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フォビアの人達の話を聞き終えて、僕は多くの事を学んだ。フォビアに対する意識は人それぞれで、こうすれば良いとか、こうするべきだと言う結論を安易に出す事はできない。フォビアを拒むのも、受け入れるのも、本人の意思一つなんだ。
昼休憩を終えて午後一時、僕は副所長室に移動する。これからどんな話をされるんだろうか、緊張しながら僕はドアをノックした。
「篤……向日です。失礼します」
「どうぞ」
まるで僕を待ち構える様に――いや、実際に待ち構えていたんだろう。真剣な顔でデスクについていた上澤さんは、入室する僕に視線を向ける。
「よく来たね。話というのは、君の今後についてだ」
「はい」
「その前に問おう、君はフォビアをどう思っているかな?」
「僕のフォビアを……って事ですか?」
「いや、そうではない。フォビアという能力自体について、君が持っているイメージや感想を聞きたい」
「……フォビアとは望まない力だと思います。誰もフォビアになろうと思ってなる訳じゃないって意味で」
僕が答えると、上澤さんは表情一つ変えずに問いを続ける。
「フォビアを持つ事は不幸かな?」
「そうとは限らないと思います。自分のフォビアを使いこなしたいと思っている人もいます」
「……では、君自身はどうだろう?」
「僕もフォビアを使いこなしたいと思っています」
「成程、君の考えは分かった」
そして訪れる沈黙。上澤さんは僕の意見について何も言わなかった。賛同も批判もされない。少し不安になる。
上澤さんは僕を直視したまま、淡々と切り出した。
「それでは私達が君に期待している事を話そう。君にはフォビアの暴走を止めてもらいたい」
「暴走?」
「自分のフォビアを扱い切れない者……クラスAと言うんだが、そのクラスAの者達の訓練に付き合って欲しい。いざという時のストッパーとして」
「はい」
僕は素直に頷いた。そういう役割を果たせる事を僕自身も望んでいる。
上澤さんは付け加えて言う。
「更に向日くんには、フォビアの保護にも加わって欲しい」
「保護?」
「未発見の危険なフォビアの持ち主を確保して、制御可能になるまでここで身柄を預かる事だ」
「僕に……」
「やってくれるかな?」
危険なフォビアと聞いて、思い起こすのは穂乃実ちゃんの事だ。できるできないじゃなくて、やらなければいけない。僕が本心から本気でフォビアの人達を助けたいと思うなら。
「はい」
僕には自信が無かったけど頷いた。逃げる事はできなかった。いや、逃げたくなかったんだ。期待されているなら応えたい。僕も自分のフォビアを自信を持って受け入れたい。
「フォビアの保護は多分に危険が伴う。君を連れて行くにしても、能力の制御ができない段階では無理だ。未熟な者を危険に放り込む様な真似はできない」
「……はい」
「まずはフォビアを使いこなす事。それを最優先に考えてくれ」
「分かりました」
「私からの話は以上だ。
どうして二日も間を空けるんだろう? 明日からって訳にはいかないのかな……と思ったけど、土日分の休みをここで取るんだろう。今まで働いてるって意識が無かったから、気にもしていなかった。話を聞いて、検査して、話を聞いて、ここに来てからまともに仕事をした感覚が無い。
早く能力を使いこなしたい。そして多くの人の役に立ちたい。彼の死で目覚めた能力だから、ここで役に立てないとムダになってしまう。
本当は一日でも早い方がありがたいけど、他の人の都合もあるから、そうもいかないんだろう。僕の返事次第で今後の予定も変わっただろうし。
……頭ではそう理解していても、心が焦る。こういうのは理屈じゃないんだ。
二日間、ゆっくり休める気がしない。
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