第三話

【登場人物】

夕凪巫斗(ゆうなぎ みこと)(17)

財閥といってもいいほどの数の会社を経営している夕凪家の現当主。誰にでも優しく、王子様のような性格だった。神樹のことが好き。

髪:黄色に一房だけ緑のメッシュのミディアム

目:緑


倉地神樹(くらち みき)(17)

8歳の時に交通事故で家族を失い、今は巫斗の家に居候している女の子。巫斗のことが好き。

髪:銅のシニヨン

目:銅


八十上出雲(やそかみ いずも)(17)

巫斗の世界の八十神出雲で、巫斗のクラスメート。見た目も八十神そっくり。

髪:青。襟足長め

目:青


アカ(見た目16)

巫斗と神樹が小学生の時に出会った不思議な少女。

髪:血のような赤

目:血のような赤


三島力(12)

巫斗の話の聞き手。

髪:明るい茶色。緩いウェーブがかかっている

目:焦茶


嵐山康(12)

巫斗の話の聞き手。

髪:茶色の癖っ毛。短い

目:黒


【本編】

【5月1日、教室にて】

出雲:「では、あの機械生命体のことは奇怪な塊、ということで『奇塊きかい』と呼ぶことにしましょう。名称を統一した方がわかりやすいですし」

巫斗:「そうだね。これからはそう呼ぼうか」

神樹:「それで、これからどうするの?」

巫斗:「……昨日、アカっていう女の子に会ったんだけど、たぶん、その子が僕らをループに巻き込んでいるんだと思う」

神樹:「えっ?」

巫斗:「その子が奇塊を作っているかもしれないし、他の人が作っているかもしれない。けど、その子について調べることは、ループ脱出のヒントになるかもしれない。……僕、もう一度会えたら、その子に話を聞いてみようと思う」

出雲:「……大丈夫なんですかぁ? それ」

巫斗:「殺されたらそれまでだよ。それに、その方が神樹を救えるとまで思っちゃう自分がいてね」

神樹:「……」

巫斗:「じゃあ、今日を何事もなく、過ごそうか」

神樹:「うん!」

出雲:「そうですねぇ」


【現在、八十神カンパニー廊下にて】

巫斗:「それで僕たち三人は、少なくとも半年で一千年の日々を過ごしたんだ」

力:「だから、語り出しがたった一千年の半年間、だったんですね」

巫斗:「そういうこと。……口で言うと簡単なことに聞こえるかもしれないけど、実際は地獄だったよ」

康:「地獄だろうな。オレたちが思ってる以上に」

神樹:「私は死んじゃうから体が痛くて、巫斗くんは殺しちゃうから心が痛くて。……でも、巫斗くんの方が辛かったと思う」

巫斗:「僕は神樹の方が辛かったと思ってるよ。体の傷は、記憶に刻まれるだろうから」

神樹:「それは心の傷でも一緒でしょ。巫斗くん、最後の方はだいぶ無理してたの、わかってるんだからね?」

巫斗:「……まあ、そうだね。無理してたかな。……こんな話をしていても仕方ないし、次の場面に行こうか。もう一度、アカと会った時の話だ」


【5月19日、公園にて】

アカ:「〜〜♪」

巫斗:「……アカ、見つけた」

アカ:「おう、見つかっちまったか。伊邪那岐いざなぎ、アタシに何の用だ?」

巫斗:「教えて欲しい。君がなんでこんな事態を引き起こしているのか、全て」

アカ:「……ま、いいか。減るもんじゃないし。隣、座りな」

巫斗:「……」

アカ:「最初は、何万年も前のことだ。アタシは泡が沸き立つようにして、この世に生まれ出た。父もいない、母もいない。けれど、家族はいた。……にいに、伊邪那岐命いざなぎのみことだ」

巫斗:「そのお兄さんが、僕の前世だって言いたいのか?」

アカ:「ああ。アタシとにいには国を産めと言われて、矛を渡されて、にいにがそれを天上からかき回して、島ができた。アタシたちはそこに降り立って、結婚した。何度か失敗したんだけどな。……にいにがアタシを見た時の笑顔、今でも覚えてる」

巫斗:「……」

アカ:「それからアタシたちは島を十四つ産んで、次に神をたくさん産んだ。三十五柱、だったか。とにかく産んだ」

巫斗:「子育て、大変じゃないのかな?」

アカ:「神なんて生まれた時から成人してるからな。……でも、アタシは死んだ。死んじまった。最後に生んだ神が火の神でさ。火そのものだから、産道を火傷してそのままぽっくり。……でも、後悔は無かった。これからアタシの子供たちが国を作っていく。そう確信できるぐらいには、子供を産んでたからな。でも、取り残されたにいには違った。狂っちまった。火の神を我が子なのに殺して、死人の世界までアタシを追っかけてきた」

巫斗:「……僕の前世、執着強いなぁ」

アカ:「アタシはもう踏ん切りがついて、黄泉の住人になってた。でも、にいにがそれを受け入れて、黄泉の住人になるのは嫌だった。だから、アタシはにいにを追い返した。……夫婦の縁を切ってでも、にいにには現世で幸せになってほしかった」

巫斗:「お兄さん思いだったんだね」

アカ:「そしたら、にいには神社に引きこもっちまって、何もせずに一日を過ごすようになった。……バカだよなぁ、にいには。アタシの本当の願いすら叶えずに、ただずっと、アタシに会いたいって言い続けてるんだから」

巫斗:「やっぱり執着強いなぁ……」

アカ:「そんなにいにの様子を心配しながら、アタシはずっと黄泉の女王として、死者を管理してた。結構前から、閻魔って言うやつが代行して管理してくれるようになったんだけどさ。それである日……伊邪那岐命が祀られてない場所で、伊邪那岐の気配がした」

巫斗:「……それは、おかしいことなのかな?」

アカ:「当然だ。神様っていうのは、信仰されてない場所には行けない。にいには日本中で信仰されているけど、中身は引きこもりだ。祀られている社以外に行くわけがない。でも、そのにいにの気配は、動いていた。アタシは散々悩んで、その気配の元へ行った。……にいにはな、自分の分霊を転生させてたんだ。にいにが持ってる神殺しの剣で自分の分身を斬り殺して、その魂を人間にした」

巫斗:「それが、僕?」

アカ:「いや。そいつは、女として生まれてきた。アタシは、にいにの生まれ変わりとはいえ女の子を愛せる性分じゃなくてさ。その時は見ているだけで終わった。でも、思っちまったんだよなぁ。……この子が男の子として生まれてきていたら、アタシはまたにいにと愛し合えたのかなって。そんなことを思いながら、何百年かを過ごして……また、にいには転生体を生んだ。それが……」

巫斗:「僕なのか……」

アカ:「そういうことだ。お前が男だってわかって、アタシは嬉しかった。諦めたとはいえ、またにいにと愛し合えるってわかって、喜んだ。いさんでその場に行って、目にしたのは……他の女を守ろうとしているお前だった」

巫斗:「……」

アカ:「絶望した。後悔した。そして何より……嫉妬した。憎んだ。お前に愛されてたあいつが憎らしかった。あいつを愛してたお前が憎らしかった! ……その時アタシは、カッとなって……お前と契約をした。『助ける代わりに、あいつを殺し続けるっていう地獄を見させる』。それが契約の内容だ」

巫斗:「……すまないけど、僕には君の兄さんとしての記憶はない。だから、どう頑張っても君の兄さんにはなれない」

アカ:「わかってるよ。それに気づいたのは、契約した後だ。でも、それなら、思い出させればいいって思った。だから……アタシはそれまで、この血まみれの日々をやめないぜ?」

巫斗:「……僕もわかったよ。たぶん、君とは分かり合えないって。……ちなみに、僕たちが奇塊って呼んでる、あの鋼鉄の化け物は、君が作ったものなのかな?」

アカ:「あれはちげーよ。やるんだったらもっとすごいものを作ってた。あれを作ったのは、人間だ」

巫斗:「そうか。じゃあ、僕がしたい話はここまでかな」

アカ:「ふーん。……なあ、、教えてやろうか?」

巫斗:「……え?」

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