第24話 その後
「まず初めに、東郷の退学が決定した」
東郷との試合が終了して1週間が経過した朝のホームルーム。
担任の鈴木からこのような報告があった。
『だろうな……』
予想通りの報告に、肘をついて聞いていた幸隆は心の中で納得していた。
この1週間、幸隆の周りは騒がしかった。
校内の試合で不正が起きたため、警察による犯人捜索が開始された。
試合用の魔石をすり替えた犯人は、すぐに捕まった。
鈴木が指摘していたように、学年主任の山口だ。
最初、警察署に連行された山口は言い逃れしようとしていたが、東郷が使用していたのと同等の魔石を山口が購入していた証拠はすぐに掴めた。
証拠を突き付けられ、山口は観念して罪を自供した。
どうやら、ギャンブルの大損による借金の返済を理由に、東郷家から魔石すり替えの指示を受け入れたそうだ。
「山口先生の供述により東郷家への捜索も開始された」
魔石すり替えの犯人は決定した。
次に、警察の捜査はそれを指示した東郷家へと向かう。
「東郷も犯行に関与していたことは明白。退学は致し方ないことだな」
魔石の魔力量を知っていないと、あのようなことはできなかった。
つまり、東郷も黒。
攻撃を回避できたから良かったものの、もしも直撃していたら最悪の場合幸隆は死んでいたかもしれない。
殺人の容疑も含め、東郷は今後も聴取されるそうだ。
「東郷君は何で幸くんにあんなことをしたのかな?」
「……さあ?」
東郷に狙われた理由を亜美に尋ねられたが、それは幸隆も知りたいところだ。
これまで東郷と揉めたことはない。
誰かに命を狙われる理由を考えると、少しまで掛けられていた呪いのことだ。
ゲームマスターの松山が言っていたように、自分に呪いをかけたのはこのクラスの人間の可能性が高く、永田との試合を見て呪いが解けていることは気付いたはずだ。
そんな時に試合が決定したため、もしかしたら東郷が呪いをかけることを依頼したのかもしれないと考えていた。
そうなると、試合中に何か仕掛けてくるかもしれないと思っていたが、魔石の魔力を無駄遣いしない戦いをして正解だった。
最後の攻撃を躱せていなかったら、自分が大怪我を負っていた。
怪我だけで済めば良いが、最悪の場合死んでいたかもしれない。
「動機なんかはこれから分かるんじゃないか?」
「そうだね……」
恐らく呪いが関係しているのだろうが、そもそも呪いをかけた理由までは分からない。
そこらへんは警察に任せるしかないだろう。
そう結論を出した幸隆と亜美は、そこで会話を終えた。
◆◆◆◆◆
「ひとつ質問させてもらえるかい?」
「どうぞ……」
東郷逮捕から数日経ち、幸隆は叔父の一樹と共に警察署へと来ていた。
会議室のような場所へ案内されて椅子に腰かけた幸隆たちは、テーブルを挟んで対面する今回の事件の捜査員である四谷という刑事と話し始める。
「東郷修治がある自供をしたんだけど……」
今日警察署に呼ばれた理由。
それは、事件直後も事情聴取を受けたが、被害者である自分から他にも聴取したい事案が出てきたからだという話しだ。
早速話し始めた四谷だが、幸隆としては何を聞きたいのかはある程度予想できている。
「呪いをかけらえていたというのは本当かい?」
「っっっ!!」
案の定、呪いに関する話だ。
どうやら、捜査をおこなっているうちに、警察も呪いのことに行きついたらしい。
四谷の問いに対し、一樹は目を見開いた。
「幸隆……?」
自分の甥が呪いをかけられていたなんて、全く気づきもしなかった。
そのため、一樹は真偽を求めるような目で幸隆のことを見つめた。
「……はい。間違いありません」
「そんな……」
問いかけられた幸隆は、正直に返答する。
それを聞いた一樹は、信じられないというような表情で頭を抱えた。
「そうか……」
幸隆の証言を受けて、四谷はやはりと言うかのように頷いた。
東郷修治の自白により、今回の事件には東郷家が関与していたことも明るみになった。
そして、修治への更なる聴取で幸隆に呪いをかけていたことが判明し、その呪いが解けたことによって、今回試合で不正をおこなったという話だ。
「彼は最悪のことまで企んでいたようだから、そうならなくて本当に良かったよ」
四谷の背う命によると、東郷が不正を行った理由は、呪いのことを言いふらさせないための幸隆への警告。
場合によっては、口封じしてしまおうと考えていたそうだ。
罪を隠すためとはいえ、そこまで考えていたことには怒りよりも戸惑いの方が浮かんでくる。
「あの……」
「んっ?」
「東郷は何で俺に呪いをかけたのか言いましたか?」
「あぁ……」
解呪でき、昔のように魔力が使用できるようになった今、幸隆としてはどうして呪いをかけられたのかが知りたかった。
そのことを尋ねると、四谷は言いにくそうに表情を曇らせた。
「どうやら、彼が好意を寄せていたクラスメイトの女性が、君と仲が良いことが許せなかったらしい」
「……はっ? そんな事…で……?」
「私も信じられないが、それが君に呪いをかけた理由だそうだ」
東郷が好意を寄せていた女性と言うと、それは恐らく亜美の事だろう。
他の女子とは違い、亜美は東郷に全く関心なかった。
それが、仲の良い自分のせいだとでも思ったのだろうか。
自分と亜美は幼馴染だが、別に付き合っている訳ではない。
亜美が東郷に関心がなかった理由を、勝手に自分のせいにされては溜まったものではない。
というか、そんな事で呪いをかけるなんて頭がおかしいのではないか。
法律上、呪いは裁判で有罪にならなかったのは昔のことだ。
ダンジョンができてから、呪いをかけることができるようになったことから、重罪認定されることになった。
そんなことは、高校生にもなったら分かっていることだ。
予想外の説明に、幸隆は唖然とした様子で声を漏らす。
四谷としても、その反応になる気持ちは理解できるらしく、渋い表情で頷いた。
「東郷家が関与していたことは明白。更なる裏付け調査もおこなうつもりだ。だが、それはひとまず置いておいて……」
幸隆に呪いをかけることを依頼するにしても、相当な金額が必要となる。
いくら東郷家長男だからと言っても、とてもではないが東郷修治だけで出来ることではない。
東郷家の人間が関わっていることは確実だ。
それがどれだけの人数になるのかなど、警察としては今後も調査する所定だ。
それを告げた四谷は、続いて気になることを訪ねることにした。
「君の呪いを解呪したのは誰かな?」
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