第二話

【登場人物】

夕凪巫斗(ゆうなぎ みこと)(17)

財閥といってもいいほどの数の会社を経営している夕凪家の現当主。誰にでも優しく、王子様のような性格だった。神樹のことが好き。『かくてお前はまた殺すブラッディ・デイズ』という能力により、神樹を殺し続けていた。

髪:黄色に一房だけ緑のメッシュのミディアム

目:緑


倉地神樹(くらち みき)(17)

8歳の時に交通事故で家族を失い、今は巫斗の家に居候している女の子。巫斗のことが好き。『かくて世界はまた続くコンティニュー・デイズ』という能力によって、死ぬことにより一日をループさせられ続けていた。

髪:銅のシニヨン

目:銅


八十上出雲(やそかみ いずも)(17)

巫斗の世界の八十神出雲で、巫斗のクラスメート。見た目も八十神そっくり。

髪:青。襟足長め

目:青


アカ(見た目16)

巫斗と神樹が小学生の時に出会った不思議な少女。

髪:血のような赤

目:血のような赤


三島力

巫斗の話の聞き手。

髪:明るい茶色。緩いウェーブがかかっている

目:焦茶


嵐山康

巫斗の話の聞き手。

髪:茶色の癖っ毛。短い

目:黒


【本編】

【回想】

巫斗:「神樹、ごめん、また殺して……」

巫斗:「なあ、どいてくれ、神樹を助けたいんだ」

巫斗:「こうするしかないんだ。神樹を助けるためには、こうするしか……」


【八十神カンパニー、廊下にて】

巫斗:「って感じでね」

力:「それは狂っても仕方ないですね……」

神樹:「最初の一日が一番大変だったものね」

巫斗:「一万回はループしてたね。その間に、人を殺すことの大変さと、慣れることの重要性を知ったよ」

康:「人殺したのかよ!?」

巫斗:「最終的には殺さずに最初の一日を乗り切ったけどね。何回かは殺したかな。登校中に神樹を攫っていったヤクザとか」

力:「それは、ヤクザさんが神樹さんを殺したり?」

巫斗:「いや、ヤクザと戦っている最中の流れ弾に当たることがほとんど。ちなみに全部僕が弾いた弾。徹底してるでしょ?」

康:「うわぁ……」

力:「ひどいですね……」

巫斗:「それで、心が壊れながらも一日目を乗り切って、これで終わりかと思ったら……能力の効果はまだ続いてたんだ。心が壊れて、何人も人を殺して、何回も好きな人を殺すところを見て、成果はセーブポイントにたどり着けただけ。もう、ゲームだったら投げ出したくなってたよ」

力:「本当ですね」

巫斗:「さらに……追加で新要素が出てきたんだ。お助けアイテムじゃなくて、ステージの新ギミックが」


【4月30日、朝】

巫斗:「……おはよう、神樹」(涙を流しながら)

神樹:「……おはよう、巫斗くん」(同じく涙流し)

巫斗:「……でも、もしかしたら、今日も殺し戻りをさせられるかもしれない。登校する時や、今この瞬間も、気を抜いていられないね」

神樹:「うん。そうだね。じゃあ、朝ごはんにしよっか」

巫斗:「うん。食べようか」


(食事中、何やら外から騒がしい声が聞こえる)


巫斗:「……外が騒がしいね。何かあったのかな?」

神樹:「火事、とか?」

巫斗:「それで神樹が死ぬのは嫌だから、あまり関わらないように……」


(突然、夕凪家の壁を破り、無骨で巨大な機械生命体のような何かが入ってくる)


巫斗:「……は?」

神樹:「……巫斗くん、驚いてる場合じゃないよ! 早く逃げなきゃ!」

巫斗:「あ、ああ! はやk」


(機械生命体、腕を振る。巫斗、神樹、吹っ飛ばされる)


巫斗:「ぐわぁっ! 神樹、大丈、夫……?」

神樹:「こほっ……」


(神樹、巫斗の肘で腹を強く押され、血を多量に吐く)


巫斗:「やっぱり、まだ……。ぐっ……」


(巫斗、意識が遠のく——)


【4月30日、朝】

巫斗:「——また、か。日付は……やっぱり、4月30日。はぁ……とりあえず、早く朝食を終わらせて家を出ないと……」

神樹:「巫斗くん……ご飯にしよ?」

巫斗:「……ああ」


巫斗:「とりあえず……なんなんだあの機械生命体は? ……ごちそうさま」

神樹:「明らかに私たちを狙ってたよね。……ごちそうさまでした」

巫斗:「あいつが壁を破ってくるまであと五分。早く出よう」


【学校前にて】

巫斗:「……それで、」

巫斗:「なんでこっちを追いかけてきてるのかなぁ!」

神樹:「この機械、私たちを狙ってきてるの!?」

巫斗:「外に出たら待ち構えているとは思わなかったよ! そこからここにくるまでに八十回ほど神樹を殺してしまったし! ああ、もう! これじゃ周りに被害が出るじゃないか!」

神樹:「誰か助けて!」

巫斗:「このあからさまに危険な機械と追いかけっこをしている僕らを見て助けてくれる人はいないと思うよ!」

神樹:「うん、そうだよね……」

巫斗:「立ち向かえば僕は神樹を殺す! 逃げても僕は神樹を殺す! どうしようもないね!」

出雲:「ゆーなぎくーん! お元気ですかー?」

巫斗:「八十上やそかみくん! どう見積もってもこんなに走っているんだから元気なんじゃないかな!」

神樹:「助けて〜!」

出雲:「ええ!? こんなひ弱なぼくに何を期待しているんですかぁ!?」

巫斗:「学年一位の頭脳かな!」

出雲:「ええ!?」

神樹:「きゃあ!」

出雲:「もぅ、しょうがないですねぇ! ほいっとな!」


(出雲、機械に向けて水筒を投げつける。機械ショートする)


出雲:「これでいいですかね?」

巫斗:「ありがとう八十上くん! これで生徒の被害を気にせずに登校できる!」

出雲:「いや、まずあの機械なんなんですかぁ!?」


【二年三組教室にて】

出雲:「で、夕凪くんと倉地さんは一日を何回も繰り返している、と」

巫斗:「信じられないかもしれないけどね」

出雲:「信じますよぅ。だって僕、昨日実際に経験しましたからねぇ」

巫斗:「!? 経験したって……」

出雲:「まさか、そこまで回数が多いとは思いませんでしたけどねぇ。ぼくが経験したのは二、三回。ループの中のほんのわずか、ですから」

巫斗:「そうだったのか……」

神樹:「もしかしたら、他にもループを覚えている人がいるかもしれないってこと?」

出雲:「そうかもしれませんねぇ。まあ、ぼくみたいに何万回ループしたうちの数回、ぐらいしか覚えていない人もいるかもしれませんが」

巫斗:「とりあえず、そういう人たちを探しながら、神樹を殺さないように一日を乗り切る……。うーん。難しいね」

神樹:「でも、やらなくちゃ、私たちは明日へ進めないから。やろう!」

巫斗:「ああ!」

出雲:「ええ」


【現在、八十神カンパニー廊下にて】

力:「巫斗くんの世界の出雲さん!?」

康:「これまたすごい面子だな」

巫斗:「……本当にね。じゃあ続きを話そうか」


【数千回目の4月30日、放課後】

巫斗:「……やっと放課後だ……。結局、八十上くん以外誰もループのこと覚えてなかったし、その八十上くんもちょっと前まで説明し直さなきゃいけなかったし。前途多難だなぁ。今日も、そうやすやすと終わってくれるわけないしなぁ……。いてっ。ご、ごめんなさい」

アカ:「……まだ、アタシのものになってくれないのか?」

巫斗:「? ……あれ、君、どこかで見たことあるような……。アカ? でも、まさか、あの時から変わってない……」

アカ:「仕方ないだろ。アタシは神様なんだからさ。で? まだアタシのものになってくれないのか?」

巫斗:「神様……? それに、君のものって……」

アカ:「何千年も待って、待って、待ち続けて、ようやくお前と巡り会えたんだ。……なのに、なんで、お前は、他の女とイチャついているんだ?」

巫斗:「……君と会った記憶は、10歳のあの時の記憶しかない」

アカ:「なら、思い出させるまでだ。……そうだろ? 伊邪那岐いざなぎ?」

巫斗:「いざ、なぎ?」

アカ:「お前は伊邪那岐の転生体で、アタシに会うためにこの世に生まれてきた。そうだろ?」

巫斗:「……知らない。僕は、伊邪那岐ってやつじゃない。君の知り合いじゃない。この世に生まれてきた意味なんて知らない! ……帰ってくれ。君がこんな事態を引き起こしているなら、すぐに戻してくれ!」

アカ:「……戻さない。お前が伊邪那岐になってくれるまで、アタシはこの血まみれの日々をやめない。まあでも、『今日』はこのくらいにしといてやるよ」


(アカ、巫斗の目の前から消える)


巫斗:「……明日へ進む理由、ちょっと増えちゃったな。……他人の人生使ってまで、やることじゃないと思うから」


【現在、八十神カンパニー廊下にて】

力:「それじゃ、巫斗くんって……」

巫斗:「そう、日本を作った国産くにうみの神にして、天照大御神あまてらすおおみかみさまなどのたくさんの神様の生みの親、伊邪那岐命いざなぎのみことの転生体、だよ。姐さんもね」

康:「すげーひとだった……」

神樹:「私はそれを伝えられたの、ずいぶん後で。びっくりしちゃってショック死しちゃったのよね」

巫斗:「あれは本当にひどい殺し方だった。本当にごめんね。……じゃあ、続きを話そうか」

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