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僕とフレッドさんは怪しい集団に近付いた。
遊歩道の内側は本来なら立入禁止のはずだ。イエローストーンの熱水泉は場所によって強酸性だったり強アルカリ性だったりするけど、オールドフェイスフルガイザーは強アルカリ性。噴出する熱水も100℃近い高温で、まとも浴びれば大火傷は必至、下手をすれば命を落とす危険もあるから、普通は近付こうとは思わない。
それなのに平然と集団で歩いているって事は、何か良くない事をしようとしているに違いない。
僕はフレッドさんに聞いた。
「この内側、insideは立入禁止……keep outですよね? 監視の人、watcherが何も言わないのは、どうしてなんですか?」
難しい日本語を避けようとすると、英語混じりになってしまう。フレッドさんの真似をしているみたいで、自分でもおかしい。でも笑っちゃいけない。
「カレラガ、マットーモニ、ミエマスカー? ドーミテモabnormalデース。Keep away from danger、『クンシ、アヤウキニ、チカヨラズ』デース。マー、Warning、『ケーコク』ハ、tryシタトオモイマースヨ。デモ、アトハat theirs own risk、『ジコセキニン』デース」
「彼等は何をするつもりなんでしょう?」
「ワッカリマセーン。I have a bad premonition、ワルイヨカンガシマースヨ……」
「それってGod's voiceですか?」
「……ボクゥノ、personal opinionデース」
フレッドさんの表情は険しい。
怪しい集団は間欠泉の周りをぐるぐる回っている。誰も彼も背中に何かを負って。小さなリュックサックを負っている人もいれば、大きなバックパックを負っている人もいる。その中で一際大柄で大きな荷物を負っている人がいた。
あれがストーンショルダラーなんだろうか?
僕とフレッドさんも立入禁止の遊歩道の内側に侵入して、黒い服を着た怪しい集団に更に接近する。
「僕、そんなに英語できないんで……フレッドさんが話しかけてもらえませんか?」
「ワカッテマース、leave it to me」
フレッドさんは緊張した面持ちで、黒衣の集団の一人に声をかけた。そして二人で英語で何だかんだと話している。少なくとも言い争っている風じゃない。平和な話し合いができているんだろうか?
しらばくして、フレッドさんは話を終えて、僕の方に振り向いた。
「ドーヤラァ、glossolaliaヲ、キカセテェ、クレル、ミタァイデース」
「グロッサレイリア?」
「セツメー、so difficultデース。In japaneseデハ、『
「パゼッシュン?」
「タァマシーガ、カラァダニ、advent……come downスルコートデース。ソシテェ、カァミサマノ、コトバヲ、ハナァシマース。ソレガ、glossolalia」
「それってGod's voiceと何が違うんですか?」
「ワカラナーイ。ナァンニモ、チガワナァイ、カァモネ?」
それはフォビアの事を言っているんだろう。フレッドさんの「神の声」がフォビアである様に、この怪しい集団もフォビアで神の声を聞いているのかも知れない。
とにかく僕達は黒衣の集団の前に立った。
何が起こるんだろうと、興味を持って待っていると、黒衣の集団は一斉に謎の言葉を口にする。
英語とは違う気がする。いや、僕が知っているどんな言語とも違う。そんなに外国の言葉を知っている訳じゃないけれど。まるで怪しい呪文を唱えている様だ……。
僕は一応フレッドさんに聞いてみた。
「この人達は何を言っているんですか?」
フレッドさんは困った顔で苦笑いする。
「……コレガ、glossalaliaデス。カミィサマガ、ジブンノカラダニ、come downシテ、ジブンデモ、unknown and ununderstandableナ、コトバヲ、ハナァスコト」
「アナンダスタンダボー?」
「『リカイフノー』ッテコートデース」
僕は不快な気持ちになった。
訳の分からない言葉が、神様の言葉だって? 何て言ってるかも分からないのに、それが正しいってどうやって証明するんだ?
疑いの気持ちと敵意が僕の中で大きくなる。未知に対する恐れ……なんだろうか?
「フレッドさん……この人達、頭おかしいんですか?」
「Oh……ムコーサン、ソレハtabooデース。カレェラハ、カレェラデ、マジィメニ、ヤッテルンデース。ヒトノfaithヲ、ヒテェイシテハ、イケマセーン」
「だってカルトじゃないですか……」
「オキモチハ、ヨーック、ワカリマァス。デモォ、ココハ、グット、ガマーンシィテクダサーイ」
僕はこの異様な行動を止めないといけないと思った。異言を語らせる事、それ自体がストーンショルダラーのフォビアなのかも知れない。火山の噴火とは関係ない能力だけど……偽物の奇跡で信者を集める役には立つだろう。フォビアを利用して人の心をどうにかしようなんて、まるで多倶知じゃないか!
僕が自分のフォビアを意識して数秒経つと、黒衣の集団のおかしな言葉は止んだ。誰も彼も夢から覚めた様な顔で、キョロキョロと辺りを見回している。
それから再びフレッドさんが黒衣の集団の人達と話を始める。
話が一区切り付いたのを見計らって、僕はフレッドさんに話しかけた。
「どうしたんですか?」
「ドーヤラ、tranceガinterruptサレタト、オモゥテルミタァイデース」
「インタラプト?」
「『ジャマ』、『stop』、『ボーガイ』。カレラハ、シンセーナ、コーイヲ、ジャマサレテ、confuseシテマース」
「……フレッドさん、あのグロッサレイリアはフォビアの影響ですよ。誰かの超能力です」
「I see、ソーミタァイデースネ……」
フレッドさんは小さく頷いてくれた。
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