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七日目、新しい家事代行の人が来る。
「すみませーん、ダイテツから来ましたー! 家事代行の
最初に応対するのは、正面を守っている警備の人だ。
「身分証とかありますか?」
「え、ありますけど……」
どうやら、この家事代行の人は余り詳しく事情を聞かされていなかったみたいだ。警備員の対応に困惑している。
社員証を確認して、警備の人は新しい家事代行の人を敷地内に通した。新しい家事代行の人は、若い女の人だ。ちょっと頼りなく感じて、大丈夫かなと思ってしまう。この人まで交通事故に遭ってしまったら、もう完全にフォビアのせいだと断定してもいいだろう。
家の中に入って行く新しい家事代行の人を見送りながら、僕は真剣に考えていた。
「向日くん? どうしたんだ?」
僕を心配して声をかけて来た拳さんに、僕は答える。
「あの人、大丈夫でしょうか?」
「若く見えても、プロだから心配は要らないだろう」
「プロ?」
「金をもらって仕事をするなら誰でもプロだよ」
「いや、そうじゃなくて……。また事故に遭わないかなと」
「冷たい言い方になるが、家事代行は警護対象外だ」
だから事故に遭おうが問題は無いって、拳さんは言いたいんだろう。でも、そうはいかないと思うんだけどなぁ……。
「この家に来る人が次々と事故に遭うみたいな事になったら、そうも言ってられないんじゃないですか?」
「その時はその時だ」
拳さんは冷静と言うか、冷淡と言うか……。まあ、先の事ばかり心配してもしょうがないってのは、その通りなのかも知れない。
幸い、その日は何も起こらなかった。
ところが八日目、新しい家事代行の人が買い出しに行った際に、またも交通事故が起こる。今度は自転車に轢かれたという。
新しい家事代行の人は右脚を骨折して入院。もう偶然では片付けられない。
だけど、フォビアの事を知らない廉市議員はイライラしていた。
「どいつもこいつも事故に遭うなんて、
大抵の事故は気を付けていれば防げる。それは事実なんだけど、フォビアが相手じゃどうしようもない。
拳さんは廉市議員に提案した。
「買い出しは私達が行きましょうか?」
「何を言ってんだ? あんた等の仕事は私の警護だろう」
「こう立て続けに事故が起きるのは、普通じゃありませんよ」
「何だ? 例の犯行声明と関係あるのか?」
「あるかも知れません」
拳さんの堂々とした物言いに、廉市議員は少し迷いを見せた。
「……警察の話では、テロとは無関係だったらしいが」
「そうですか」
拳さんはあっさりと引き下がって、それ以上は何も言わない。その態度が逆に廉市議員を不安がらせる。
「何か知っているのか?」
「私達はただ、あなたが狙われているという事しか」
「考え過ぎだろう。私も用心はするが、事故は事故だ」
そう言い切る廉市議員だったけど、表情は渋かった。事故と断定する事に、絶対の自信を持っている訳じゃないんだなと分かる。過激派に犯行予告をされて、気にしない訳にはいかないんだろう。僕達警備員も、そのために付いている訳だし。
「大袈裟なんだよ。どいつもこいつも。警備を付けるのだって、党の指示じゃなかったら無視してる」
この人が個人的に警備会社と契約した訳じゃないのか……? 党の指示って事は、現与党のお偉いさんがテロを警戒したのかな? 国内で何かあったら面目が立たないから?
一つ分かったのは、この人は自分の失言を少しも反省してないって事だ。世のためにも、人のためにも、何より本人のためにも、この人は政治家を辞めた方が良いんじゃないか? でも、変な人気があるからそれも無理か……。
九日目にまた新しい家事代行の人が来た。そして十日目にまたまた事故に遭って、入院してしまう。今度は全身を強打して複雑骨折の重傷だった。何とか一命は取り留めたけれど、全治半年らしい。
僕達が警護についてから二週間も経たない内に、三人の家事代行の人が交通事故で入院。仕出し弁当の配達の人を合わせると四人。これはもう偶然じゃ済まない。
廉市議員も昨日までの強気は消え失せて、拳さんに詰め寄る。
「……どうなってるんだ?」
「私達に聞かれても困ります」
「はぁ、そうだったな」
狙われている事を自覚して、ますますイライラしているみたいだった。
それにしても拳さんは上手くごまかしたな。
「偶然……本当に偶然なのか? それにしては……」
廉市議員は独り言を呟きながら、自分の部屋に引っ込んで行く。
明日には四人目の家事代行の人が来るだろう。相手はフォビアだ。また必ず事故が起こる。だけど、これ以上の犠牲を出す訳にはいかない。僕が何とかしてみよう。
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