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繁華街からバスに乗って久遠ビルディングに戻った僕は、自分の部屋で明日の事を考えた。
明日は……明日は中学校に行く。あれから二度と行く事はないと思っていた、母校――北中学校に。
本当に転校生が北中に来てくれるかは分からない。でも奴は「生駒カルト」という人格を謎に包まれた人物のままにしておきたいはずだ。自分の正体が「多倶知選証」だと明かされたくはないだろう。
来るさ。きっと来てくれる。
僕は不安を振り払う様に勉強を再開した。
午後五時になって、僕は明日の準備を始める。
もし転校生が来なかったら……「生駒カルト」のデビューと同時に、「多倶知」の名前を拡散して疑惑を広めてやる。ただの嫌がらせだけど、今の僕にできるのはこれぐらいしかない。本名を言うだけなら名誉棄損にはならないと思う。
もし来たら……一対一だという事を確認して、それから……何を話す? まず本当に解放運動に加わったのかどうか? それからいじめの事を今どう思っているのか? 開道くんが今どうしているのかも聞いておきたい。あいつが僕が知りたい事を、全て知っているとは限らないんだけど。
勿論、最初から話し合えるとは限らない。いきなり実力行使に出るかも知れない。
身を守る手段……あぁ、増伏さんのレクチャーが役に立つ。取り敢えず折り畳み傘を持って行こう。いや、奴が本当に一人で来るとは限らいないんだよな。仲間を引き連れて来たら、どうしよう?
僕も信頼できる人に付いて来てもらうべきなんだろうけど……。僕の独断に賛成してくれそうな人は誰だろう?
……いや、誰かが賛成してくれるなんて甘い考えは捨てよう。賛成してくれなくても構わない。とにかく僕の案に乗ってくれる人だ。味方が欲しい。勝手な行動だと怒られる事は覚悟して、誰かを引き込むべきだ。
転校生が一人じゃなくて複数で来た場合、戦うためのフォビアを持たない僕は袋叩きにされて終わる。最悪の状況を考えるなら、やっぱり誰かに話した方が良い。それで止められたら本末転倒だから、逆に僕を利用するぐらいドライな人……。
C機関の人……は連絡が取れないから無理だ。弦木さんも寮にいないから話をする機会が無い。他の人達は僕を止めそうだし……。雨田さんはどうだろう? あー……いや、ダメだ。お互いにそこまで信用が無い。
いっその事、自分から副所長の上澤さんに話してみようか? 何だかんだであの人が一番、思考が柔軟で話が通じそうな気がする。
あれこれと悩んでいる間に、時刻は既に午後六時だ。話は早い方が良いと思って、僕は携帯電話を手に取り、上澤さんの番号をコールした。
……一度、二度、三度、四度目のコールの後、通話が可能になる。
僕は自分からどんどん話す事で会話の主導権を握る。
「上澤さん、お話があります」
「どうしたんだ?」
「明日、僕はブレインウォッシャーに会いに行きます」
「急にどうした? そんな当てがあるのか?」
「あります。そこで万が一に備えて……支援と言うか、有事の際のフォローをお願いしたいんです」
「待て待て、話が読めないぞ。君は何を企んでいるんだ?」
困惑している上澤さんに、僕は強気に事情を説明した。
「ブレインウォッシャーの正体は、僕と同じ中学校に通っていた男子です」
「そうらしいな。それで、所在を掴んだと?」
「個人的に連絡を取って、呼び出しました。本当に来てくれるか分かりませんけど」
「どうしてそんな勝手な事をした?」
言われたくない事を言われてしまった。まあ当然、言われるだろうなとは予想していたんだけども。
僕は一息置いて、はっきりと答える。
「あいつと決着を付けるのは、僕だからです」
「何を言って――」
「ブレインウォッシャー、生駒カルト。本名は多倶知選証。転校生。彼は、僕の……親友の
「向日くん、何をするつもりなんだ?」
「ただ話をするだけです」
「やめておけ。危険過ぎる」
「だからフォローをお願いします」
「そんな勝手な――」
「お話はしました。僕の考えは変わりません。場所は北中です」
「キタチュー?」
「北中学校。どうか止めないでください」
そう言い終えると同時に、僕は一方的に通話を切った。
後は上澤さんの判断だ。僕はここにいて、逃げも隠れもしない。止めようと思えば止められる。何も起きなければ、許されたという事。
後で罰は受けるだろうけど……全部覚悟の上だ。僕はどうあっても奴の真意を確かめずにはいられない。
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