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 超能力軍団の二番手は自称「念動力者」だ。サイコキネシス、手で触れずに物を動かすという古典的な超能力。F機関に入る前なら僕も信じていなかっただろうけど、これは本物かも知れない。そう思いながら僕は画面を注視した。

 ところが念動力者が披露した超能力は、僕の想像よりしょぼかった。テーブルの上に置いた半透明のサイコロ大のキューブを、ちょっとずつ引き寄せるだけ。もっと大きな物を動かさないのかと僕は苦笑い。これなら開道くんの方が凄かった。

 出演者達が驚いた顔をする一方で、ショー・坂木は既にトリックを見抜いたのか、呆れた様な笑みを浮かべている。


「これは磁力です。キューブの動き方で分かります。このキューブには極小の金属片を混ぜてありますね。服の袖に電磁石を隠しているでしょう。電気を止めたり流したりする事で、こういう動きをします。もっと軽い紙ぐらいなら静電気の力だけで引き寄せられますが、ちょっと重くなると金属を混ぜないと動きません」


 ショー・坂木は得意満面で、自分のポケットから小さな磁石を取り出して、キューブに近付けた。キューブは磁石にすっと引き寄せられて、くっ付いてしまう。


「これ以上、僕が言う事はありません」


 取り付く島もない切り捨て方だ。審査員の判定は一対五で偽物。唯一本物判定を出したのは、ゆるふわ系の人。「何だか可哀そうだから」という、どうしようもない理由だった。


 そして三人目の超能力者が紹介される。人でも動物でも思うままに操れるというマインドコントロールの達人らしい。この人が最後の砦だからなのか、一人だけ特別に映像が用意されている。屋外で犬や猫を立ち上がらせてバレリーナみたいにくるくる回らせたり、ライオンやトラを寝かせたり。人間も操れるのかは、この映像からは分からない。

 もしかして彼の正体は吸血鬼じゃないだろうかと僕は思う。奴の催眠術なら、このぐらいの事はできそうだ。

 マインドコントローラーはショー・坂木と向かい合って立った。睨み合う様に数秒の沈黙があった後、ショー・坂木は表情を強張らせ、小声で何かを言い始める。


「ちょ、超能力……超能力です。超能力は本物です」


 ショー・坂木は引き攣った顔のままで、いきなり奇行に走る。


「超能力バンザーイ! 超能力バンザーイ!」


 彼は両手を全力で上げ下げしながら大声で叫んでいる。それなのに顔は少しも笑っていない。

 何かのギャグだろうかと僕は思った。他の出演者もドン引きしている。

 次の瞬間、司会者のベテラン芸人も同じ事をやり始めた。


「超能力バンザーイ! 超能力バンザーイ!」


 隣にいる進行役の女性タレントは驚愕の表情で固まっている。そりゃびっくりするわな。テレビの前で見ているだけの僕だってびっくりしてるんだから。

 それから会場のあちこちで「超能力バンザーイ」と声が上がる。最終的には全員が狂ったみたいに「超能力バンザーイ」を連呼した。

 その異様な空気に僕は恐怖を感じる。誰もこの異常な行動を止められないままに、番組はCMに入った。


 平和なCMの時間。異常さから解放された僕は、常識的な思考に返る。

 ……ヤラセなんだろうか? いくら何でもおかし過ぎる。CMが終わったら、何事も無かったかの様に元に戻っているんだろう。

 僕は特に根拠もなく、そう思った。そうであって欲しかったっていうのが、正直な気持ちだ。


 ところが、二分後に番組が再開しても異様な空気は変わっていなかった。相変わらず全員が声を揃えて「超能力バンザーイ」と叫んでいる。表情は人ぞれぞれで、困惑している人もいれば、自棄になっている人もいるし、泣きそうな顔の人もいる。誰もやめたくてもやめられなくなってしまっているみたいだ。その中で、マインドコントローラーだけが平然と何もせずに立っている。

 番組はもう少しで終了の時間を迎えるのに、一向に収まる気配がない。これから終了までの約十分間、この異常事態を放送し続けるつもりなんだろうか? 完全に放送事故だ。スタッフらしき人が何人か裏から回り込んで、出演者に奇行をやめさせようとしたけれど、その前に取り込まれて一緒にバンザイをしてしまう。

 余りに滑稽だから、やっぱりヤラセを疑ってしまう。まともなのはカメラだけだ。この異様な雰囲気の中で、しっかりと出演者の狂った姿を放送している。


「中止、中止!! ストップ!! ストーーップ!!!!」


 大声で誰かが叫んでいる。サングラスをかけた男の人だ。番組のディレクターなんだろうか? でも狂った流れは止まらない。結局この人も呑み込まれて一緒にバンザイしてしまう。

 直後に画面が切り替わって、青一色の背景に白文字で「しばらくお待ちください」と表示された。そのまま再度CMに移って……最後の最後に狂ったバンザイを背景に「この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りしました」で終わってしまった。


 ……制定者が言っていたのは、これの事なんだろうか? これを見せて何の意味があるんだ? ここから何か事態が動くんだろうか?

 分からない。僕には何もかも分からない。

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