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 僕は自分のフォビアについて、よく考えないといけないのかも知れない。少なくとも無力化の能力が働いているかどうかぐらいは、自分自身で即座に把握できる様にしておきたい。

 その点、現象が起きる系のフォビアは把握が楽で良いよなぁ……。はぁ、羨んでもしょうがない。

 そういう訳で、僕は昼休憩の時間に第一実験室を訪ねて、班長の小鹿野さんに話をしてみた。

 僕が事情を説明すると、小鹿野さんは笑って言う。


「あぁ、そんな事?」

「そんな事って……」

「いや、済まない、済まない。もっと早く言ってくれれば良かったのに。日富も意地悪だなぁ」


 どうして日富さんの名前が出て来るんだろう?

 僕が疑問に思っていると、小鹿野さんは肩を竦めて見せた。


「日富は定期的に君の心を読んでいるんだろう?」

「ええ、まあ」

「だったら、その程度の悩みは既にお見通しのはずじゃないか」

「それは……そうでしょうね」

「でも、日富は黙っていた。どうしてだと思う?」


 どうしてって……。


「そんな何でもかんでも面倒を見る訳じゃないって事でしょう?」


 実際そうだろう。心が読めるからって何でもやってあげる義理は無い訳で。


「まあ、そうだな。大切な事は自分で気付いて、自分から言い出すべきだ」


 そりゃそうだと僕は納得して頷いた。こんな事で日富さんを恨んだりはしないよ。

 小鹿野さんは少し間を置いた後、話を元に戻す。


「それで、自分のフォビアが発動しているかどうか知りたいって事だったね。超能力の発動を知るには、生体電磁波観測装置を使うのが一番いいんだけど、ちょっとお高いんだよね。量産できる物でもない」

「量産できないんですか?」

「技術的には可能だけど、需要がそこまで無いんだなぁ。フォビアを持つ人は少数だから。何百万とか普通にするぞ」

「そんなにするんですか……」


 お金を余り使わずに貯め込んでいる僕でも、数百万はポンと出せない。いや、でもケチケチしている場合じゃないのかな……。


「生体電磁波観測装置にも性能差があるし、良い物を使おうと思えば一千万ぐらいは覚悟しないと」

「い、一千万!?」


 一千万貯金するのに、何年働けばいいんだろう……。


「安物で良ければ、数十万ぐらいなんだけどな」

「あっ、それなら――」

「だけど、安かろう悪かろうで余り当てにならないんじゃ意味が無い。実用的なのが欲しければ、やっぱり二百万ぐらい必要だ」


 僕は両腕を組んで唸る。

 あーーーー、二百万かぁ……。貯金の大半を使ってしまうけれど、何とかならない事もない金額なのが、また悩み所。


「カタログあるけど、見るかい?」

「あっ、はい。お願いします」


 小鹿野さんは実験室の本棚から、クヲンエレクトロニックデバイス社のカタログを持って来る。表紙には厳ついフルフェイス型の黒いヘルメットの写真があり、その上に赤い太字で「クヲンのBEMW測定器」と書かれている。

 ここにも久遠グループが噛んでいるんだと僕は少し驚いた。久遠グループの会長の久遠くをん経時たつときは不死同盟の一人で、当然フォビアの事も知っている。

 そう言えば、しばらく不死同盟の話は聞いていないな。超命寺も不死同盟の一員だったはずだけれど、僕が超命寺を殺した事について、不死同盟の人達はどう思っているんだろう? 本人も同意の上だったから、問題ナシとして見過ごされているのか、それとも僕を脅威だと感じているのか……。

 まあ、そんな事をここで考えてもしょうがない。


 僕はパラパラとカタログを開いて商品を眺める。フルフェイス型、ヘッドギア型、眼鏡型、カメラ型、設置型……。

 僕はフルフェイス型からカメラ型まで何度もページを往復する。だけど、持ち運びできる小型の物は相応に高価だ。どれも百万円以上。中には五百万以上の物もある。フルフェイスやヘッドギアも、どこでも身に着ける訳にはいかないし……。そうなると眼鏡型とかカメラ型が良いんだけれど、こっちもこっちで高い。眼鏡型は軒並み二百万円以上。カメラ型も手軽に持ち運びできる様なのは、同じぐらいの値段だ。

 もっとお金があればなぁ……。思わず溜息が漏れる。

 僕が唸ってばかりいると、小鹿野さんが横から声をかけて来た。


「要は自分のフォビアが発動したかどうかだけ分かれば良いんだろう?」

「……はい」

「だったら性能が悪くてもいいんじゃないかな? これなんかどうだ?」


 小鹿野さんはページを捲って、設置型の最後の方のページを開いた。


「簡易観測装置。一定以上の生体電磁波に反応する。それだけの物だけど、フォビアが発動したかどうかを見るだけなら、これで十分だろう」


 大きさは80mm×160mm、持ち運びには困らないだろう。

 肝心の値段は……二万円? 安過ぎて心配になる。まともに働くのか?


「二万って、大丈夫なんですか? これこそ安かろう悪かろうなんじゃ……」

「まあ値段相応ではあるよ。欠点は強い電磁波に反応して故障してしまう可能性が高い事と、生体電磁波の細かい区別ができない事だ」

「強い電磁波って……」

「例えば、落雷とか放電とか、静電気にも弱かったりする。直射日光とか、高熱にも注意だな。だけど、壊れるのは他の装置も一緒だから。バカ高い眼鏡型とか壊したら立ち直れないだろう?」


 二万も十分高いんですけどね。まあ二百万がパーになる事を思えば、二万ぐらいと思わないでもない。

 まだ悩み続ける僕に、小鹿野さんは言う。


「迷ってるなら無理に買わない方がいい。このタイプのは誰が超能力を使ったとか、そういう事までは分からないからね。それに今まで持ってなくても困らなかったんだろう?」


 結局、僕はどれも買わない事にした。二万円ぐらいとドブに捨てる覚悟もできない僕は、度胸が足りない……。

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