ブレインウォッシャーとの決着

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 どうにかブレインウォッシャーを探し出さなければならないという思いは、僕だけじゃなくて公安の人達やC機関、F機関も同じだった。それだけ洗脳のフォビアが厄介だという事だ。他の解放運動の連中は差し置いても、ブレインウォッシャーだけは止めなければいけない。

 だけど、ブレインウォッシャーがどこに潜伏しているかは不明のままだった。公安が総力を挙げて政界・芸能界・経済界・宗教界の関係者をしらみつぶしに洗っても、それらしい人物は見当たらなかった。

 いくらフォビア持ちと言っても、ある程度フォビアを制御できているなら、普通の人間と変わらない。能力を封印して一般人として暮らし続けるなら、見過ごしても良いのかも知れない。

 でも……僕には多倶知がいつまでも大人しくしているとは思えなかった。奴を誘い出す必要がある。僕の呼び出しに応じたみたいに、多倶知は乗せられ易い性格があると思う。プライドが高いから挑発されると黙っていられないんだ。

 ……僕はその事を他の人には話さなかった。僕が話さなくても日富さんを通じて伝わっているとは思う。だけど、それを見越して黙っている訳じゃない。横着だとか面倒臭がっているとかじゃなくて、多倶知と一対一で決着を付けたい。

 多倶知もそう思っているはずだ。何故なら、奴をつまづかせたのが僕だから。そして僕を躓かせたのも奴だから。

 勿論、日富さんには固く止められている。単独行動は絶対に許さないと。だけど、それが何だって言うんだ? どんな警告も罰則も、という覚悟の前には意味を成さない。そこまでしてもやる価値があると僕は信じている。


 そうした僕の反抗的な態度が原因なんだろう。僕はブレインウォッシャー捜索の情報を教えてもらえなくなった。自業自得ではある。

 その代わりに、久し振りに研究所のフォビアを持った子供達の訓練に付き合う仕事を与えられた。僕の本当の役割はそっちのはずだという事だろう。

 確かにその通りだけど、暴走を抑える口実みたいに利用されると好い気はしない。だからって、投げ出す訳にもいかないので大人しく仕事をする。

 ……吸血鬼の時みたいに、知らない間にブレインウォッシャーが死んでいるなんて事だけは勘弁して欲しい。


 僕は穂乃実ちゃん、柊くん、荒風さん、小暮ちゃん、井丹さん、声無くんの六人の訓練を担当する事になった。六人は多いんじゃないかと思うけれど、これも僕に余計な事を考えさせないためなのかも知れない。

 穂乃実ちゃんは余り火を恐れなくなって来た。自分の意思で火を操れる様になったのが大きい。火力を上げる事はできないけれど、マッチの火ぐらいの小さな火ならおこす事ができる。

 柊くんは太陽を直接見なければ、太陽の下に出ても平気になって来た。サングラスさえあれば外出には困らない。日光恐怖症のフォビアには……どんな使い道があるんだろう? 絶対に役に立てる必要は無いんだけど、何かに使えると分かればモチベーションも上がると思うんだけどな。

 荒風さんは元から強風が吹き荒れる日でもなければ問題は無かった。フォビアはそよ風を起こすだけのレベルから、空き缶を飛ばすぐらいの突風を起こせるレベルにパワーアップしている。

 小暮ちゃんは体力を付けて、少しぐらいの事じゃ疲れなくなった。それでも疲れ易い事には変わりないけど、着実に長持ちする様になっている。他人の運動能力を落とすフォビアについては……利用する事は考えない方が良いんじゃないかな? 制圧とかに使えない訳じゃないけど、荒事に進んで出たがる様には見えない。

 井丹さんは自分の痛みには強くなったけれど、他人の痛みに反応してしまう。そこからフォビアが発動してしまうのは、優しい性格だからなのかも知れない。

 声無くんは少しぐらい緊張していても、普通に喋れる様になった。知らない人にも自分から話しかけられる様になったんだけれど、逆に不意に話しかけられると弱い。もうちょっと度胸が必要だな。

 僕が訓練に付き合い始めてから数月の間に、子供達のフォビアはかなり上達したというか、制御できる様になったと思う。これが普通なんだろうか? でも、他のフォビアの人達の様子を見ると、どうも違うんじゃないかって気がする。小さい子は覚えが早いとか? 日富さんは僕の教えが良いからと言ってくれたけど、それはちょっと何でもお世辞臭い。


 あの事件から二週間……解放運動は弱体化して、もう解放運動という組織自体は機能してないも同然の状態なんだけれど、まだ子供達が自由に外出できる様にはなっていない。

 ブレインウォッシャーさえどうにかできれば……という思いが、僕の中にはある。他の連中は取るに足らない能力だろう。そう考えてしまうのは、僕が多倶知に恨みを抱いているからだろうか?

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