第26話

「おお! もうここまで絞り込んでいたのか! 凄いな!」

 ディスプレイに移っている名前を確認しながらユウジはレイを褒める。おそらく彼女は聞き込みと同時進行で新しい情報や裏が取れ次第、アリバイのある教師の名前を削除していったのだろう。150人近い教師陣のカリキュラム全てを把握していなければ、これほど早くリストは作れない。さすがIQ180である。

「ああ、二人で学園中を歩き回った成果だな」

「しかし・・・モ、横山先生も入っているのか」

 レイの労いを受けながらもユウジはリストの気になった点を指摘する。彼女が提示したリストの中には二人の担任である横山も含まれていたからである。他にも高等部二年の授業を担当する科学の本田、漢文の及川の名前もあるが、やはり自分達の担任が容疑者に含まれているのは良い心地がしなかった。

「うむ、私達としては心苦しいことだが、横山先生の名前も含まれている。・・・もしかしたらあのお色気過剰女教師には生徒達の知らない秘密があるのかもしれないな!」

「・・・ああ、女子のレイからも横山先生はそういう風に見えるんだ?」

 口では心苦しいと言いながらも、レイは歯に衣着せることなく横山に関して言及し、ユウジも苦笑を浮かべながら相槌を打つ。

「ああ、彼女は気さくで面白いし、授業もしっかりやってくれるから頼りにもなるが、女性としての魅力をアピールし過ぎる向きがあるな。・・・まあ個人の自由ではあるが、あそこまで胸の大きさを強調することはないと思うんだ」


「・・・」

 横山に対するレイの評価を受けてユウジは反応に困っていた。レイは街ですれ違えば、男の97%は振り返るに違いない美少女だが、胸のボリュームについては平凡である。以前、靴被害者の一人である保井に対して自分にはない魅力を持っていると褒めたことからも、彼女なりにそれを気にしていることが窺える。ユウジは何と答えれば正解かわからなかったのである。

 正直に言えばユウジも大多数の男子と同様に胸の大きな女性が好きだった。だが、この事実をそのような特徴を持っていないレイに正直に伝えても良い結果にはならないだろう。そして、本心を隠して〝俺はおっぱいの大きさは特に気にしていない〟などと言っても勘の鋭いレイには通用しないのである。とはいえ、このまま黙っているのも不自然だった。

「お、俺は・・・レイのプリっとしたお尻も好きだぞ」

「ぶっ! ははは・・・プリって! ははは・・・さすがにこの答えは想定外だったよ! それは完全にセクハラだ! ユウジ!」

 苦渋の選択で導き出したユウジの答えにレイは珍しく噴き出しながら笑い出す。ここまで本気で笑う彼女を見たのは初めてだった。

「いや、今のなしで! つい出てしまったんだ、許してくれ!」

 ユウジもたった今出した言動が、色々な面でアウトであることを悟ると顔を赤く染めながら取り消しと謝罪を告げる。

「ふふふ。まあ、先にカマを掛けたのは私だから、気にはしないけど・・・。やはり、ユウジは後ろから着いて来る時は毎回私の・・・プリっとしたお尻を見ていたんだな?」

「毎回とは言わないけど・・・見ていたのは否定しない。って言うか、また俺をからかったんだな?!」

 セクハラ発言を謝ったユウジだが、レイの余裕ある態度からその真意を知ると今度は軽い怒りを込めて問い質す。

「そう怒らないでくれ、ユウジ。私も思春期の女子だから、胸部の発育は気になっているんだ。・・・まあ、君が私のお尻の魅力に気付いてくれていて嬉しいよ。そっちは私も自信があったからな!」

「自信があるんかい!!」

 レイの返答にユウジはお約束とばかりに突っ込みを入れる。急に話題が飛んだり、本気か冗談なのか解かりづらいからかいを交えてきたりするレイとの会話だが、この程度で参っていては彼女の相棒は務まらないのだ。

「もちろんだ。自分で言うのも何だが、程よい大きさでありながらプリっと引き締まったこのお尻・・・いや、このプリケツは中々だと思うぞ!」

「確かにレイの・・・いやいや、もうその手に乗らないぞ! と、とりあえず俺達がやるべきことは、アリバイのないその12人を重点的に調べることかな?」

 レイはユウジが苦し紛れに引用した比喩が気に入ったらしく〝プリケツ〟と新しい言葉を作りながら自分のお尻を自画自賛する。それに乗りそうになったユウジだが、大きく脱線していた話を再び本題へと戻した。

「・・・そういうことだ。可能なら通信履歴や学園に設置された防犯カメラの映像を調べたいところだが、我々の立場では視ることは出来ないし、これらに充分な証拠があったのならば学園側が既にデータ漏えいの犯人を特定して捕まえているだろう。それらしい気配がないのは手掛かりがなかったということだ。他にやるとすれば・・・とりあえず、最近の警備状況を調べてみるか!」

 一瞬だけ残念そうな顔を見せたレイだが、直ぐにポーカーフェイスを取り戻すと問い掛けたユウジに自身の見解を告げる。


「警備状況?」

「ああ、ユウジ。この学園内では許可された電子機器しか持ち込めないし、端末に至っては指定の物しか使えない。更に通信ネットワークは学園の機材を経由して外部と繋がっている。盗んだデータをネットワークで送ればデータ量やパターンから必ず学園側に発覚する。おそらく犯人は学園内で売られている認可された空のメモリーカードか、外から投げ入れられたそれらにデータを容れて、既に物理的に学園外に持ち出したはずだ」

「ああ、そうか・・・この学園は外部からの侵入も難しいけど、非合法に外に出る、出すも難しいのか。しかし、その辺は学園側も既に調べているのは?」

 理由を聞かされたユウジは納得するが、当然とも思われる指摘を行なう。

「もちろん、既に調べていると思われる。でも、容疑者を12人まで絞れたのは我々だからだよ。学園側は靴の盗難事件と漏えい事件の犯人が同一人物あるいは共犯関係にあるとは気付いていない。おそらく一部の幹部を除いた教職員と生徒は全て容疑者だろう。更に内密に調べる必要があるから慎重になっているはずだ」

「実は俺達の方がかなり先行していたのか・・・」

「そういうこと、やるからに学園よりは先に犯人を見つけたいだろう?!」

「もちろん!」

「じゃ、もう一仕事やりに行こう! ああ、今日は私が出すよ」

「では、お願いするよ、ありがとう!」

 今回のカフェの支払い役を買って出たレイにお礼を告げるとユウジはカプチーノの残り飲み干した。

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