革命の残滓
1
二月の上旬、上澤さんに召集されて、また寮の皆が会議室に集合する。今度は何の話かと、僕は落ち着かない気持ちだった。漠然とした予感に過ぎないけれど、この前みたいな良い話じゃないと思う。
いつもの会議室、いつものメンバーの前で、上澤さんは言う。
「皆、揃っているな。今日は良くない報せだ。先日、I県とG県の県境に近い、G県側のT市のJ銀行に強盗が入った。超能力者の事件だ」
「副所長。それは解放運動と何か関係が?」
声を上げたのは高台さん。
上澤さんは頷きながら答える。
「可能性は高いと思う。その根拠については……取り敢えず、これを見てもらおう」
上澤さんはスクリーンを下ろすと、プロジェクターで映像を拡大して見せた。
「これは犯行の様子を捉えた監視カメラの映像だ」
どうやら銀行の天井に取り付けられた監視カメラの様だ。空中からカウンターの周辺を見下ろすアングルで撮られている。画面は少し荒くて、人の細かい表情までは読み取れない。
突然、覆面をした大男が銀行に入って来た。周りの人に比べて、明らかに大きい。角度の問題でもあるんだろうけれど、普通の人の倍ぐらいある様に見える。
そいつはカウンターの周りにいる人を乱暴に押し退け、受付の女性銀行員に「金を出せ」と迫った。焦っている様子はなく、堂々と余裕のある素振りをしている。そのせいか、銀行員は相手が本当に強盗なのか判断できないみたいだ。「カードか通帳と印鑑をご提示ください」と冷静な対応をする。
だが、大男は「金を出せ」と再度要求する。それを受けて、銀行員も再度「印鑑と通帳を」と言い返す。
大男に対応している銀行員の背後では、他の銀行員が慌ただしく動き出す。カウンターで時間を稼いでいる間に、警察に通報しようとしているんだろう。
次の瞬間、銀行員が凄い勢いで後方に吹っ飛んで仰向けに倒れた。周辺の機械を巻き込んで、ガラガラガシャンと派手な物音が響き渡る。同時に大男はのっそりとカウンターを乗り越えて、拳でレジを破壊する。ガンガンと何度か叩いた後に、力尽くでこじ開け、札束を手持ちのバッグに収める。
銀行の中は警報と逃げ出す人で大騒ぎだけれど、大男は全く気にしない。大男は逃げ出さずに留まっている銀行員を、次々と謎の力で吹っ飛ばした。
そして抵抗する者がいなくなった銀行内を、勝手放題に荒らし回る。全てのレジとATMを破壊して、黙々と札束をスポーツバッグに詰め込んで行く。
余りに堂々とした犯行――犯行なんて生温い言葉じゃなくて、凶行としか言えない有様に、僕は恐怖を感じていた。
まともな神経の持ち主じゃない。同じ人間とは思えない。まるで熊か何かだ。大男は悠々と銀行から出て行く。
上澤さんは映像を切り替えた。今度は銀行の外の監視カメラ。一台のパトカーが銀行前で急停止して、中から二人の警官が出て来る。
大男は我関せずという態度で、パトカーの前を横切って去ろうとした。それを警官が呼び止めようとした瞬間、またも謎の力が警官を吹き飛ばす。二人の警官は大きくのけ反って、数mは吹っ飛んで道路上に倒れて動かなくなる。
開道くんと似た様なサイコキネシスの一種だろうか?
上澤さんは映像を止めると、僕達に向けて解説を始める。
「こいつは……通称『バイオレンティスト』だ。本名不明。フォビア持ちの上に危険思想の持ち主でもある。十年前は解放運動の一員だったが、余りに危険過ぎて縁を切ったという話だった。以後は行方を晦ましていたが……」
少し間を置いて、復元さんが上澤さんに問いかけた。
「どんな奴なんですか?」
「とにかく暴虐の一言に尽きる。何事も暴力で解決できると思っている。性格も横暴で歯止めの利かない危険人物だったから、解放運動も彼を見限った……はずだった」
重苦しい沈黙が訪れる。
復元さんが続けて問いかける。
「そんなのを俺達にどうしろってんですか?」
「場合によっては、諸君に出動してもらわなければならないかも知れない」
勘弁してよって感じだ。正直こんなのと戦うのは怖い。今までの奴等とは次元の違う恐ろしさを感じる。問答無用で腕力に訴える人間を、僕は今日この日まで見た事が無かった。
上澤さんは困った顔をして言った。
「基本的にはC機関が何とかすると思うが……。もしかしたら、こちらに協力を要請して来るかも知れない。覚悟はしておいてくれ」
それでこの話は終わりになって解散したけれど、周りの空気は重々しかった。皆も嫌だと思っているんだろう。誰もこんな奴の相手はしたくない。
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