カルトとオカルト
1
他のフォビアの人達が調査や警戒に出動している間、僕は有事に備えて待機させられていた。いざ事が起これば僕の出番になるんだけど、それまでは動けない。
もどかしい……。僕も皆と一緒に出動したいんだけれど、最終兵器みたいな扱いをされている。こんなフォビアを持ってしまったばっかりに。他の人とは違う力ってのも良し悪しだ。
そんな事を考えながら、僕はS局の番組を見ていた。ニュース、芸能、スポーツ、料理……特に変わった事は起こらない。ずっと見ているのも退屈だったから、途中から勉強を始めて、ながら見になる。
芸能人とかタレントとか余り詳しく知らないから、そんな人の話を聞いたところで何も面白くない。「へー、そうなのか」と聞き流すだけだ。ドラマの主題歌を歌う様なミュージシャンとか、主演を務めるレベルの俳優の事なら多少は知ってるけども、お騒がせタレントだのご意見番だのには興味が無い。
料理番組も……僕がやる訳じゃないからなぁ。おいしそうだとは思うけどさ。こういう番組って毎回簡単そうに料理してるけど、実際にやるとなるときっと大変だ。
正午になって、トーク番組「エツ子の時間」が始まった。大物芸能人・
僕も土鰌エツ子ぐらいは知っている。最初は土生だったけど芸能界を泥臭く生き延びるって意味で「ドジョウ」って芸名を付けたとか、長く活動するためには「喋り」が上手くないといけないからトークの訓練をしたとか、そういう逸話のある人だ。
今日のゲストは……ショー・坂木!?
僕は勉強の手を止めて、静かにテレビに注目した。例の放送の後、出演者やスタッフはどうなったんだろう? このトークで何か語られるかも知れない。……語られないかも知れないけれど。
ショー・坂木はトーク番組に慣れていないのか、緊張している様子だ。口数少なく畏まった態度で、土鰌エツ子に促されるまま話をしている。マジシャンを志した理由だとか、渡米したきっかけだとか、どんな苦労をしたとか……。
いつ超能力の話が出るのかと僕は集中して聞いていたけれど、普通のトークで終わりそうだったので、また退屈して来た。
――ところが、遂にそのワードが出た。
「いや、でも僕のマジックなんて本物の超能力に比べたら全然まだまだですよ」
全く予想外の発言だったから、僕は自分の耳を疑った。
でも土鰌エツ子は多くのゲストを相手にして来た経験からか、余裕の態度で受け流していた。
「超能力って、本物の超能力をご覧になった事がおありですの?」
「はい。昨日の番組で」
「ワールド・ワンダー・ワールド」
「そうです」
「話は聞いておりますよ。大変だったそうですね」
あれを大変だったで済ますのか? 見てないからそう言えるんだろう。
昨夜の番組でショー・坂木はすっかり超能力の虜にされてしまったみたいで、嬉々として語り始めた。
「僕も今まで超能力なんて全然信じてなかったんですけど、やっぱり本物っているんですねぇ」
「でも種を見抜けなかったって事でしょう? それにしては随分と嬉しそうだ事」
「いや、世界が変わりましたよ、本当に。あれは自分で体験しないと分からないと思います」
洗脳されているんだろうか? それとも素で超能力に感銘を受けてしまったのか? どっちにしてもおかしくなってしまった事だけは確かだ。土鰌エツ子とのテンションの差にも気付いていない。
「坂木さんは売れっ子マジシャンだそうで。大変お忙しい中、この番組にお越しいただいて、本当に感謝しております。この後すぐアメリカにお戻りになるのですか?」
それでも土鰌エツ子は動揺を顔に表さず、話を元に戻そうとする。プロだなぁ。
「いえ、しばらくは日本に滞在しようと思っています。マジックショーをやらせてもらいながら、本物の超能力を広めるために」
「あら、そうですか」
「はい。もう商売は完全に度外視で、格安で引き受けますから、どうぞ宜しくお願いします」
一方でショー・坂木は狂ったまま。
どうしてカメラに向かって頭を下げるんだ? ここで興行主を募集しているのか?
「宜しくって何を……。えー、今日のゲストは世界的な一流のマジシャン、ショー・坂木さんでした。どうもありがとうございました」
「ありがとうございました」
土鰌エツ子は付き合い切れなくなったのか、強引に話を締めた。
これからショー・坂木は超能力の宣伝マンとして生きて行くつもりなんだろうか? 正気じゃない。これも解放運動の思惑通りなんだろうか? こうやって地道に理解者や賛同者を獲得して行くつもりだと?
だけど、ショー・坂木は分かっていないよ。超能力者が社会の支配層になるべきだっていう、解放運動の真の狙いを。そして……超能力も永遠の物じゃないって事を。
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