ポトリ・8

____圭子おばあちゃんは


久し振りに会った慶さんを見て


肩を震わせて涙を流した。



「ご、ごめんなさいね、泣いちゃって・・。

 慶ちゃんが、あまりにも____

 慶之介兄さんにそっくりで・・。」




__慶之介・・?____




慶之介って、オレがさっき言った名前・・。


「えっ?!圭子おばあちゃんっ。

 け、慶之介兄さんってっっ??」




圭子おばあちゃんは涙を拭いながら


「あぁ、あのね。幸一兄さんの5歳下の弟よ。

 体が弱い人でね、若くして亡くなったの..

 本当に、慶ちゃんそっくりで、名前もね。

 慶之介兄さんは、兄さんとは対照的な人だったんだ。

 白くて細くて、繊細で綺麗な人だった___。」



おばあちゃんは、庭の方を


寂しげな瞳で見つめ



「庭の椿の木が好きでね・・。

 よく、あの木の下に居たのよ。

 __亡くなった時も椿の木の下で

 たくさん落ちた椿の花に囲まれて

 倒れて居たんだよ____。」




おばあちゃんは目を細め


あの時の光景を、昨日見た様に囁いた。



「不謹慎だけどね・・

 それは、それは・・美しくて・・。

 息を呑む程だったよ____。」





____夢の中の映像が、浮かんでは消えていく_____



白と紅と、あの人と__。




フゥーと震えた息を吐いた


おばあちゃんが目を手で覆い、話しを続けた。


思い出すことが、苦しいみたいに・・。




「とても__とても仲の良い兄弟でね。

 ・・でも、慶之介兄さんが亡くなった時

 幸一兄さんは、戦地へ行って居たの・・。

 だから、戦地から帰って来た幸一兄さんは

 それを知って、声を殺して悔しそうに

 泣いてたんだよ・・ずっと、ずっと__。」




おばあちゃんは、


オレと慶さんを交互に見ながら



「あの時代で、おまけに兄弟だった2人・・

 今になって思うんだ..2人は__2人は

 きっと、惹かれ合っていたんじゃないかって。」



震えた声で言ったおばあさんは、


手で顔を覆い、もっと苦しそうに言葉を吐き出した。



「ずっと、独身だった幸一兄さんの・・

 亡くなる前の言葉..私は今思い出しても

 胸が張り裂けそうになるんだよ____。」




おばあちゃんは、ゆっくりと息を吐き囁いた。




「『永かったな。・・君の分まで生きたよ。

 やっと、やっと君に逢えるよ___。 』って・・。」

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