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 火事は東へと移動して、遂にY市の隣のH市で起こった。次こそはY市だ。

 僕達はY駅の周辺でエンピリアンの到着を待つ。その間、真桑さんから僕に話しかけて来た。


「エンピリアンの目的は何だと思う?」

「モーニングスター博士は神に近付く事だと言っていました」

「それなのに、どうして街中で火事を起こす必要があるんだ?」

「分かりません」

「そこが重要だ」


 上澤さんはエンピリアンが火事を起こしている目的についても、何か知っている様子だった。確証が無いからという理由で、答えは言わなかったけれども。

 真桑さんは真剣に考えて言う。


「神になる事と、火事を起こす事は、何か関係しているのか? それとも全く関係ないのか?」

「上澤さんは関係あると思ってるみたいでした」

「……そりゃまた何故?」

「僕にも分かりません」


 本当に分からない。僕は何かを見落としているんだろうか?

 真桑さんは一度、双眼鏡型の生体電磁波観測装置を覗き込んだ。でも何も異変は見付けられなかったみたいで、小さく息を吐いて双眼鏡を下ろす。

 僕もサングラス型の生体電磁波観測装置をオンにした。

 真桑さんは話を続ける。


「それで……まあ、神になる事は一旦横に置いておくとして、火事を起こす目的について考えたい」

「はぁ」


 考えても分かる訳がないじゃないかという思いが、無気力な返事に表れてしまう。それでも真桑さんは構わずに続けた。


「まず、遊び半分とか、火遊びが好きとか、そういう理由はナシな」


 絶対にあり得ないって程じゃないと思うんだけど……。

 真桑さんも本気で考えてはいないんだろう。推理ごっこだ。エンピリアンが現れるまでの時間潰し。動機なき殺人は推理物としては下の下と言われるしな。


「取り敢えず、人殺しが目的じゃないのは確かだ」


 真桑さんの推理に僕は頷いて同意する。エンピリアンが関係していると思われる一連の火事での死者は少ない。大半がボヤで済んでいる。


「日中に火事を起こすのも理由があるんだろう。夜中ではダメな理由が」

「夜は休みたいからだとか?」

「……犯人にも休みは必要だろうが、普通は時間帯を絞らせない方が捜査を撹乱できて有利だろう。夜は眠るって子供じゃあるまいし」


 夜中に超能力が使えなくなるとは思えない。明るい時間帯じゃなければいけない理由がある?


「昼は人が多いから……とか?」

「殺しもしないのに? そうなると、とにかく目立つ事が目的に思える」

「じゃあ愉快犯なんじゃないですか?」

「それはナシだと言ったはずだ」


 真桑さん、意外と頑固だなぁ……。でも、上澤さんも「大勢の人の前でフォビアを使う」事に目を付けていた。目立つ事が目的だというのは正しいのか? 問題は「何のために目立つのか」という事?

 僕と真桑さんは答えの出ない問題に時間を費やす。


 やがてY駅に西から東に上る電車が到着した。直後、駅の方面が夕焼みたいに赤く染まる。生体電磁波観測装置が強力な脳波を捉えたんだ。


「真桑さん!」

「分かってる!」


 僕と真桑さんは人で溢れ返るY駅の中に突入する。

 人波を掻き分けて、僕と真桑さんは駅の西口から構内に入った。さっき到着した電車から降りた人達は、大半が中央改札を通るはずだ。僕達は注意深く中央改札を通る通行人を観察する。その中に際立って強い脳波を発している人は……見当たらない。全員、緑に近い黄色だ。

 真桑さんは痺れを切らして、自分から改札の駅員に向かって行く。


「向日くん、プラットフォームを見に行くぞ」


 真桑さんと中央南改札の駅員に駆け寄ると手帳を提示した。僕達は改札の横にある駅員専用通路を通り、プラットフォームに上がる。

 ……サングラスを通して見たプラットフォームは緑色だった。そこら中の人の頭部が緑に染まっている。

 通常より強い生体電磁波が観測されているのは間違いないけれど……下の階よりも弱まっている。エンピリアンから離れてしまったみたいだ。駅の近くで火事を起こすからって、電車で移動しているとは限らない。

 プラットフォームにもいないんだったら、電車じゃなくて他の移動手段を使っている可能性が高い。


「真桑さん、ここにはいないみたいです」

「そうだな。もう駅の外に出たのかも知れない。中央改札以外にも出口はある」

「そもそも電車を使っていないのかも」

「ああ、その可能性もあるか……畜生!」


 僕と真桑さんは東口から外に出て、辺りを見回した。

 やっぱり駅の中より赤に近い! エンピリアンはすぐ近くにいる!?

 僕は説明書にあったサングラスのサーチ機能を使ってみた。生体電磁波の強い場所に向かって三角形のマークが表示され、視線を誘導する。

 もしかして、これに従って移動すれば、エンピリアンに辿り着ける……? 三千万円強のお値段はダテじゃないって事か!


「真桑さん、僕に付いて来てください!」

「分かるのか!?」

「とにかく行ってみないと分かりません!」


 僕はサーチ機能に導かれるまま、駅の東口前から内湾に臨むバスターミナルに移動する。

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