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超命寺は僕の怒りを正面から
「ソノ通リダ。全テハ大事ノ前ノ小事ニ過ギヌ。ソレトモ君ハ、無為無策ノ
フォビアを悪用する人が現れるのを警戒するのは分かる。だけど、全てのフォビアを管理下に置く事なんかできないのが現実だ。フォビアが増えれば、当然悪用する人も増えるだろう。有用な能力であればある程、悪事に利用できるんだから。
この人は何もかもが自分の思い通りに行くと思ってるんだろうか? 僕にはそれが分からない。
「バカじゃないのか!? それで多倶知みたいに裏切る奴が現れて! 全部あなたの傲慢さが招いた事だ! 多倶知を止めたのは僕だぞ!」
「ソシテ、ソノ君ノ『フォビア』ヲ目覚メサセタノモ私達ダ……。君ハ『バイオレンティスト』モ止メテクレタ。実ニ天晴レ。褒メテ遣ハサウ」
僕が感情のままに吐き出した暴言にも、超命寺は動じず冷淡に切り返す。
僕はますます怒った。
「結果論だ!」
「サウトモ。結果コソガ全テ」
こいつ!
僕は殴りかかってやろうかという衝動に駆られた。だけど、この人を殴るのは気が咎める。超命寺は僕に全く抵抗できないだろう。目が見えず、腕も無く……。無抵抗の人を殴って、何になる?
怒りのやり場に迷う僕に、超命寺は言った。
「向日衛、モシ私ニ復讐心ヲ持ッテヰルナラ、『フォビア』ヲ使フガ良イ。コノ体ハ超常ノ力ニヨッテ存ラヘテヰルガ故、老衰シテ死スダラウ」
僕は耳を疑った。殺せと言っているのか?
一度振り返って、後ろに控えている男性秘書の顔色を窺うけれど、静かに僕を睨んでいるだけだ。止めもせずに、ただ黙って見てるってのか?
動揺する僕に超命寺は告げる。
「私ハ長ク生キ過ギタ。不死同盟ニ加ハッタハ良イガ……ヤレヤレ。臓腑ヲ引換ヘニスレバ、モウ数百年ハ生キラレヤウガ、最早ソノ気力モ失セテヰル。私ノ志ハ他ノ者ガ継グ。計画ハ既ニ我ガ手ヲ離レタ故、今更私ヲ
「……殺せと言われて、殺すと思うんですか?」
「罪ニハ問ハレヌヨ」
「そういう問題じゃないんですよ」
「君ニハ十分ナ理由ガアリ、私モ討タレテヤル覚悟ガアル。ソシテ何ノ罪ニモ問ハレヌナラバ、何ノ不都合ガアラウカ」
僕は二度首を横に振った。この人の倫理観では許されるんだろうけど、僕はそこまで開き直れない。
「殺して欲しいなら、それなりの態度があるでしょう」
「サウダナ。個人的ナ感情ヲ排スレバ、私ガ責メラレル道理ハ無イ。私ハ自ラノ正シサヲ信ジテヰル。何人ガ犠牲ニナラウトモ。P3ニハ、ソレダケノ価値ガアッタ」
僕が言いたいのは、そういう事じゃないんだけどな……。でも、この人は「どうか殺してください」なんてプライドが邪魔をして言えないんだろう。
「価値って何ですか? 家族や友人が、国とか国民よりも下の存在だとでも思ってるんですか? そんな訳ないでしょう。犠牲になった人の家族や友人にとっては、無為無策に殺されるのも計画のために殺されるのも、どっちも変わらないんですよ」
「君ハ私ヲ説得セムトシテヰルノカ?」
「そんなつもりは……いえ、そうです。その通りですよ」
僕は一度否定しかけて、思い直して肯定した。何のために僕がこんな話をしているのかというと、やっぱり超命寺にも後悔や反省をしてもらいたいからだ。心から申し訳ないと思って謝って欲しい。
だけど、そんな僕を超命寺は嘲笑う。
「青イ、青イナ。私ガ反省スレバ許ストデモ云フノカ?」
「それは分かりません。でも……多少の犠牲を認める事と、その犠牲になった人に申し訳ないと思う事は両立します。僕はそうあるべきだと思います」
「諦メ給ヘ。人ノ本心ヲ知ル術ハ無イ。
「確かめる手段はあります」
「ドウスルト云フノカネ?」
「簡単な事です。僕の質問に答えてください。中椎アキラを知っていますか?」
「アア、知ッテヰル。君ノ友人デ、多倶知選証ニ自殺ニ追ヒ込マレタ哀レナ少年ノ事ダラウ」
「その両親が今どこにいるか知っていますか?」
「否……知ラヌ」
「そうですか……」
僕は失望した。元から大して希望は持っていなかったけれど、もしかしたら露悪的なだけで、犠牲になった人を気にかけていたりするんじゃないかと……。
もう僕から言える事は何も無い。そして僕は心を決めた。
……しばらくして、超命寺の呼吸が少しずつ弱くなる。
「私ノ正シサハ、君ガ証明シテクレルダラウ……信ジテヰルヨ」
その言葉を最後に超命寺の息は完全に止まった。
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