4

 マリアさんの話で、今までとは比較にならないレベルの危険な事が起ころうとしている事は分かった。……だけど、僕のやる事はこれまでとそんなに大きくは変わらないだろう。問題は僕で止められるフォビアかどうかって事ぐらいだ。


 僕が聞くべき話は終わったんだろうけれど、退室のタイミングが分からない。マリアさんは上澤さんと話を始めてしまうし……。

 僕が退屈して小さく息を吐くと、フレッドさんが話しかけて来た。


「Neutralizerサン! I need to talk to you――チョットォ、オハァナシーガ、アァリマース」

「あの、フレッドさん、向日って呼んでもらえませんか? えーと、その……Please call me Mukō」

「Ah……ムコー?」

「はい。ムコウです」

「O.K.! I see、ワッカァリマシタ、ムコーサン」


 話が通じて良かった。どうも能力で呼ばれると嫌な感じがする。どうしてなのかは上手く説明できないけれど。できれば名前の方で呼んでもらいたい。

 フレッドさんは少し声のトーンを抑えて話し始める。


「ハナァシ、トユーノハ、アナァタノ、チョットprivateノコト。O.K.?」


 僕は少し構えたけど、取り敢えずは聞いてみない事には始まらない。

 僕は頷いて続きを促した。


「どうぞ」

「ボクゥノEイーSエスPピー、ヒトノmindガ、スコォシ、ワカァリマース。ムコーサン、アナァタハ、ナヤミ、モッテマス」

「悩みは……そりゃあ、まあ、ありますけど」


 余り真っすぐ見ないで欲しい。フレッドさんの青い目が僕の心を見透かしているみたいで落ち着かない。


「ボク、adviceアリマース。ムコーサン、listen to God's voice」


 ゴッズボイスって神の声……か? 自分のアドバイスを神の声って言っちゃうの? そもそもフレッドさんの能力は他人の知識を読み取るだけなんじゃ……。

 言いたい事は色々あったけれど、今は黙って聞く事にした。


「ムコーサン、ナゼGod's voice? Why? ト、オモゥテマースネ?」

「ああ、いや、ええ、まあ」


 僕は慌てて否定しようとして、そう言えばフレッドさんは思考が読めるんだったと思い出し、ごまかし切れずに肯定する。ちょっと不意を突かれた。


「ボクゥノESP、read other's mind. デモォ、ミィンナ、tell meシィテクレナーイ、in wordデ。シッテェルノニ、tell meシナーイ。ジャナイヨ、デモ、イワナーイ、イエナーイ。So difficult」


 この人は何を言ってるんだろう? 身振り手振りを交えているけれど、正直伝わって来ない。何が言いたいんだろう? 知ってるけど教えてくれない?


「ホーントハtell youシターイ。デモ、イエナーイ。『ハズカシー』or『don't know what to do』or 『bad timing』……リユーハ、イロイーロ、アァリマスヨー。ソォンナトォキニ、God's voice! イーニクイコト、イッチャウ! オーキナ、オセェワト、イワナイ。オヤクソォク」


 ああ、何となくだけど分かった。解決方法を知っていても、遠慮して言えない事とかあるもんな。出しゃばってると思われたくないとか、傷付けたらどうしようとか、余計なお世話じゃないかなとか……。

 それで、フレッドさんは僕にどんなアドバイスをしてくれるんだろう?


「ムコーサン、ヒトォツ、noticeシィテクダサーイ。アナァタノ、Fハ、モットgrowthシマース。ツヨクナァルヨォ」


 そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど……もしかして今のままだと勝てない奴が現れるって事なのか?


「どうすれば……強くなりますか?」

「ミッツ、adviceガ、アリマース。Three. O.K.? The first、ツミヲ、オッソレルナ。The second、マッヨウナ。The third is the most important; what do you want to do. アナァタガ、ドーシタイカ、ドーナッテ、ホッシーカ、keep in mind」

「僕が……どうしたいか……」

「Passiveジャ、ナァクテ、Active! ジッブーンノ、キモーチ、ダァイジニ、シヨーネ」

「あ、はい。ありがとうございます。Thank you」

「ドーイタシマシテ。Good luck」


 貴重なアドバイス……なのか? 実行できるかは分からないけれど、少なくとも無意味ではないと思う。今まで僕は自分のフォビアが通じないんじゃないかと、いつも心配だった。それがフォビアを強める事になるから、そのままでいるしかないと思っていたんだけど……。

 フレッドさんの言う「強くなる」は、また意味が違うんだろう。多分、能力の強さの事じゃなくて、「無力化」の更に先にある能力の事を言っている。

 グロースは「成長」って意味だ。純粋に能力を強化するって意味なら、リインフォースって言うんじゃないかな?

 でも、僕の無力感が進化するとしたら……何になるんだ? 無力化と全く関係ない新しい能力に目覚めるとは考え難い。フレッドさんみたいに反転するとか? そうなると自分の能力を強化する様になるのかな?

 だけど……僕は自分の力が強くなるってイメージが湧かない。そりゃ鍛えれば筋肉が付いて、その分だけ強くなった気がするけれど、それだけだ。

 自分の手には負えない、もっと大きな事態には何もできないんじゃないかと心配してばかりいる。

 ……その「大きな事態」が新生十二使徒なのか? 僕はもっとならなければならない?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る