔力充填、弾頭は《致命の弾丸クリティカルバレット》────じゃ、終わりだよ』


 すっと構えられた銃口から、それぞれ弾丸が発射された。魔力を帯びた弾丸は、彼女が狙った銃身と銃座の結合部へ、吸い寄せられるように進んでいく。二つの弾丸は、それぞれ競い合うようにして鋼鉄を食い破り、ガンタレットに修復不可能な風穴を開けた。

 耳障りな音をたて、ガンタレットが崩れ落ちる。あたりには破壊された防御機構と魔動機が散乱し、うっすらと黒煙がたなびいている。


「スカーレットがんばって~。全部は手当てしきれないけど、まだ大丈夫だよね、多分」


 再び、癒しの祈りキュア・ウーンズで仲間の傷を癒すレイジィ。流石にスカーレットの受けた傷を全て癒すことはできないが、残敵は東側通路のガンタレット一台だ。


「────さて、残りは一台だ。手早く片付けよう」


 イリは再び翼をはためかせながらそうつぶやき、その後ろに「アルテミス」のメンバーは続いていった。

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