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カウンセリングを終えた僕は、自分の部屋に戻ってテレビで各局のニュースを巡回した。解放運動が何か大きな事を起こすなら、必ずテレビやラジオを使うと思った。インターネットで配信するにしても、大手が扱わなければ小事のままだ。僕達に向けて宣言した以上、打ち上げる花火は高く大きくなければいけない。しょぼい成果で満足する様な、情けない組織じゃないだろう。
テレビが伝えるニュースの内容はいつもと変わらない。やっぱり何かあるなら夜なんだろうか?
少しでも情報を仕入れようと、僕は売店に寄って新聞を手に取った。
唯一の店員の吉谷さんが、からかい半分に尋ねて来る。
「おっ、新聞を読み始めるお年頃かな?」
「いえ……ちょっと今日のテレビの放送予定が気になって」
「テレビで放送する内容を知りたいだけなら、テレビガイドがあるよ」
「そっちの方が詳しく載ってますか?」
「そのためのガイドブックだよ」
僕は少し考えた。十五夜は今日だけど、もしかしたら事が起こるのは明日、明後日かも知れない。でもラジオ番組もチェックしておきたい。テレビガイドより新聞の方が安いし……。
結局、僕は今日の新聞を買う事にした。
「新聞が一部っと。ありがとうございますー。ところで年間契約すると毎月三千円で購読できますけど」
「いや、遠慮しときます」
「はいはい。またのご利用をー」
僕は売店を出て、早足で自分の部屋に帰る。
部屋に戻った僕は、リビングのテーブルの上に新聞を置いて、番組表に目を通す。
まず午後六時以降の番組を見る。左から右へ、ニュース・ドキュメンタリー・バラエティー・ドラマ・アニメ……様々な番組がある中で、僕は一つのバラエティー番組に注目した。
午後八時から放送する「ワールド・ワンダー・ワールド」……今日は生放送二時間スペシャルで、有名らしい超能力者や霊能力者を呼んで、有名なマジシャンに見破らせるという。放送はS局。
……これか? これなのか?
数ヶ月前まで同じ枠で「ミラクル&ミステリー・マニア」という番組が放送されていたんだけど……司会者がベテラン芸人から中堅芸人に変わっている。時代の流れを感じるなぁ。出演者が変わったから、番組のタイトルも変えたんだろう。
この枠は……要するにオカルト番組枠だ。今はどうだか知らないけれど、数年前はそれなりに視聴率があったと思う。日本も含めた世界中の不思議な体験や噂話・未解決事件を、真偽はともかく面白おかしく伝える番組だった。
……終わった番組の話はともかく、新聞のワールド・ワンダー・ワールドの欄には「超一流マジシャン、ショー・坂木は『霊能力』『超能力』を見破れるか!?」と書いてある。
同じ面の右上には「気になる番組ピックアップ」と題して、いくつかの番組の詳細が書かれている。じっくり読んでみよう。
マジックの本場アメリカで活躍する超一流のマジシャン、ショー・坂木が、謎の霊能力者&超能力者軍団に挑む。果たしてショー・坂木は超能力のトリックを見破れるのか、それとも超能力は本物なのか? 完全生放送の二時間スペシャル。
面白そうではあるけれど……「これだ」という確信は持てない。こんなの成功しても失敗しても、大半の視聴者は番組内のヤラセだと思うだろう。騙され易い人は信じるかも知れないけど。
一応、予約だけはしておくか……。僕はテレビの番組表で視聴予約しておく。
これ以外にも何か無いか、僕は新聞のラジオ番組欄もチェックしてみた。だけど、今日は他に多くの人が注目する様な番組は無い。他局や他の番組が「いつも通り」の中で、ワールド・ワンダー・ワールドだけが秋のスペシャルと題して特番を放送している。
ついでに新聞記事を一面からざっと流し見してみたけれど、特に注目する様な記事は無かった。一面は景気が停滞しているという話、二面以降も経済対策がどうのこうので、事件という程の事もない。国際、スポーツ、地域、社会面も同じだ。
全く平和な一日の新聞。買わなくても良かったかなと思わなくもない。
その夜、午後八時。僕は食事も入浴も終えて、後は眠るだけの状態で、S局の特番を視聴した。
最初に司会者とレギュラーの出演者が挨拶をして、次にショー・
そこから数分間、ショー・坂木の海外でのマジックショーの映像が流れる。燃やしたトランプを復活させたり、曲げたペンを元に戻したり、箱の中のコインを手で触れずに動かしたり……どれも僕には種が分からない。この人こそ超能力者だと言われても信じてしまうかも知れない。マジシャンを名乗っているから、やっぱりどこかに種があるんだろうけど。
そこから更にショー・坂木の信念について、再現映像を交えた解説が入る。
ショー・坂木は超一流のマジシャンとして、ありとあらゆるマジックの種を知っている。最新技術の研究も怠らない。多くのマジックを見て来た彼にとって、どうしても許せないのは、マジックを超能力や霊能力と偽る人間。マジシャンやイリュージョニストを名乗るならともかく、インチキの超能力や霊能力で人を騙す事は許さない。それが超一流マジシャンのプライドなんだそうな。
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