怪奇! クモ女
1
十月、残暑も収まって涼しくなり始める頃、再びクモ女保護作戦が実行された。
まだF機関は開道くんを取り戻せていない。もしクモ女を捕らえる事ができれば、交渉に使えるかも知れない。今回の作戦で開道くんがクモ女と一緒にいれば、もっと都合が好いんだけど……。
今回、F機関から作戦に参加するのは、僕と弦木さんだけだった。C機関との共同作戦だから、余分な人員は要らないという事らしい。一応は復元さんも付いて来てくれるらしいけど、作戦に直接参加する訳じゃなくて後方で待機。
C機関は兎狩さんが倒された事で、面目を潰されたと思っているみたいだ。今までは解放運動を見逃して来たけど、もう容赦するつもりはないって事なのかも。
保護作戦の現場までは、笹野さんが運転する乗用車で移動する。その助手席には復元さん、後部座席には弦木さんと僕。
目的地に向けて高速道路を移動中、僕の隣で静かに座っていた弦木さんが、唐突に僕に語り始める。
「兎狩槍矢は俺の
「何で今そんな話を?」
困惑する僕に弦木さんは言う。
「今となっては槍矢とは疎遠になってしまったが、従弟は従弟だ。吸血鬼への
「はい」
今日の作戦で吸血鬼と遭遇するとは限らないし、そもそも止めを譲る余裕なんかあるんだろうかと疑問に思いながらも、僕は素直に頷いておいた。まさか弦木さんも本気で言ってはいないだろう。できればぐらいの話だ。
開道くんを取り戻すために、僕達は手段を選んでいられない。そこは弦木さんも分かっているはず。
……もしかしたら一人で吸血鬼とは戦うなという警告なのかも知れない。吸血鬼の能力は他のフォビア達とは一線を画している。変身に浮遊の超能力、そして催眠術。多くの能力を持った強敵だ。本当に人間なのか疑いたくなる。まともに当たっては勝てないだろう。
今回クモ女が潜伏していると予想されている場所は、Y県K市の市街地にある空きビルだ。前回とは違って、街中での戦いが予想される。人の多い所ではC機関もF機関も超能力を使い難いだろうという計算の上なんだろうか?
だけど、超能力解放運動にとっては超能力は隠しておかなければいけない力なんかじゃない。寧ろ逆に、もっと人目に触れる所で大々的に使って見せて、超能力の素晴らしさを宣伝してもおかしくない。
そう考えると、今回の作戦には少し不安がある。もし……もしも解放運動が、隠れて過ごす時は終わったと思っているなら……。いや、根拠もなく悪い想像を働かせるのはやめよう。C機関の人も一緒なんだから、何とかなるさ。
僕は心の中に生まれた小さな不安を強引に押し殺した。
笹野さんは例の空きビルから十数m離れた駐車場に車を停めた。僕と弦木さんは車から降りて、同じ駐車場内にいるC機関の人達と合流する。
そこには二人の男性と一人の女性がいた。全員黒いスーツを着て、頭にはフルフェイスのヘルメットを被っている。
怪し過ぎる……。三人の余りの怪しさに僕が二の足を踏んでいると、弦木さんが僕に声をかける。
「向日くん、君もヘルメットを被るんだ」
弦木さんは二つのフルフェイスのヘルメットを持って、片方を僕に押し付けた。
素顔を見られる訳にはいかないって事なのかな? それとも防具?
取り敢えず僕はヘルメットを受け取って被る。
C機関の三人は僕達を見て言った。
「F機関の者だな? 取り敢えず、全員の能力を確認しよう。俺は金縛りだ」
「俺は拳恐怖症、グロトフォビア」
「私は環境音失認」
それを受けて弦木さんもフォビアを明かす。
「鋭角恐怖症。それと……彼は無効化だ」
三人が一斉に僕を見る。
「無効化? 彼が?」
「ここに来たって事は、それなりに使える様になったって事か」
「この子が例の秘密兵器だったんだ」
僕はC機関では有名みたいだ。僕の全然知らない所で、こんな風に話題になっているのって、ちょっと嫌な感じだなぁ。
そんな事を思っていると、C機関側のリーダーらしき金縛りの人が、弦木さんに話しかける。
「こっちは俺と
「俺が突入に同行する。無効化には外で待機してもらう」
「成程、了解した。宜しく頼むよ、鋭角」
「こちらこそ」
金縛りの人と弦木さんは軽く握手をした。
でも能力の詳細とかは語らないのかな? そこまで連携する気は無いって事なんだろうか?
僕の疑問をよそに、四人はぞろぞろと駐車場から二つ隣の空きビルに向かって移動を始める。僕も少し遅れて付いて行った。
事前に話し合った通り、金縛りの人とグロトフォビアの人と弦木さんの三人がビルに突入する。僕と環境音の人はビルの外で待機だ。
突入直前に弦木さんは僕に確認した。
「五分毎に君の携帯電話にコールする。二種類のコール、覚えてるな?」
「はい。平常時と緊急時の二種類で、平常時が『かっこう』、緊急時が『剣の舞』」
「そうだ。もし緊急コールが鳴るか、十分間連絡が途絶えたら……分かるな?」
「まず復元さんに連絡して……僕も後を追って突入……」
「そうだ。この期に及んで、『できない』は無しだぞ」
「はい」
僕としては何事もなく終わってくれる事を望む。
弦木さんを含めた三人がビルの中に突入した後、僕は残された環境音の人と二人、ビルの入口で待機した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます