イリスとユキ (イリス視点) 後編

「いいえ。真面目な話です。お兄様と一緒にそばにいてあげられる人を私はずっと探していましたから。」


少し悲しそうにそう告げるユキ。


「…どうして…そんな事を?」


リョウガと一緒にいてあげられる人?なんでそんな事をするのか私は気になってしまう。


「お兄様の…この国における今の状況を知っていますか?」


「…はい、リョウガからその話は聞いてます…。」


王族の恥として王族だけでなく国の住民からも、王としてふさわしくないと批判されている。


…リョウガがどれだけ頑張ってるのか知らないくせにっ!。


私が内心、怒りを覚えているとユキは控えめではあるが笑顔を見せる。


「…どうして、笑っているの?」


まさかユキも下らない連中のようにリョウガを笑っているのだろうか?


「…いえ、すみません。お兄様の為に怒ってくれる人がいるのが嬉しくて…。」


そう言って今度は本当に笑顔でこちらを見るユキ。


「そう…ですか。ごめんなさい。まさかあなたまでリョウガを笑ってるのかと…」


「いえ良いんです。そんな貴方にだからこそお願いしたいんです。」


「…リョウガと一緒にいることを?」


「はい。」


ここからはユキからリョウガがこれからこの国でどうなるのか教えて貰った。その中にはリョウガからまだ聞いてない話もあった。


まだ…といってもリョウガは元々教える気が無かった話だったのかも知れないが…。


一つは私が知っている通り、リョウガがこの国で嫌われていること。


二つ目はユキだけが知っているようでリョウガも知らないことらしく、リョウガのことをお世話している人達に限ってはどれだけ頑張っているかを知っているらしく、数人はこれからもリョウガに仕えたいということ。


そして三つ目がリョウガから教えられて無いことでリョウガが成人…15歳になると王族から追放されると言うこと。


最後の三つ目を知ったとき私はそれが本当だとは信じたく無かった。


だってそれは…


「…リョウガは追放されたらどうするつもりなの…?」


「お兄様は冒険者になって生活していくつもりだそうです。お兄様ぐらい強ければ確かにそれで暮らすだけのお金は稼いで行けると思うのですが…。」


「それは…この国で…?」


「…………」


ユキの沈黙が答えのようなものだった。私だって簡単に想像がつく。自分がこの国に嫌われている存在だとしたらどうするかを。


──リョウガはこの国を出るつもりなんだ。たった一人で。


確かにこの国で冒険者をする分には国の回りにいる弱い魔物を倒していれば生活は出来るのかもしれない。


しかし国から別の国に行くのだとすれば話しは変わる。いくらリョウガが強いと言ってもそれは同年代の中で突出して強いと言うだけで強力な魔物に出会った時点で…死んでしまうだろう。


…だったら、


「…そのリョウガの従者達は付いていくことは出来ないの…?」


「お兄様が気づいているかわかりませんがお兄様は基本回りにいる人物を信用していません…。昔から嫌悪され…差別を受けながら暮らしていくうちに

一人で何でも全部しようとなさるんのです…。

自分を嫌っていると思っている人が付いてくるといっても信じはしないでしょう。」


「…そっか。」


…本当にリョウガは一人でどこかに行かないといけないの…?

私が考えていたよりもリョウガの立ち位置は悪い。


…?でもどうして私なら?


「なら何で…どうして私にリョウガと一緒にいれるか聞いたの?」


──誰のことも信じれないんじゃないの?

そんな気持ちが私の言葉には込められていたのかも知れない。


答えはすぐに帰ってきた。


「…お兄様が貴方のことを楽しそうに話していたからです。」


──私のことを?


ユキはそのまま言葉を続ける。


「お兄様は自分がどんな状況に立っているかを聞いても未だに一緒にいてくれている、イリスさんと一緒にいることが楽しいとはっきりいっていました。私も…初めて見るくらいの笑顔で。」


話を続けて聞くとユキは、

「自分も一緒に付いて行きたい。けれど自分も王族で簡単には付いていくことは出来ない。」

と言っていた。


悲しそうな顔を見せたのはこれでリョウガとお別れなんかしたくはないからだろう。


「そんな時に貴方のことを聞いてせめてお兄様の心の支えになって欲しいと思いました。お兄様にも話さず、自分勝手で我儘なお願いだとは思いますが、その事を伝えたくて貴方に会いに来ました。」


…これが今のユキさんが出来る最大限のことなのだろう。兄さんの力になりたい。でも私では出来ないからと必死に考えてのことだろう。


──私は…どうすれば…。


考えている私を見てユキが言葉を続ける。


「お兄様がこの国を出るのにあと4年と数ヶ月あります。その時までに答えを出してくれれば良いですよ。無理にとは言いませんので。」


──彼の妹、家族が真剣に話してくれたことだ。だから、こちらも誠意を持って──


「わかりました。それまでには…またお話しますね。」


「…本当にありがとうございます。」


私からしてもこんなことでリョウガと離ればなれになるのは不本意だからね。


そんなことを考えているとユキがからかうような笑顔を向けてくる。


「それに…イリスお姉様もお兄様を嫌いではなさそうですしね。いやむしろ好意的な…。」


「なっ何を!」


「いえ…正直ゆくゆくはお兄様と名実ともに家族になって貰えれば嬉しいんですけどね? お姉様?」


えっ!それでお姉様っていってたの?


「いや…でも私はっ!。…というか遠慮しなくなりましたね…。」


「お兄様には幸せになって欲しいので遠慮はしません。それに自覚して貰えればお兄様のことをもっと大切にしてくれるでしょう?」


ユキは悪い顔をしている!本当にこの兄妹は…。


……でも確かに私にもリョウガに向ける感情の中にまだわからない感情があるのも事実だし…。


…この気持ちが恋なのだとしたら前向きに考えておこう…そうひっそり心の中で決めた。


もし私が本当に恋していても伝えることは出来ないけど初めての感情だから。


そう自分に言い訳して。


さっきまでの真面目な雰囲気はどこにいったのやら…。この後私とユキはリョウガの話で二人盛り上がった。


…どんな話で盛り上がったかリョウガに聞かれたがまさか二人してこっそりリョウガを見ていた話で盛り上がっていたなど…いえるわけがないのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


(作)前半と後半で話の長さが…。


このお話は少し手直しするかも知れないです。

わりと大事なお話なので…。

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