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ショー・坂木の紹介が終わると、今度はマントを被った三人の人物が現れる。司会者が言うには、「霊能者軍団」らしい。一人は過去視ができるという人物。一人は未来視ができるという人物。最後の一人は守護霊が
僕は日富さんの事を思い浮かべていた。あの人なら、その気になれば過去視ぐらいはできるんじゃないだろうか?
勝敗は番組の六人のレギュラーとゲストが審査員となって多数決で決める。ボタンを押せば、パネルに本物と偽物の文字が表示される。本物は青地に白字、偽物は赤地に白字で、一目瞭然だ。
最初の挑戦者は過去視ができるという人。ショー・坂木の過去をどこまで言い当てられるか挑戦する。
結果は……いくつかのエピソードを言い当てたけど、大半を外した。特に誕生日を間違えたのが痛過ぎる。この人は過去視ができる訳ではないみたいだ。
ショー・坂木が解説する。
「事前によく調べてくださったみたいですが、僕のプロフィールにある誕生日は間違いです。SNSで公開されている誕生日は、マジシャンになると決心した日で登録してるんですよ。マジシャンとしての僕の誕生日って訳ですね。父と母は本当の誕生日を知ってるはずなんですけど、何故かSNSの誕生日を祝ってくるんです……。まさか忘れてはいないと思うんですけど」
そこから偽の霊能力を暴く。
「皆さん、ホットリーディングとコールドリーディングを知っていますか? ホットリーディングは事前に相手の情報を調査する手法です。SNSを調べるのは当然、家族や友人、仕事上の関係者、時には探偵まで使って、相手の個人情報を引き出します。コールドリーディングは相手の反応から情報を読み取る手法です。視線・表情・手の動き・息遣い、僅かな反応も見逃しません。この二つは決して超能力や霊能力ではありません」
審査員の判定は二対四で偽物。本物認定した一人はネタ枠の芸人、もう一人はゆるふわ系の女子タレントだからノーカウントだろう。
次の霊能力者は未来視ができるという人。この人はショー・坂木の近い将来について予言した。小道具を使ったりはせず、「ショー・坂木は超能力者を見破るのに失敗する」と。それに加えて「悪い予兆も感じる」とも言った。「放送中に何かアクシデントが起こる」……らしい。
明確に言い切ったから、ショー・坂木も驚いた顔をしている。
真偽は番組の最後まで分からない。審査員の判定も保留となった。
最後の霊能力者は守護霊が視えるという人。番組出演者の守護霊を次々と言う。
しかし、この人は最初の過去視ができる人より怪しい。明らかに胡散臭い。カエルの守護霊とかミジンコの守護霊とか、それは無いだろ……。
ショー・坂木も反応に困っている。こんなのをどうやって論破すれば良いのかって感じだ。言っちゃ悪いけど、バカは無敵なんだなぁ。
そのまま審査員の判定に移る。結果は……一対五で偽物。ネタ枠の芸人は守護霊をミジンコと言われて憤慨している。一方で守護霊を小野小町と言われたゆるふわ系の人は、ただ一人本物認定した。
所詮この程度の番組なんだろうと、僕は溜息を吐いて脱力する。こんなネタ番組で何かをするなんて、考え過ぎだったかも知れない。
僕は窓辺に移動してカーテンを少し開けた。夜空には白い月が眩しいぐらいに輝いている。今この時、どこかで何かが起きているのか……。
物思いに耽っていてもしょうがない。せっかく見始めたんだからと、僕は最後までワールド・ワンダー・ワールドを視聴する事にした。
今度は三人の「超能力者軍団」が現れる。霊能力者軍団と同じで、全員マントを被って正体を隠している。
一人目は自称「物質転移能力者」。全員が見ている目の前で、ショー・坂木がサインを書いたスペードのAのカードを密封した箱の中に入れる。その後、儀式めいた行動をしながら、サイン入りのカードを司会者のポケットから取り出す。最後に密封した箱を開けて、中身が空になっている事を確かめさせる。
こんな超能力はあり得ないから、どこかに種があるんだろう。そもそも物理的に不可能だからな。本当に瞬間移動しているなら、カードを隠す必要はないはずだ。
既にネタが分かっているのか、ショー・坂木は余裕を崩さない。
「これはカードを二枚用意しているんですよ。サインを書いた一枚のカードが、二枚に分かれるんです。皆さんカーボンシートって知ってるでしょう? 上から文字を書くと下に写る。仕組みはそれと同じです。私も同じ道具を持っていますよ」
そしてショー・坂木はマジックを実演して見せた。
「一枚に見えるカードですが、二枚に分かれるんです。カードに文字を書くと、下のカードにも写る。これをこっそり二枚に分けて、一枚は自分のポケットに隠す。もう一枚は箱に入れる。特に意味の無い動作で注意を逸らしながら、隠し持った一枚を他人のポケットの中にあったかの様に取り出す。最後に密封した箱を開ける時に、入れたカードをこっそり回収する」
これで瞬間移動した様に見えるという訳だ。成程なぁ……。
「他にもパターンはありますが、これはテクニックが必要な技です。気付かれない様にカードを分ける、他人のポケットの中にあった様に見せかける、最後に箱の中のカードを回収する、どれも素人には不可能です。道具に細工を施せば、もっと簡単にできます。それなのに道具の力を借りるのは最小限にしてテクニックでカバーした、その技術と心意気は素晴らしいと思います……が、超能力者を名乗ってはいけません。マジシャンはマジシャン、超能力者ではないんです」
会場で感嘆の声と拍手が起こる。インチキは許さないというマジシャンとしての矜持なんだろう。
審査員の判定は一対五で偽物。本物認定したのはネタ枠の芸人だけだった。「もしかしたらショー・坂木さんも超能力者かも知れないなぁ」とボケる。「そんなわけないだろ!」と司会者からツッコミ。
僕は段々まじめに見る気力を失くして来た。素直にバラエティー番組として楽しむべきなんだろう。
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