その後の僕達

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 それから更に時は過ぎて、「天国と地獄」から半年……大きな事件も無く、僕達は平穏な日々を過ごしている。

 そうそう何度も「黙示録の使徒」や「エンピリアン」みたいな騒動があっちゃ堪らない。懸念されていた「触発的覚醒」の大連鎖も起らずに済んだみたいだ。ああいう事はもう一生、起こらないでくれるとありがたいんだけれど、世の中そうもいかないんだろうなと感じている。

 平和な内から先の事を考えて悩むのもバカみたいだから、今は深く考えない様にしているけれど。


 僕は高卒認定試験を終えて、バイクと自動車の免許も取った。これからは日本だけじゃなくて、世界中のフォビアに悩む人を助ける活動をしたい。色んな国の色んな人達と会って、超能力や超能力者はどうあるべきか自分なりに考えを深めたい。きっと良い事ばかりじゃないけれど、それも覚悟の上だ。

 そうだ、趣味を決めたんだ。僕の趣味は「旅行」にしたいと思う。今まで色んな所に行って来たから、どんどん旅慣れて多くの物を見てみたい。


 開道くんは中卒認定試験に合格してから、改めてC機関に移籍した。やっぱり自分のフォビアを役に立てたいという思いが強いみたいだ。

 開道くんに新たなトラウマを植え付けたバイオレンティストはもういないけれど、また恐ろしい目に遭うんじゃないかと少し心配だ。でも、嫌になったらまた帰って来れば良いんだし、二つの組織を頻繁に往き来する人がいたって良い。そう考えて僕は開道くんを止めなかった。

 元気に暮らしてさえいれば、それで良いさ。開道くんの将来について、あれこれと僕が口出しする事はない。ただ無事に暮らしていてくれれば……。それだけを望む。


 地下の子供達の内、年長の子……荒風さんと井丹さん、柊くんの三人は、順調に行けば来年には寮で暮らせる様になるみたいだ。ただ寮生活はちゃんと自己管理できる事が前提だ。お金の管理も掃除も洗濯も食事も、決めるのは自分。

 自己管理ができないと思うなら、まだ地下にいるという選択もある。地下生活でも研究所内なら一定の移動の自由が認められているから、そう焦って決める事でもないと思う。


 それから……小館真名武は地下に閉じこもるのをやめて、ここの研究員の人達と交流を始めた。超能力の研究に興味があるみたいだ。もしかしたら、ここで研究員として働くつもりなのかも知れない。

 実際に超能力が使える研究者はそんなにいないだろうから、彼自身が偉大な発見をする事になるのかも……。だけど、モーニングスター博士の二の舞を演じるのだけは避けて欲しい。こう言ったら悪いけど、まじめな性格だから思い詰めそうで。


 ウサギさん――事、半礼寅卯は上澤さんのお手伝いをしている。今では上澤さんの右腕みたいな感じだ。色んな外国語の読み書きができるから、他の研究員の人達からも重宝されているみたい。本格的に研究員として活動しても良いと思うけれど、僕の趣味の旅行にも付き合ってくれる。

 最近、ウサギさんはちょっと女性っぽくなったかなと思わなくもない。どこがとは言い難いんだけれど、雰囲気と言うか、仕草と言うか? 一人称も「俺」じゃなくて「私」に変わった。

 ウサギさんは今まで男の人として生きて来たけれど、今は女性として生きてみたいと思っているんじゃないだろうか? そう言えば、口調が上澤さんに似て来た様な気がするんだよなぁ……。あの人を見習うのか……。


 他には……そうそう、房来さんと弦木さんの二人もC機関に移籍した。

 フォビア生産計画――P3が消滅して、超命寺もいなくなったから、遺恨が晴れたらしい。遺恨の内容は誰も教えてくれなかった。もしかしたら二人もP3の被害者だったりするんだろうか?

 開道くんの事もあるし、最近はF機関とC機関の垣根が、低くなった様に感じる。良い事だ。


 地震のフォビアを持つ石建さんは、今も地下で眠りについている。まだ普通の生活をする決心は付かないみたいだ。でも、そう遠くない内に現代で生きると決心すると思う。何もできないまま緩やかに年を取って死ぬだけなんて、誰でも嫌だろうから。


 後は……特に変わりないかな?

 ウエフジ研究所の所長は相変わらず富士さんだ。この人は不死だから、ずっと所長をするんだろうか? それとも、どこかの時点で誰か……上澤さんとかに所長の座を譲るんだろうか?

 富士と言えば、裕花は東京の大学に進学するそうだ。でもF機関で働くつもりも、富士さんの研究を受け継ぐつもりもないらしい。お姉さんの豊花さんも、その気は全然ないって。超能力とは無縁の生活を送るんだろう。


 僕がウエフジ研究所に来て、まだ三年。

 この三年間で自分の道を見付けられた人も、まだ探している最中の人もいる。人の生き方はそれぞれだから、焦らなくったって良いさ。

 迷ったり立ち止まったりしても、ゆっくり自分を見詰めながら歩いて行けば良い。

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