第34話:太古の遺産
全員が、あっけにとられていた。
あのガラリアすらも――。
「き、キミぃ、やるじゃあないか……」
本当に、大発見かもしれない……。
僕は息を呑むと、ガラリアはぐっと拳を握りダッシュの体制を取る。
「いよーっし! 皆ボクに続けー! 突撃ー!」
「あ、ちょっと先生駄目!」
と、慌てて冒険者がガラリアを後ろから羽交い締めにする。
「ぬわー何をする馬鹿者離せー!」
「あんたそうやってこの前罠にかかったでしょ!?」
「知らんそんなことは忘れた離せ馬鹿者ー!」
ああ……苦労してんだな…………。
ともあれ、僕は冒険者たちを先頭にして奥へと進むことにした。
エメリアが僕のすぐ前を歩き言う。
「リゼルさんは、私が守りますからね」
あ、さん付けに戻ってる。
……魔導師を盾にして歩くって何か嫌だな。
でも僕は嘘をついた。
「はい! 頼りにさせてもらいます!」
「…………嘘わかるって言いましたよね?」
ひえっ。
「おーいリゼル氏ー!」
「あ、よ、呼ばれましたので、僕行ってきますね!」
「……はい、どうぞ」
エメリアが目だけ笑っていない笑みで返事するのを見てから、僕は慌てて駆け出した。
「よおし今度はすぐに来たなリゼル氏」
「はい、まあ……来ました」
「で、だ。この壁画を見たまえ」
僕の記憶にもまったくない壁画だった。
それが通路の奥へ奥へと続いている。
ガラリアは一度考えこむ素振りをしてから言った。
「おそらくここは[物語の間]だろう」
「確か、歴史が記されてるんですよね」
「おーそうだとも。座学一位は流石だな」
「ど、どうも」
……あれ?
それ話したっけ?
既に[冒険者ギルド]で僕のことが噂になっているのは知っている。
やれ魔獣の群れを空からの多段魔法で蹴散らしたとか。
杖の魔法で流星群を降らしたとか。
八体のキングベヒーモスを一撃で葬ったとか。
所々に尾ひれがついていたが、[魔法学校]座学一位なんていう地味な噂は無かったはずだ。
「でだ。リゼル氏よ」
と、ガラリアはぐいと僕の顔を寄せ小声になる。
「ここはボクが読むので黙っててくれ」
「何でです?」
「なんだかボクへの尊敬度がキミに奪われてる気がしてならんのだ」
あ、こんにゃろ……。
と、ガラリアは僕の返事も待たずに冒険者たちに向け言った。
「あーキミたち。今から僕がここの[古代文字]を翻訳していくので、ちゃんと聞いておくように」
「え、興味無いんすけど」
「ぶっ飛ばすぞお前」
「お、押忍! 聞かせてください先生!」
……苦労してんだな。
それとも案外楽しんでいるのか?
「あーリゼル氏、一応念の為キミも確認しながら聞くといい」
「わかりました」
と僕は[翻訳の魔導書]を使う。
壁画は、ずーっと奥まで続いているようだ。
ガラリアも、自前の本を片手に[古代文字]を読み始めた。
「ではではー行くぞ諸君たちー。――むむ…………」
ガラリアはいきなり止まった。
「……僕読みましょうか?」
この人結構口だけなとこがあるのでは……。
「やめろ」
……そんなマジなトーンで言われても……。
だが、少しガラリアの様子がおかしい。
僕は先にこっそりと[古代文字]の内容を読み取る。
これは――。
やがて、ガラリアはひとしきり悩んだあと、
「遅かれ早かれ広まる、か――」
とつぶやいてから、解読を再開する。
「〈帝国〉が、奪ったものを」
冒険者たちが、ざわついた。
遺跡に残っている碑文は、大抵が〈帝国〉の歴史だ。
今でこそだいぶ領土は少なくなったが、昔は世界の殆どが〈帝国〉の一部だった。
僕たちは、あまり良くないものを見つけてしまったのかもしれない。
だけど、隠し通すことはできないとガラリアは判断したのだろう。
と、僕たちは歩きながら壁画の文字を読んでいく。
「裏切り者が、奪ったものを」
「我らはやがて取り戻す」
「我らはやがて、訪れる」
「ここは、我が聖堂」
「再び生まれ落ちるために」
「我らはお前を取り戻す」
「始まりの[ロード]の名の元に」
「世界を再びごめんリゼル氏ここ読めない」
「ああもう!」
リアルでずっこけそうになったの初めてだ……。
冒険者たちも頭を抱えている。
「先生ってこれだよ……」
「見栄はるから……」
「ほんっとあるんだよなぁこういうとこ」
冒険者たちがぼやくと、ガラリアは顔を赤くして憤慨した。
「な、なにおうキミたち!」
「別にこんなん読めなくたって嫌いになったりしないっすよ……」
「今更っすわ先生」
「むむう……。じゃあリゼル氏読んで」
……案外良い関係なのかもな。
「では読みますね」
と僕は壁画の[古代文字]を翻訳するも――。
あ、あれ、読めない。
ここだけ読めない、何故だ?
いや待て、ここだけじゃないぞ。
この続きもところどころ読めないところがある。
これは――。
「って文字欠けてるじゃないですか、そりゃ読めませんよ」
「むむっ!……確かに良く見たらこれはもう文字じゃなくて破片だ」
そしてどうやら、先に進むにつれて損傷は激しくなっているようだ。
「褒めてつかわそうリゼル氏。さあ続きはボクに任せたまえ」
だが、結局まともに解読できたのはここまでだった。
後は文字どころか壁画もボロボロで、少しずつ足場も悪くなっていく。
やがて、草が生い茂った区画にたどり着いた。
「こりゃひでえ」
と冒険者が呻く。
壁はもはやボロボロで、壁画は完全に砕けている。
いくつかの柱はへし折られ、樹木に侵食されていた。
ガラリアも周囲をキョロキョロと見渡す。
「んー、何か明るいぞ。これ外の光漏れてないか?」
奥は、行き止まりだった。
しかし――。
「リゼル氏や、キミはこれをどう見る」
ガラリアの視線は、巨大な壁一面に描かれた世界地図に注がれている。
あの、僕を頼りすぎじゃないですかね……。
僕だってわからないものはわからないんですけども。
流石にここで嘘はつけず、僕は素直に言った。
「……わかりません」
「なんだわからんのか」
「…………ガラリアさんは?」
「ボクもわからん」
「こんにゃろ……」
思わず心で思ったことが口に出てしまった。
「おそらく壊れた石碑やら壁画やらにヒントがあったのだろうが……」
「とにかく色々探して見ます?」
「おー、リゼル氏地道だね。でもボクらの基礎はそこにある。やろうとも」
そうして僕は冒険者たちと全員で手分けして、周囲の探索や採取作業開始した。
※
腰が痛い。
だがようやく部屋をくまなく探し、いかにも怪しい割れたプレートを見つけることができた。
プレートは三枚に割れていたが、破片はここに三つある。
「ねー、ここにくぼみあるんだけどさー」
どうやら探索をサボってたルグリアが巨大な地図の下に何かを見つけたらしい。
「リゼルさん、はめ込んでみましょう」
と、エメリアが僕の背中を押す。
ガラリアが皆に向けて言った。
「よおーし。一応戦闘準備はしておくんだぞー」
皆がそれぞれ武器を構え、陣形を作る。
「では、はめ込みます」
僕は三つに割れたプレートを一枚ずつくぼみにはめ込んでいく。
途端に、壁の巨大な地図が輝き出した。
巨大な地図には、九つの光の点が見える。
そのうちの一つは、〈サウスラン〉の更に東にあった。
隣にいたルグリアが、低く呻いた。
「え、〈世界樹の里〉だ……」
見れば、ルグリアたちの故郷にも光があった。
巨大な壁の地図がもう一度輝く。
すると、九つの内四つの光の場所は、〈帝都〉に変わっていた。
まだ〈サウスラン〉の東も、〈世界樹の里〉の光も残ったままだ。
やがて壁の地図の輝きが収まると、床の一部がゆっくりと動き始める。
「リゼル君!」
僕はルグリアに手を引かれ、慌てて後ろに下がる。
「お、おいあれ……」
割れた床の中心から、一つの石碑がせり上がる。
石碑の蓋が自動的に開けられる。
中には、花に覆われた灰色の全身鎧が葬られていた。
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