サハギンのボスとイリスの覚悟
──勝てない
そう目の前の魔物を見て最初に思った。
明らかにさっき戦ったサハギンとは強さが違う。
図体だけではない。さっき受けた攻撃だけで俺は動けなくなってるしな…。
「リョウガ!大丈夫!?」
イリスが今も回復してくれているお陰で少しは動けるようになってきたけどね。
「大丈夫…とは言えないけど…身体は動くよ。
…どうするイリス?二人でやるか?」
「ごめん、今のままの私だと二人で挑んでも勝てない…かも…。」
イリスが悔しそうに顔を歪める。
…?今のままならってどういうことだ?
イリスの言葉に違和感を覚えるがその考えはユキの一言でどこかにいった。
「お兄様…魔物の手に持っているのは…なんですか…?」
…手?…あれは人!…いやでもあの
「…魔族?」
しかも子供だ。年齢は…ユキと同じ位だし8歳くらいか?
実際に魔族を見たことはない。しかし頭に角があるのは魔族特有のものだったはず…。
「アァ、ミラレチマッタカ。」
今までこちらの様子を伺っていた様子のサハギン(?)がこちらに喋りだす。
「オタガイニ、ミナカッタコトニ、シナイカ?
オレノ、ブカヲ、タオシタナラ、タタカウノモ、メンドウダ。イマ、キエレバ、ミノガシテ、ヤル。」
聞き取りづらかったが言っていることはわかった。
今、逃げ出せば俺達は全員生きてここから帰れるだろう。でも…
「リョウガどうする?
私はその判断にしたがうよ?」
イリスは僕の判断を待ってこちらを見ている。
でも俺はイリスの目は、別の何かを期待されているような気がした。
俺は───
「イリス。ごめん。」
───俺の我儘を突き通す。
「あの魔族の子供を助けたい。」
見て見ぬ振りは出来ない。ここで見逃したら後悔すると思うから。
「あの子は魔族だけどそれでも助けたいの?」
魔族なのに助けるの?ってことか?確かにこの世界の常識では魔族は悪い奴みたいな印象を未だに受けてるらしいけど。
「種族の違いなんて関係無い。子供が捕まってるんだ。何があったか知らないけど助けてあげたい。」
女神様も言ってたしな。
見た目だけで決めちゃいけない、中身を見て決めろって。
人間だってスキルだけで迫害されるようなこともあるんだしな。
イリスは俺の言葉を聞いて再度驚いた顔をしたと思ったら、嬉しそうな顔をして…何か覚悟した目になった。
「リョウガ…貴女の気持ちはわかったわ。」
「じゃあ一緒に戦っ──「でも」」
僕の声をさえぎってイリスが言葉を続ける。
「今のままの私達じゃあいつに勝てても、あの魔族の子供を無事に助けることは出来ない可能性の方が高いよ?それでも助けたい?」
冷静に考えてのことだろう。…それでも。
「助けたい。魔物に何かされるくらいなら…。少しでも可能性があるなら助けてあげたい。」
イリスは俺の答えに満足したのかこちらを向いて笑顔を見せた。
しかし次に出てきた言葉にはこちらが驚きを隠せなかった。
「わかった。…じゃあリョウガは手を出さないでね。」
それって一人であいつと戦うってことか!?
「いくらお前でも無理だろ!さっきも勝てないって…。」
「今のままだとね…。リョウガ…お願い…今から見せる私を見ても逃げないでね…。」
少し怯えた表情を見せると、その言葉を最後にイリスの姿が俺達の前から消えた。それと同時にサハギンの方から何か重いものが落ちる音がする。
音のした方を見るとそこには元々サハギンであった物だと思われる、首から上がなくなっている物と、イリスの姿があった。
ただ少し違うのはイリスの頭から魔族に生えているものとはまた別の青い角が生えている。着用していたワンピースから見える腕や足には、同じく青い鱗のような物が見える。
それにあれはなんだろうか?イリスの回りに…オーラとしか言えないようなものまで見えるのだ。
何が起こったか全く理解が出来ていない僕達にイリスは出会って最初の頃のように怯えた姿で言った。
「私も人間じゃないの。…ごめん。…今まで黙っててごめんなさい。」
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