6

 それから先の記憶はない。目覚めた時には、屋内のベッドの上だった。どうやら僕は気絶して、近くの建物に運び込まれたらしい。

 僕が体を起こすと、フレッドさんが話しかけて来る。


「ムコーサァン、カラァダハ、ダイジョーブデスカァ? Are you O.K.?」

「はい。ちょっとフォビアを使い過ぎたみたいです」

「ビックリデース。ムコーサン、neutralization powerノtargetハ、ESP、チョーノーリョク、ダケジャー、ナカッタンデスネー」

「ああ、はい。そうです……」


 僕のフォビアの対象は超能力だけじゃない。超能力と一緒に引き起こされる物理現象にも働く。そして……それは究極的には超能力とは無関係な物理現象にも通じる。

 心当たりはある。今まで何だかんだで瀕死になる程の大怪我を負わなかったのは、そういう訳なんだ。

 僕は深呼吸をした後、フレッドさんに問いかけた。


「あれから、どうなりましたか?」

「For the moment、ケーサァツニ、ジジョーヲ、セツメー、シマーシタ。アトォノ、so hassleナ、コォトハ、CIAトFBIニleave it、マァカセマショー」

「CIA……ですか」

「コノincidentデハ、CIAトFBIガ、joint investigate、キョーリョク、シーテマース」

「これで僕は日本に帰れる訳ですか?」

「Uh-oh ……マー、ソーイワァズニ、ユックリ、sightseeingシテッテ、クダサイヨ。ボクゥガ、famous spotsノ、アンナーイ、シマースヨー。オイシーfoodsモ、イッパイeatシマショー」


 今回の件は、これで終わったと思って良いんだろう。僕は大きな息を吐いて、肩の力を抜いた。


「そうですね……。せっかくアメリカに来たんですから」

「ソーデス、セッカァク、デースカラー」


 取り敢えず、この日は近くのホテルに一泊して、翌日から間欠泉巡りに行く事に。



 ……ところが、その日の夜になって僕達が泊まっているホテルの部屋に、多くの人達が訪れた。

 ノックされてドアを開けたフレッドさんは、ドアの前に集まっている人達に驚く。


「What's the matter with you all?」


 僕もドアの仕切りの向こうに見える多くの人に驚いた。どうやら昼間の黒衣を着ていた人達みたいだ。

 それからフレッドさんと謎の集団は、あれこれと話し合っていた。今のところは、冷静に話し合えている様子で、逆恨みで抗議しようだとか、暴動を起こそうだとか、そういう感じではない……と思う。


「Please give me his words」

「Wait, wait. He's tired. Don't disturb his rest」


 一体どうしたんだろうかと、僕は近付いてみた。

 そうすると、ドアの仕切りの向こうの人達は、一斉に僕に注目する。


「どうしたんですか?」


 僕がフレッドさんに聞くと、フレッドさんは困った顔をして言った。


「ドーヤァラ、カレラハ、ムコーサンヲ、ソノー……カァミサマノ、ホントノapostleデハナイカト、オモゥテイルミターイデース」

「あぁ、そうですか……」


 敵意は無いんだと理解した安心感と、同時に簡単に宗旨替えしてしまう人達への脱力感がこもった、深い溜息が漏れる。勝てば官軍という事なのか……。


「カレェラハ、ムコーサンカラ、so kindナ『オコトバ』ヲ、キキタイソーデース」


 面倒臭いと思いながらも、僕は答えた。


「余り奇跡を信じない様にと……いえ、僕が言います」


 最初は通訳してもらおうと思ったけど、下手でも何でも自分の言葉で語った方が良いと思い直す。


「Don't be misled by easily miracle. Your inspiration is not always right. Don't believe it too much」

「Then, what do we believe?」


 何を信じればいいのかって、そんなの僕に分かる訳がないじゃないか……。

 僕は考えに考えて、答えを絞り出す。


「Your goodness and kindness, not anger」


 それ以上、僕に言える事はない。

 僕の内心を察したのか、フレッドさんはドアを閉めた。


「That's all from him, think by your heart later」


 ドアを閉め切って溜息を吐くフレッドさんに、僕は申し訳なく思って尋ねる。


「僕は余計な事を言いましたか?」

「Don't mind、キニシナァイデ、クゥダサーイ。ソレヨリィ、ムコーサン、エーゴ、シッカリ、デキルジャナーイ!」

「A little bit、少しだけです」

「You kidding!」

「No no no, it's true. Don't flatter me」


 僕とフレッドさんは、にやりと笑い合った。

 その後で、思わずあくびが漏れる。まだ疲れが完全に取れていないみたいだ。


「Oh、ムコーサン、ハヤァメニ、get a sleepシマァスカ?」

「ええ、そうします」

「ソレジャ、have a good sleep」

「はい……。こういう時って何て返すんですか?」

「フッツーニ、You tooデース」

「それじゃあ……good sleep, too」


 僕はベッドに横になって目を閉じた。

 明日はイエローストーン国立公園の間欠泉巡りだ。一旦、仕事とかフォビアの事は忘れて、思い切って楽しもう。

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