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 ゲームの方は柊くんがメインでプレイして、荒風さんと小暮ちゃん、それに声無くんは倒される度に交替している。

 しばらく経つと声無くんも慣れて来たのか、余り倒されなくなったので、今度は柊くんと交替する様になった。それまで見ていただけだった井丹さんも加わって、男子と女子でローテーションが分かれる。

 一方で穂乃実ちゃんはと言うと、ゲームそっちのけで僕の隣でテストを見ていた。

 僕は視線が気になって、穂乃実ちゃんに尋ねる。


「穂乃実ちゃん……」

「おジャマですか?」

「そうじゃなくて……問題、分かるのかい?」

「ぜんぜん」


 じゃあ何で見てるんだろう? 小さい子の考える事は分からない。


「マモルさんって、頭いいんですか?」


 急な穂乃実ちゃんの質問に、僕は少し驚いた。ちょっとの間を置いて、僕は苦笑いして答える。


「まあ、そこそこ。良くもなければ悪くもないぐらい。中学の成績もクラスの真ん中ぐらいだったし」

「そうなんですか」

「だから勉強が必要なんだ」


 勉強してるから頭良さそうに見えたのかな? それは誤解だよ。そして勉強しても頭は余り良くならないっていう。

 何度もテストを繰り返して他人と成績を比較する様になると、地頭の良さが分かる様になるんだ。こいつとはが違うってのを、嫌でも分からされる。

 転校生の多倶知が、ちょうどそんな……まあ、こんな話はしなくても良いだろう。


 何だかんだでアクションゲームをプレイしている五人は楽しそうだ。ステージをクリアする度に喜んでいる。

 どちらか片方のプレイヤーが生きている限りは全滅しないシステムで、復帰も早い方なんだけど、それ前提の難しさなんだろう。同時に死なない様にするぐらいの工夫は必要だから、達成感はある。

 それはそれとして……相変わらず僕の横でテストばかり見ている穂乃実ちゃんに、僕は問いかける。


「穂乃実ちゃんはゲームしないの?」

「ゲーム、やったことないので……」

「何事もやってみないと楽しさは分からないよ」

「いいんです、これで」


 そんな事を話していると、小暮ちゃんがこっちを見て聞いて来た。


「あの、向日さんはどうしてホノちゃんを『ホノミちゃん』って呼ぶんですか?」

「え……ああ、名前の話? どうしてって言われても、そんな」

「わたしたちは名字じゃないですか」

「名前で呼んだ方が良い?」

「そーゆーわけじゃないですけど……なんでかなって」


 深い理由は無いんだけどな。


「穂乃実ちゃんは……皆よりも先に出会ったから……かな? 僕のフォビアが発覚したのとも関係してるし、僕の人生を大きく変えたって言うか……」

「トクベツな?」

「特別……まあ、特別ではあるね」


 小暮ちゃんは小首を傾げて、納得し切っていない様子だったけど、それ以上は聞いて来なかった。

 その後、荒風さんが小暮ちゃんとゲームを交替して、僕に質問する。


「向日さん」

「何かな?」

「どうして私とイタちゃんだけ、付けなんですか?」

「えっ、それは……荒風さん、年上じゃない?」

「年はそんなにみんなとちがわないんですけど」

「……皆いくつ?」


 僕が聞くと、荒風さんから答える。


「十二才です」

「九」

「十一……」

「十一です」

「私も十一」

「……十です」


 続いて穂乃実ちゃん、小暮ちゃん、柊くん、井丹さん、最後に声無くんが答えた。

 荒風さんが一番年上なのには変わりないけど、その荒風さんは不満そうに言う。


「一コしかちがいませんよ。向日さんは何才なんですか?」

「僕は十六だ」

「どうしてを使い分けるんですか」


 声を荒らげたりはしないけど、静かに抗議する荒風さん。

 僕は気まずくなって言い訳した。


「いや……背が高いから、もうちょっと年上かと思って。中学生ぐらいかと」

「学年は柊くんと同じですからね? 柊くんの誕生日が少しおそいだけで。ルーちゃんは一コ下で、ホノちゃんは三コ下です」

「そ、そうだったのか……。それじゃあ、荒風……?」

「……のままでいいです」


 まあ、一度慣れたら変えると違和感があるよね。気持ちは分かる。



 それから十二時になって、僕達は食堂に昼食を取りに行く。食堂では第一研究班と第二研究班の皆さんと会って、何だかんだと話をした。


「おー、子供達は向日くんの所にいたのか」

「はい」

「好かれてるな」

「そう……ですか?」

「向日くんが来て、子供達の訓練の効率が上がったからね。やはりFを無効にできる人が複数いると、Fを制御する能力の向上も早いよ」

「制御が上手くできる様になったから、自由行動を許可されたんですか?」

「ああ、ずっと閉じ込めておくのも悪いからね。まだ一人暮らしはさせられないが、せめて土日とか祝日ぐらいは自由にさせてあげたいと」


 成程、そういう訳だったんだな。

 子供達の昼食には量が少ない特別メニューが用意されていた。

 食堂のおばちゃん達には「お兄ちゃんだね」とからかわれる。お兄ちゃんか……。僕は一人っ子だったから、弟や妹がいる感覚は分からないな。どっちかって言うと、他人の子供を預かっている感覚なんだけど。



 昼食後、子供達は再び僕の部屋に集まってゲームをした。アクションゲームはクリアしてしまったので、今度はパーティーゲーム。穂乃実ちゃんも参加して、六人全員でワイワイやっていた。

 その間も僕はずっと勉強だ。実際の試験は九時半から十七時半まで、それを二日もかけてやる。途中で集中力が切れる様では、とても高卒の資格はもらえない。



 午後三時で子供達は僕の部屋を後にした。長居し過ぎるのは良くないと、それぞれの判断で遠慮したみたいだ。

 またいつでも遊びにお出でと、僕は六人に言って別れた。

 ……さて、まだ勉強の時間が残っている。かなり疲れているけれど、本番の試験は緊張するだろうから、もっときつくなる事を覚悟しないと。あの子達も中卒認定試験とか受けないといけないだろうから、機会があれば一緒に勉強しよう。

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