第6話 『あらまし~Summary of the case~』
中央に備えられた巨大モニターに、『実験室Z』の映像が映し出された。
初見で見たその様子は、核実験場を連想させるような、ぶ厚い四方の壁と、中央に位置する強化ガラス越しに見えるなにかの大きなカプセルのようなものでした。
近代的な手術室のようなそのカプセルの中に、手術支援ロボットなのかと思わせるアームや導線がたくさんあり、SF的なイメージでした。
「このカプセルルームの中の映像を映し出ますので、御覧ください。」
アンドロイドのエウプロシュネーがそう言って、カメラをカプセルルームの中へと進ませていく。
まるで、その中に実際に進んでいるように思えるそのカメラワークは、高画質の立体的視点の映像だからなのでしょうね。
私は遊園地にあるアトラクションでの3D映像による体感型VRシアターアトラクションを思い出した。
巨大ダイオウイカやマッコウクジラのいる深海を旅するとか、失われた恐竜ワールドを体験するとか、そういったものです。
けっこう、好きなのですよね……。
そんなことを考えていると、映像は進み、カプセルの中を映し出した。
……!?
「あ、あれは……!?」
「ほぉ……?」
「ああ、我がR.U.R.社の最新傑作が……、こんなことになっているとは……。」
「ヴィクター博士……。」
それぞれみなさんの反応は違いましたが、映し出された光景に私も驚きを隠せませんでした。
血まみれの博士が倒れ伏しているその横に、非常に美しいギリシャ彫刻を思わせるような『人間』が立ってこちらを見つめていたからです!
一言でいうと……、イケメンすぎる!!
というか、誰ですか!?
そして、その美しさとは対象的に、足元に転がる見にくく歪んだ顔の男の死体……。
一枚の絵画のようなその対比構造の映像に、みなさん息を飲んだのでした。
「みなさん、倒れているのが我が『フランケンシュタイン研究所』を代表する博士、ヴィクトール・フランケンシュタイン博士そのひとであり、その隣に立っているのがそのヴィクター博士渾身の最新傑作アンドロイド……、アダム・フランケンシュタインズ・ワーカー。通称『アダム』……でございます。」
ハリー所長がそう言って、モニターを指差しました。
「そう……。完成していたのですね? ヴィクター博士の最新傑作が……。」
「はい。ヘレナ社長。このことはまだヴィクター博士とメアリー博士、そして、私だけのトップシークレットだったのです。性能を確認してからそのデータとともに本社へ報告させていただく予定でございました……。」
「そうか……。」
「ハリー所長! こういう件は私にも報告が必要じゃあないですか?」
ブスマン・コンサル領事は共有者に含められなかったことに不服そうでした。
「ブスマン領事……。これは権限3までの機密事項なのですよ? 正当なルールですよ……。」
「な……!? 権限3……か。くっ……。わしは権限4までしか与えられていない……。」
ブスマン領事はうつむいてしまった。
ブスマン領事や助手さんたちは、権限4なのです。
そこに、大きな壁があるのでしょうね……。
「ふむ。権限のことはいいでしょう。それよりも、あの倒れている者はヴィクター博士そのひとで本当に間違いありませんか?」
「え……? コンジ先生、それってどういう意味ですか?」
「言った通りの意味さ。誰もまだ『実験室Z』の中に入れないのならば、あの死体らしき物体が、ヴィクター博士そのひとかどうかはどうやって確かめたと言うんだい? さらに言うならば、アレが人間の死体かどうかも確かめられないのじゃあないかい?」
はっ!?
たしかに……、コンジ先生の言う通りだわ。
誰も入ることができない密室の中に倒れている物体が、人間の死体であるかどうか?
それは確証がないことだわ。
「それはワタシからご説明させていただきますわ。」
コンジ先生の質問に応えたのはアンドロイドのタレイアでした。
「この『実験室Z』の中の様子は、マザー・コンピュータである『モノリス』が高解析度ですべて映像分析ができます。この死体の指紋、瞳の虹彩、身長・体重などからすべての分析値がヴィクター博士そのひとであることを示しております。よって、あの死体はヴィクター博士で99.99%の精度で間違いありません。」
タレイアはきっぱりと断定をしたのでした。
もう一度、モニターの映像に注視する。
美しい彫像のような『アダム』の手に血がついたナイフが握られている。
ヴィクター博士が血まみれになっている理由は、『アダム』が持っているナイフで傷つけられたものなのでしょうか……?
「死因まで分るのか!? そのぉ~……、つまり、『実験室Z』の中にはまだ事件発覚後から誰も立ち入りしていないということだな?」
ムラサメ刑事が改めて状況を確認する。
「そうですわ。『実験室Z』には、現在においても誰も立ち入ることができません。」
エウプロシュネーが答える。
「死因は出血死でございます。死亡推定時刻は、2日前の深夜未明……。凶器はその形状と血痕の解析から、『アダム』の所持しているナイフと断定いたしました。」
アグライアーがさらに補足する。
「……ということはだね! その『アダム・ワーカー』が犯行に及んだというのかね!?」
ムラサメ刑事が結論を急ぐ。
だが……。
「そうとしか……考えられない状況ではあります……。だがしかし、彼らアンドロイドには『ロボット三原則』がそのオペレーションシステム自体に組み込まれているのです。……『アダム』が犯行に及ぶことはあり得ないのです!!」
ここで、ヘレナさんが割って入ったのです。
ロボット三原則……って、いったいなに?
私がポカンとしていると、コンジ先生が呆れ顔で私にこう囁いてきました。
「君は『ロボット三原則』も知らないのかい? しょうがない。この僕が説明してあげようじゃあないか!?」
コンジ先生が奇妙なポーズで私の方に向かって指を差してきた。
「じゃあ、コンジ先生はご存知だったのですか?」
「ああ。もちろん。ロボットに組み込まれているA・I(人工知能)のプログラムの根本には基本的に『ロボット三原則』が組み込まれている。ロボット三原則とは以下の3つだ。」
「ああ。さすがはキノノウ様! よくご存知なのですね。」
ヘレナさんもコンジ先生に説明の場を譲るようです。
「第一条! ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条! ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条! ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。」
コンジ先生がみなを見回す。
つまり、『ロボット三原則』がある限り、ロボットが『殺意』を人間に対して向けることはありえない?
だけど、そのロボットが人間を殺めたとしか思えない状況である博士が死体で発見されたのです……。
今回は例外……でしょうか?
「なるほど……。不可能殺人……というわけか……。面白くなってきたじゃあないか!? なあ? ジョシュア。」
「ちっとも面白くないですよ! 人が殺されているのですよ? 不謹慎です! コンジ先生!」
コンジ先生は謎が難しくなればなるほど燃える人なのですよねぇ。
まあ、その黄金の頭脳に解けない謎はないと私は信じていますけど……ね?
~続く~
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あっちゅまん
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