第25話 甥と叔父
「解呪してくれた方ですか?」
「あぁ……」
呪いがかけられていたことは、今後の東条家の調査で判明するだろう。
しかし、自分は魔力を使用できるようになっている。
つまり、何者かの手によって解呪をしたということだ。
警察側としては、確実に自分が呪われていたことを証明するために解呪した人間からの証言が得たいのだろう。
そうなると、幸隆としては困ったことになる。
正直に、「自分しか入れないゲームの中で解呪しました」なんて言える訳もないからだ。
「久岡家の方にお願いしました」
答えようがないはずの幸隆だったが、平然とした表情で刑事の四谷に返答する。
「……なるほど、久岡家か……」
久岡家。
ダンジョンができた創成期から、代々探索者として活動している東郷家以上に有名な一族だ。
その一族の中には呪術系の能力者も存在していて、解呪の仕事も請け負っている。
そのため、四谷も解呪したの家の名前を聞いて、納得したように頷いた。
「でも、資金の方はどうしたんだい?」
「……両親の保険金を使いました」
久岡家に頼んだのであればたしかに解呪は可能だが、それには結構な値段がかかる。
探索者ならばダンジョンで魔物退治をして資金を集めることはできるだろうが、普通の高校生が出せるような金額ではないはず。
そのことが気になった四谷の問いに、幸隆は少しの間を空けて返答した。
「っ! ……?」
「……えぇ、この子の両親は去年の夏に事故で……」
幸隆の返答に驚き、気まずそうな表情をした四谷は、確認をするかのように保護者である一樹に目を向けた。
目が合った一樹も、四谷が言いたいことが分かったらしく、若干言いにくそうな表情をしながら返答した。
「……すいません。少々お待ちを……」
一言告げると、四谷は席を立ち、部屋から退出していった。
恐らくだが、久岡家に確認の電話でも入れに行ったのだろう。
「……幸隆。どうして呪われていたことを黙っていたんだ?」
四谷が出て行き、部屋は幸隆と一樹の二人だけになった。
少しの時間沈黙が続き、意を決したように一樹が口を開いた。
自分は亡くなった兄夫婦のためにも、一樹は甥である幸隆を一人前になるまで見届けることを決意した。
兄夫婦と共に事故に遭った幸隆は魔力を使えなくなってしまい、夢だった探索者としての夢までも失ってしまった。
それでも、幸隆はいつか魔力が元のように使えるようになることを願って懸命に努力を続けていた。
両親を失い、夢も絶望的だというのに諦めずに努力を続ける幸隆に、一樹は叔父として誇らしかった。
結局2学期が終わっても魔力が回復することはなく、退学になってしまったと聞いた時は、どんな言葉をかけてやれば良いのか分からなかった。
事故によって魔力は失ったが、幸隆には料理の才能がある。
そのため、一樹は自分の店を幸隆に継いでもらうことを期待するようになっていた。
しかし、冬休みに何があったのか分からないが、突然使えなくなっていた魔力が復活した。
これで、幸隆はまた夢を追いかけることができる。
店の跡継ぎの話は諦めなければならなくなるが、幸隆が好きな道に進むことができるのだからと、すぐに諦めがついた。
それなのに、またすぐに幸隆に問題が起きる。
学校の試合で対戦相手が不当な行為をして、警察沙汰の事件へと発展したことで、ようやく今幸隆が魔力を使えなくなっていたのかが分かった。
一樹としては、呪いを掛けられていることが分かった時点で、相談してほしかった。
そんな思いから、幸隆へ問いかける声は若干重くなってしまうのは仕方がないことだ。
「……ごめん。叔父さんには完全に治ってから報告しようと思っていたんだ。それに、呪いを依頼した人間が誰だか分らなかったから……」
「……そうか」
問いに対し、幸隆は申し訳なさそうに謝る。
叔父が腹を立てるのも仕方がないことだ。
しかし、犯人が誰だか分からなかったため、解呪したことが分かれば何かしら仕掛けてくる可能性があったし、再度呪いを掛けられることすら考えられた。
叔父に治ったと言ってまた魔力が使えなくなったら、ぬか喜びをさせてしまうことになる。
そうなることを回避するために、言わなかったというより言えなかったというのが幸隆の本音だ。
「しかし、解呪に兄さんたちの保険金を使うなんて……」
解呪するには相当な金額がかかることは、探索者ではない一樹でも分かっている。
高校生の幸隆がその資金を用意するとなると、兄夫婦の残した保険金を使うしかないのは分かる。
しかし、それは幸隆がこれから先、学費や生活のために使用して欲しいと思っていた。
幸隆も、両親のためにそうした方が良いと考えていたはずだ。
それなのに、その保険金を使用するなんて思ってもいなかった。
「……それもごめん。額が額なだけに言い出せなくて……」
解呪にはかなりの金額が必要となる。
その金額を、叔父に頼むのには気が引けた。
だから、相談することができなかったのだ。
「……仕方がなかったとはいえ、残念だ……」
兄夫婦の代わりになれるとは思ってはいないが、攻めて困っている時には役に立つ叔父でいたいと一樹は思っていた。
しかし、呪いが掛けられていたことも、解呪する資金に関しても幸隆から相談がなかった。
幸隆が困っていたというのに気付くことも出来ず、その手助けができなかったということだ。
そのことが悲しく、そして悔しくて仕方がなかった。
「……ごめん」
「いや、謝らなくていい。頼りない俺が悪かったんだ……」
「そんなことないよ! 叔父さんにはいつも助けてもらってる!」
再度謝った幸隆に、一樹は首を横に振って自嘲気味に答える。
その答えを聞いて、幸隆は強めに否定する。
両親を亡くしてから、叔父はずっと自分を見守ってくれていることに感謝している。
高校生だというのに独り暮らしを許しているし、バイトに関しても融通を利かせてくれている。
もしも呪いに気付かず退学をしていた場合、叔父の店で働くのも良いかもしれないと思えた。
両親を失った悲しみに沈みこまずにいられたのは、一樹がいてくれたからだというのは間違いない。
「じゃあ、何で……?」
「いつも助けてもらっているのに、更にっていうのはできなかったんだ」
助けになっているというのなら、今回も相談してくれても良かったのではないか。
その思いから、一樹は幸隆へと問いかける。
それに対し、幸隆は言いずらそうに思っていたことを口にした。
「……そんなこと気にするな。俺にならいくらでも迷惑をかけていい。お前は大切な甥っ子なんだから」
「叔父さん……。ありがとう」
これまでも助けてきたなんて実感がない。
だから、今回も相談してくれてかまわなかった。
その思いを口にした一樹に、幸隆は嬉しい思いが高まり、感謝の言葉をかけた。
「お待たせしました。久岡家に連絡した所、確認が取れました」
幸隆と一樹の会話が一段落した所で、部屋の扉が開く。
まるで見計らっていたかのように、四谷が部屋へと入ってきたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます