第25話 第八次・岐洲城攻略戦 弐
そうして籠城を決め込んだ継信軍だが、それに対して八咫軍は三日三晩続けて宴会を開いていた。
真っ昼間から酒に明け暮れ、夜を通して食い散らかしていたのである。甲冑も脱ぎ捨て、酔いつぶれて素っ裸で寝転がっている者が続出した。
兵の一人がひっくり返りながら上機嫌で言い放つ。
「ういー、ひっく。今度のお館様はいい人だなあ! おらぁ、こんなしこたま酒を呑んだのは初めてだぁ」
それを受けて、側にいた二人が反論した。
「だけどさあ、こんなことしてて勝てるのか? 俺たちゃ、あの岐洲城を攻めなきゃいけないんだろ?」
「そうだそうだ、なにせお館様は刀も振れない弓も引けない馬にも乗れないときたもんだ、そんな軟弱者が大将で、しかもこちとらたったの三百足らずだ、これであの天下の堅城なんて落とせるわけ無いだろ! 呑まなきゃやってらんないぜ!」
「およ、そうか。なんだか、おらぁ、おっかなくなってきた」
三人が意気消沈して黙り込む。でも、と傍からその様子を見ていた若い兵が口を開いた。
「でも、前の戦は勝ったんだよな」
そうして、三郎のいる本陣のほうを見やる。釣られて三人も目を向けた。
それらの眼差しには、期待と不安がないまぜになっていた。つまり、三郎が自分たちの主として信ずるに足りるのかと、値踏みをしていたのだった。
一方の継信軍も、こうもふざけた真似を見せつけられてはたまったものではなかった。
しびれを切らした家臣が注進する。
「殿、敵は油断しております、今叩けば必ず勝てますぞ!」
「馬鹿者! それが奴らの狙いだとわからんのか!?」
叱りつけた継信だが、彼自身相当ないらだちを必死に抑えていた。
昼間からあの醜態を見せつけられ、しかも夜に至っても宴の騒ぎが聞こえるのである。女と愉しもうとしても、騒ぎ声が耳に入って集中できないのだ。
まして、敵の大将のそばに二人の美女が寄り添って、常に相手をしているという。女好きの継信にとって、それが一番腹立たしかった。
「今動けば奴らの思う壺だ……。城にこもっていれば、負けることはないのだ。こうするのが正しいのだ……」
そう自分に言い聞かせることで、感情の昂ぶりをなんとか鎮めていた。
さて、八咫の陣。宴会を始めてから四日目の昼である。
「やれやれ、ただ食っちゃ寝するのもラクじゃないな」
三郎は陣中にこしらえた畳の間に寝転がって岐洲城を眺めていた。もちろん、甲冑も身に着けず、
「三郎様! いつまでこのようなことをお続けになるおつもりですか!?」
舞耶が甲冑を身に着けたまま怒鳴る。相変わらず真面目で融通がきかない。
「いいじゃないの、アタシはこういうの好きだよ」
京が三郎の頭に覆いかぶさる。視界を埋め尽くす豊満な乳房が迫ってくる。
「京、もういい! 離れろ!」
「なんでさ、女好きの敵の大将に見せつけるのが目的なんだろ? じゃあ、こっちだって迫真の演技をしてやらなくちゃあ」
「京は演技じゃないだろ!」
どうだかね~、とはぐらかされる。
「ええい、やめぬか! この淫乱女め!」
「アンタも『美女二人』のうちの一人なんだから、ちゃんと加わんなさいよ、舞耶姫?」
京の言葉に舞耶が瞬間沸騰する。
「び、美女!? って、某は姫ではござらん!!」
「あらあら、真っ赤になっちゃって、ウブだねえホント」
アッハハハハハ、と京が大笑いする。すでに舞耶は京の玩具になっていた。
さて、と京が立ち上がる。
「それじゃあ、アタシはそろそろ行くかねえ」
「ああ、頼んだ、大戸水軍の頭領さん」
「任しときな、お礼は身体で払ってもらうからね?」
そう言い残してこの場を去る。
……まったく、本気か冗談かさっぱりわからないな。
三郎がため息をつくと、舞耶が真面目な顔になって問うてきた。
「三郎様、そろそろですか?」
「うん? まあ、そうだな。三宅継信のイライラも限界だろう、恐らく今夜の内に仕掛けてくる」
「では――」
「ああ。次の段階だな」
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