ポトリ・16

「兄さん__兄さ・ん・・。」



慶さんは手帳をギュッと抱き締め


膝から崩れ落ち、細い背中を震わせ泣いている。



小さな小さな声でゆっくりと


手帳に囁き掛ける様に呟いた。



「兄さん・・貴方を____。

 貴方を、幸一さ..んと呼びたかった。

 貴方に伝えたかった・・“好き”と___。」




オレは、膝をつき慶さんをギューっと抱き締めた。



力強く。オレと幸一お祖父さんが


抱き締めている様に強く強く、力強く。




この腕で


オレの・・俺のこの腕で__________。




「慶さん・・慶之介____。泣かないで。」




オレは、オレと幸一お祖父さんの腕で、手で


慶さんの頬を、手の平で包み


柔らかく柔らかく、口付けした_______。






慶さんの唇に触れた瞬間________。





閉まっていたはずの書斎の窓とドアが


バタンっと開き、渦巻く様な突風が


オレ達を包み込んだ__________。



「___っっ。」



驚き、オレは慧さんを包み込み抱き締め


2人、瞳を閉じた。




バサバサとカーテンが風に揺れ


ドアがギィギィと音を立て、揺れている。




すぐに風は止み、


書斎には、静寂が‥戻る。




2人でゆっくりと瞳を開け・・驚いた________。



________っっ。




幸一お祖父さんの書斎の床は、


一面、椿の紅い紅い花弁で埋まっていた。




2人、抱き締め合い__呆然とした。




幸一お祖父さんの想いと


慶之介さんの想いが


交じり合った__そう、思った。



やっと巡り逢い、やっと結ばれた


永い、永い時間を掛けて・・やっと_____。






オレは急に___

慶さんを抱き締めているのが


恥ずかしくなって、パッと体を離した。



それは、慧さんも同じだったようで


2人して、俯き・・モジモジした。



「ご、ごめんなさいっ、慶さん・・

 その、あのー・・あれ。あのー

 く、口に、キッ、キスしちゃって..その。。」



「ううん、そんな。こっちこそ、

 ごめんね。年上なのに頼りなくって・・。」



「へへ・・。」「ふふ・・。」と2人笑い合って



「椿の花弁・・綺麗ですね。慶さん。」


「うん。とっても綺麗・・。」




オレは、慶さんを見つめ言った。


「慶さんに似合ってる、椿の花。

 とても..とても綺麗だ、慶さん___。」

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