革命の終わりに
1
そして、そのまた翌日――恐ろしい計画から四日後の事、僕は昼食の時間に食堂で上澤さんと話をした。最初は僕が一人で昼食を取っていたけれど、途中から上澤さんが隣に座って来て言った。
「向日くん、この間はご苦労だったな」
「いや、まあ、はい……」
肯定するのも否定するのも何か違う感じがして、僕は曖昧な返事をする。
「解放運動の事なんだが、もしかしたら早期に片付くかも知れない。同盟から連絡があった。吸血鬼を除名するらしい」
「除名? 同盟って……」
一体何の同盟だろう? ひょっとして幾草が関係しているっていう、あの同盟の事なのかな?
「ああ、済まない。君にはまだ話していなかったか……後で副所長室まで来てくれ。そこで話そう」
それから僕は上澤さんと当たり障りのない世間話をして、昼食を終える。
一度自分の部屋に戻った僕は、午後一時を過ぎてから改めて副所長室に向かった。
「向日です」
「どうぞ」
「失礼します」
ドアをノックして、入室許可を得て、入室して、一礼。一通りの儀式の後に、上澤さんが話し始める。
「さて、そろそろ君にも同盟の事を話しても良い頃合だと思う」
「はい」
「同盟と言うのは、不死同盟の事だ」
「フシ?」
「死なないという意味の『不死』だよ」
「どんな同盟なんですか?」
「どんなって……」
僕が質問すると上澤さんは苦笑した。
「文字通りの不死だよ。いや、正確には不死と言うか、寿命が無い者達の」
「寿命が無い?」
「無いと言うのも変だな。まだ死んでいないだけだ。長生きしていると言い換えても良いかも知れない。まあ……老人会みたいな物だ」
「老人会……」
一気にどうでもいい感が増したぞ。不死同盟と老人会じゃイメージが天と地だ。
「その不死同盟って、幾草と何か関係あるんですか?」
「ああ、幾草。彼も遺伝子検査で長生きするかも知れないという事で、同盟に目を付けられている」
「同盟に入れられるんですか?」
「まだまだ先の話だろうがな。三十、四十ぐらいでは、お呼びがかからないだろう。五十、六十になっても肉体的な若さを保ったままなら」
「でも、本人の意思は……」
「そのぐらいになったら、もう普通の人間としては生きられないさ。そのための不死同盟だよ」
C機関やF機関がフォビアの仲間を見付けて集める様に、長い寿命を持つ人達もそうなんだろう。普通の人にはなれないから、同じ属性の仲間を集める。
僕は話を切り替えて、新しい質問をした。
「吸血鬼も不死同盟だったんですか?」
「そうだよ。元から同盟に帰属意識を持っていなかったみたいだが、一応は席を空けてあったんだ」
「それなのに、どうして今更?」
「庇い立てできないくらい事件の衝撃が大きかったって事だろう。吸血鬼も甘い処置を期待していた訳じゃないだろうが、同盟の影響力を知らなかったんだろうな。そもそも奴は同盟には興味が無かったか」
「同盟って、そんなに影響力があるんですか?」
「まずC機関とF機関のトップが、この同盟に加わっている。その他にも自称『足利の末裔』、久遠グループの会長、華族の令嬢と、政治的に面倒な人物が揃っている」
どう凄いのか僕には今一つ分からない。政治的に面倒な人だと吸血鬼をどうにかできるんだろうか?
上澤さんは僕の顔を見て言う。
「だから何だって顔をしているな?」
「いや、その……」
「C機関やF機関は警察と連携している。更に足利は政界、久遠は財界を動かせる。つまり、超法規的措置が可能になるという事だ」
「超法規的措置って法律的に大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないから超法規的措置なんだぞ。まあ、つまり……これからは手段を選ばず吸血鬼を抹殺するという事だ。吸血鬼は同盟の一員ではなくなった。もう日本人でもなければ、人間でもない」
それは余りに酷いと思うけど……何千人も死んだ大事件を起こした関係者だから、しょうがないんだろうか?
「不死同盟は長寿の人間が怪しまれず合法的に活動できる様にするための組織という一面もある。そこから除名されるという事は、重い意味を持つのだよ」
僕は射殺された霧隠れとブラックハウンドを思い浮かべた。あれこそ超法規的措置だろう。本当なら銃の使用が適切だったかとか、あれこれ問題になるはずだけれど、そういう話も無かった。
解放運動じゃないけれど、超能力は世間に認められるべきなんじゃないか?
だけど、これまでそうしなかったからには、それなりの理由があるんだろう。監視委員会みたいに超能力に反感を持つ人達が増えると、迫害されるかも知れない。
何が正しいのか僕には分からない。ああ、まだ沈んだ気分になる。情緒不安定だ。
「顔色が良くないな。まだ疲れがあるのか? 長話に付き合わせて悪かった」
「いえ、そんな事は……」
「しばらくは作戦を行う予定も無い。気分が整うまで、ゆっくり休むと良い」
「はい。失礼しました」
上澤さんに気遣われて、僕は副所長室を後にする。
こんなんじゃいけない。もっとタフにならないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます