プロフェッショナル
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また海外のフォビアが現れるまで、僕は平穏な日々を過ごす事になる。上澤さんの言う様に、P3が自然消滅してくれると嬉しいけれど、期待はしない。今もP3は僕の知らない誰かの手で続けられているだろう。
だけど、その事ばかり考えている訳にもいかない。何より心が疲れてしまう。休める時は休むべきだ。心も体も。
さて、六月も半ばになり、本格的に梅雨入りした。空調が働いているビルの中は快適だけど、一歩ビルの外に出ると、湿度の高さにうんざりさせられる。
ある日、僕はステサリーさん、皆井さん、倉石さんと穂乃実ちゃんと五人で外出する事になった。もう暑いから皆して夏の服装だ。
今の季節は皆、余り外出したがらない。気持ちはよく分かる。何もしてなくても、じっとり不快になる暑さだからね……。
小降りの雨の中、僕達はバスでリサイクルショップに向かう。リサイクルショップに行く目的は、パソコンを買うためだ。今までは無くても大丈夫かなと思っていたんだけれど、そろそろ必要だと感じる様になって来た。
C機関でフラッシュメモリを渡された件もあるし、そういう事が無くても勉強にも使えるし、持っていて損はないだろう。
それでどうしてリサクルショップなのかと言うと、皆井さんに勧められたからだ。中古でパーツを集めて自作すれば、安上がりだって。初心者に自作は厳しくないかと思ったけど、その辺は皆井さんが手伝ってくれると言う。
ステサリーさんもリサイクルショップ巡りの常連だけど、倉石さんと穂乃実ちゃんは違う。倉石さんは不良パーツを買い替えたいから一緒に行く、穂乃実ちゃんは……僕と外出したいだけっぽい。
穂乃実ちゃんが僕に好意を持ってるってのは分かるけど、恋愛感情とかじゃないんだよな。家族を失った代替というか……。そんな感じだと思う。
いつかは穂乃実ちゃんも自立する時が来るんだろう。そう考えると、ちょっと感傷的な気分になる。父親の気持ち?
僕達はバスに乗って、市内のリサイクルショップに着く。その名も「R屋」。
名前を伏せている訳じゃなくて、本当に「R屋」なんだ。「リサイクル」と「何でもある」の二つの意味が込められているらしい。売場面積は100㎡もないぐらいで、その中に所狭しと商品が並べられているから、もっと狭く見える。大きな地震が起きたら一発でアウトだろうなって感じの商品の積み方。
初めて来る場所に、穂乃実ちゃんは圧倒されていた。
「それで、どういうのが欲しいんだ?」
サングラスをかけた皆井さんが、店内で僕に問いかけて来る。
そんなに大層な機能が必要になるとは思っていない。インターネットに接続する予定も無いし、ハイスペックを要求されるゲームをする訳でもない。
「手軽に使える……ノート型のが欲しいんですけど」
「ノートか……。予算は?」
「十万までなら」
「それなりに余裕があるんだな」
「安いに越した事は無いんですけど」
「モニターはどのぐらいの大きさが良い?」
「えっ、小さ過ぎなければ、それで……」
「バッテリーはどうする? ソーラーも付けられるが」
「いや、ソーラーまでは要らないと思います」
「メモリとストレージはどのぐらい欲しい?」
一度に聞かれても分からないよ。僕は素人だという事を考慮して欲しい。
「安い低スペックのパソコンで十分ですから……」
「それでも目的があるんだろう?」
「あ、それは……えー、BDとか見れないといけませんね……」
「光学ドライブは外付でも良いかな?」
「はい。見る事ができれば、何でも良いです」
「そうなると……メモリもストレージも必要な時に増設すれば良いか」
僕と皆井さんが相談している間に、倉石さんはステサリーさんと話し合っている。
「バッテリーが寿命だと思うんだよね」
「前のバッテリーは?」
「F社の」
「A社のにしてみない?」
「あれって海外の新興企業だろう? 安かろう悪かろうは、ちょっと……」
「それは偏見だって」
二人は仲が良いんだろうか? それとも誰にでも同じ様な感じなんだろうか?
他の人達のプライベートって余り知らないから、よく分からない。誰が誰と出かけているとか、今まで気にした事なんか無かった。まあ、僕が気にする事じゃないな。
穂乃実ちゃんは僕の横で、部品の並べられた棚を真剣に見詰めている。……機械に興味があるのかな?
それから僕は皆井さんのお勧めで、三万円のノートパソコンを買った。素人に自作させるよりは、普通に既製品を買った方が良いと判断されたらしい。何か足りない物や追加で欲しい機能があったら、相談してくれと言われた。
倉石さんも欲しい部品が買えたみたいだ。一方で、皆井さんとステサリーさんは何も買わなかった。今日は目ぼしい物が無かったらしい。見るだけ見て何も買わない事はよくあると、二人は言っていた。
欲しい物が無かった時には、何も買わない。当たり前の事だけど、僕は何も買わずに出るのは悪いと思っちゃうんだよなぁ……。
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