第四話

【登場人物】

夕凪巫斗(ゆうなぎ みこと)(17)

財閥といってもいいほどの数の会社を経営している夕凪家の現当主にして、伊邪那岐命いざなぎのみことの転生体。誰にでも優しく、王子様のような性格だった。神樹のことが好き。

髪:黄色に一房だけ緑のメッシュのミディアム

目:緑


倉地神樹(くらち みき)(17)

8歳の時に交通事故で家族を失い、今は巫斗の家に居候している女の子。巫斗のことが好き。

髪:銅のシニヨン

目:銅


アカ(見た目16)

巫斗と神樹をループに巻き込んだ張本人。

髪:血のような赤

目:血のような赤


三島力(12)

巫斗の話の聞き手。

髪:明るい茶色。緩いウェーブがかかっている

目:焦茶


嵐山康(12)

巫斗の話の聞き手。

髪:茶色の癖っ毛。短い

目:黒


【本編】

アカ:「ふーん。……なあ、結構な確率でループから抜け出せる方法、教えてやろうか?」

巫斗:「……え?」

アカ:「簡単だ。……お前が自殺すればいい」

巫斗:「……!」

アカ:「あいつが死ぬ要因のお前が死ねば、あいつは死ななくなる。だから、ループもなくなる。簡単な話だろ? だしな」

巫斗:「……確かに、それは頭の片隅にあった。でも、そんなことしたら、神樹が……神樹が、一人になる」

アカ:「……けっ。まだアイツのことが好きなのかよ」

巫斗:「好きだ。神樹は、僕を受け止めてくれた人だから」

アカ:「じゃあ、なんで不幸にしてるんだよ。……殺してるんだよ」

巫斗:「君のせいじゃないか! 神樹を殺すって呪いをかけたのは!」

アカ:「いや、違う。お前にかけたのはそんなやつじゃない」

巫斗:「え……」

アカ:「『好きな人を殺す呪い』。それがお前に付与した能力、『かくてお前はまた殺すブラッディ・デイズ』の内容だ。お前はアイツを殺しているんじゃない。お前の好きな人を殺しているんだよ」

巫斗:「そ、れじゃ、僕が神樹以外を好きになれば、神樹は、幸せになれる?」

アカ:「そうさ。……なぁ、だからアタシを好きになってくれよ。伊邪那岐。アタシはもう死んでるから、殺したって死にやしない。だから、だから、なぁ?」

巫斗:「……まだ、できないよ。急に君を好きになるって。だから、僕は……」

アカ:「死ぬのか?」

巫斗:「……本当にこれで、神樹はループから抜け出せるんだな?」

アカ:「そこは知らないさ。結構な確率で、だからな」

巫斗:「……でも、これで神樹が救われるなら、僕は……」

アカ:「死ぬんだな」


(アカ、どこからか両刃の剣を取り出す)


アカ:「ほい。やるよ。『天尾羽張あめのおはばり』。にいにが持っていた剣だ。これでお前がその首を切るか腹を裂くかして死ねば、結構な確率でループは終わる」

巫斗:「……」


(巫斗、怯えながら天尾羽張を手に取り、首筋に刃を当てる)


巫斗:「アカ。……最後に、神樹に伝えて欲しいことがあるんだ」

アカ:「なんだ?」

巫斗:「……こんなことでしか君を救えなくて、ごめんねって」

アカ:「わかった。伝えてやる」(なぜか口の端をニィッっと吊り上げながら)

巫斗:「……ああああぁぁぁぁあああああ!」


(巫斗、自らの首を切る)


【八十神カンパニー廊下】

力:「巫斗くん、死んじゃったんですか!?」

康:「落ち着け力。……死んだ人間がここで話しているはずないだろ」

巫斗:「うーん。カンパニーの社員になるんだったら、その固定観念は捨てた方がいいと思うけどね。死を経験している人、何人もいるよ」

康:「いやいるのかよ!?」

神樹:「会長さんとか、一回死んでから神様になって、あの見た目で1000年以上生きてるみたい」

巫斗:「僕らも、精神だけでいったらそれくらい生きているけどね」

力:「それで、今の巫斗くんは……」

巫斗:「もちろん生きてるよ。……僕が自殺した後何があったのか、それは神樹に聞いた方がいいかな」

神樹:「そうだね」


【5月19日 夜】

神樹:「巫斗くん、帰ってこないなぁ……私を守るため、なんだろうけど、どこ行っちゃったんだろう?」


(チャイムが鳴る)


神樹:「? はーい」

アカ:「よっ。アタシはアカ。お前たちをループに閉じ込めている犯人だ」

神樹:「……っ!?」

アカ:「お、面食らっているみたいだなぁ。……とりあえず、要件だけ言って帰っていいか?」

神樹:「……私たちを元の日常に返してください」

アカ:「やなこった。アイツがアタシのことを愛してくれないからな。……ほい。お届け物だ」


(目の前に巫斗の生首が転がる)


神樹:「……ぇ? ぁ……。----いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

アカ:「なんで嫌がってんだ? コイツはお前のために死んだんだぜ? 自分の首を切ってな」

神樹:「巫斗、くん、みこ、と、くん……いや、いや、いや! なんで? なんで私のために死ぬの?」

アカ:「お前だって思ってただろ? アイツさえいなければ、お前は平穏に暮らせるんだぜ?」

神樹:「いや! こんなのいや! 私は、私は……巫斗くんと一緒に、日常を生きていきたいの! ……巫斗くんがいなきゃ、だめなの!」

アカ:「……本当に、いいのか?」

神樹:「……?」

アカ:「コイツの覚悟を無駄にしてでも、コイツと一緒に生きたいのか?」

神樹:「……」

アカ:「ま、やめておいた方がいいぜ? コイツはお前と結ばれることを諦めてでも、アタシと結ばれることを拒絶したんだからな。言ってたぜ? 『こんなことでしか君を救えなくて、ごめんね』ってさ」

神樹:「……私、わたし……」

アカ:「でも、そんな覚悟、並大抵のやつにできるわけないもんな。じゃあ、アタシは帰る。一人で、穏やかな日々を過ごすといいさ」

神樹:「……待って」

アカ:「ん?」

神樹:「私、やっぱり、巫斗くんと一緒に生きたい。それが、巫斗くんの思いを無駄にしちゃうことでも、それが私が今以上に苦しむ道でも……最後には、巫斗くんと笑いあいたいの」

アカ:「いいのか? それで」

神樹:「……うん」

アカ:「……じゃあ、方法は簡単だ。お前が死ねばいい。お前が死ねば世界は1日巻き戻って、コイツは生き返る」

神樹:「……それで、巫斗くんが生き返るんでしょ? なら、やらなきゃ」

アカ:「なら、これをやるよ」


(アカ、どこからともなく短刀を取り出す)


アカ:「それで腹でも切りな」

神樹:「……」(怯えの表情を見せるが、すぐに口を真一文字に結び、腹に短刀を当てる)

アカ:「何か、伝えておきたいことはあるか?」

神樹:「ないよ。……言いたいこと、後で私が全部伝えるから」

アカ:「そうか」

神樹:「……あ゛あっ!」(腹から血が滲む)

アカ:「……」(顔を背ける)


(神樹、そのまま自分の腹を切る)


神樹:「っ! ……自殺って、結構痛い、ね……。でも、み、こと、くんの、た、めって……考えたら……痛く、ない、かなぁ……」


【5月19日 朝】

(巫斗、ベッドから飛び起き、自分の体を見る)


巫斗:「……なんで?」

神樹:「巫斗くん、おはよう。……ごめんね」


【八十神カンパニー廊下】

(康、気持ちが悪そうな力の背中をさすりながら話しかける)


康:「力、大丈夫か?」

力:「うん、だいじょう、ぶ……」

巫斗:「あ、ごめんね。刺激が強かったかな」

神樹:「気分を悪くしちゃったのならごめんなさい」

力:「いえ、お気になさらずに……。お二人にとって重要な思い出だと思いますから」

巫斗:「それは確かにそうだけど、話して気分を悪くさせるのは申し訳ないよ。ちょっと休もうか。ここは時間の流れを無視しているから、デートが遅れるなんて心配しなくてもいいし」

力:「すみません」

神樹:「じゃあ私、あったかい飲み物でも取ってくるね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る